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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第二部 騎士団の喫茶店

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ユラは新しい魔法書を、手に入れた!

 今日は喫茶店を開く前に、早起きした。

 必要なものを手に入れるためだ。


「ヘデル~ヘデル~。たしかこの辺にあったはず」


 畑の一画に私は来ていた。

 騎士団の城には庭というか広場が四区画ほどありまして、一つは飛びトカゲおよび竜用。二つは訓練用。一つは畑になっている。

 万が一の場合に自給自足ができるようにということで、畑を作っているらしい。その一画では鶏さんなんかも飼育されている。


 朝日がまぶしい青天の下、私はうろうろと畑の近くを歩き回っていた。

 畑の端、壁に近い場所にある木立の辺りだ。

 少しずつ暑くなってきているこの時期、木陰がとても心地よい……からというわけではなく、こういう木にくっついて生えているのだ。ヘデルが。


 わりと雑草扱いされがちな蔦、それがヘデルである。

 葉は一節に五枚ごと扇型に広がっている植物で、その葉を乾燥させてお茶にしている。庶民の味方の、労力さえあればタダで飲めるお茶の一つだ。


「よしまず一本」


 私は洗濯ものを回収するため使っている背負いカゴに、ナイフで切った蔦の一部をぽいと放り込む。

 山菜取りはお手の物だ。ユラとして生きていた間、人に関わらなければ平気な私は、町で何か協力するようなことがあると、必ず山で採取する方に回った。誰にも会わずに黙々と作業できるからだ。

 おかげで作業は問題なくできるのだけど、さすがに畑周辺でヘデルを回収するにも限界がありそうだ。


「森に入りたい……」


 きっと沢山あるだろう。

 大量生産の実験をするためにも、できればカゴ一杯に採取したいのだけど、畑周辺ではカゴに三分の一ぐらいがやっとのようだ。


「まずは思った方法で紅茶が作れるかどうかの確認をするから、この量でもいいけれど」


 どうにかフレイさんや団長様に頼んで、森に取りに行く許可をもらいたいものだ。そのためにも、ひっそり中級と上級の魔法を覚えて、単身で森へ行けるようにしたい。

 フレイさんに言ったら、絶対ついてきそうだけど……。


 と、そこで私は呼び止められた。

 畑にいる騎士さんや従騎士さんにも「何やってるんだあれ?」「さぁ?」と遠巻きにされていたのに。見ればイーヴァルさんだった。


「こんなところにいたんですか。というか……」


 側まで近づいてきたイーヴァルさんが顔をしかめる。


「あまり奇矯な格好でうろつくのはどうかと思うのですが」


「そうですか? 一般的な山菜採取スタイルなんですけれど」


 頭にはほっかむり代わりのスカーフ。手にはかぶれたり切ったりしないように手袋を。靴はしょうがないとして、衣服が汚れないようにエプロンはしている。あとは大きな籠を背負っているだけだ。

 あ、口元を覆っているのがいけないのかな。ほら、うっかり謎の花粉とか吸い込むといけないから。マスクみたいにしているんだけど。


「まぁいいです。とにかくちょっと、人目につかないところへお願いします」


 イーヴァルさんは嫌そうな顔で言う。なんだろう、言いにくい用事でもあったんだろうか。

 畑から少し離れた、建物の陰に回ったところで、イーヴァルさんが本を差し出して来た。

 なるほど、渡すのを見られたくなかったのか。


「これを届けに来ました。籠の中に入れてしまいますよ」


「ありがとうございます、って、草の汁で汚れます!」


 イーヴァルさんは私の返事を待たずに、ヘデルが入ったカゴに本を二冊放り込もうとしたのだ。


「でもその手も、本を持つには不適当では?」


「手袋くらいはすぐ脱げますよ?」


 なぜすぐ渡そうとするのだろう。ちょっと待ってほしい。

 私が脱いだ手袋とナイフをカゴに放り込むと、イーヴァルさんは本を渡してくれた。


「間違いなく二冊、届けましたよ」


「お手数おかけいたしました」


「リュシアン様の私費で購入された本ですと付け加えておきます。全く、どうしてリュシアン様はユラに甘いのか……」


「ええと、申しわけないです」


「もし魔法を覚えられたのなら、今度こそきりきり役に立ってもらいます……と言いたいところですが」


 イーヴァルさんがため息をつく。


「まぁ、先日の件にしても、クー・シーと戦わなくても良くなったのも、魔物が集まらなくなったのもあなたの功績ですからね。リュシアン様が個人的に褒賞を与えたいとお思いになるのは見逃します。むしろ公になにか渡してもいいと思いますがね」


 お、イーヴァルさんの態度がやわらかくなった。

 とてもありがたいことまで言ってくれているけれど、あまり大っぴらに褒められるというのも宜しくない気がするような……。


 なにせ今の状態なら「たまたまですよ」と言うことができる。「クー・シーもたまたま紅茶が好きだったんじゃないですか?」とか。

 でも公にご褒美をもらうと、私の紅茶についてちょっとした魔法薬に近いもの、以上の興味を引くことになるんじゃないかと。紅茶について広まるのは早くなるけれど……、あまりに大きい効果があると言う話が広まるのはちょっと控えたい。


 魔女という単語をすぐ連想することはないだろうけれど。魔物達にもかなりの効果があるかもしれないという話になると、国とかそういうレベルで変な気を引いてしまいそうだ。

 あげく精霊融合のことがバレて、騎士団から引き離されるのはごめんこうむりたい。


「いえいえ。たまたまですから」


 なので私はイーヴァルさんにそう言った。

 ともかく私はそれで作業を切り上げて、部屋に戻る。

 魔法書の内容を覚えられるかどうかは、ぱーっと開いてみればいいのですぐわかる。

 結果、中級・上級ともにオッケーだった。


「これで……戦える!」


 戦闘が得意ではない。ゲームみたいに画面の向こうの派手なエフェクトを見たり、数字でダメージを観測するのとは違うから。

 でも必要になる。


「まずはヘデル採取に使えるはずだし」


 自分で魔物を倒せるとわかれば、隙間時間に採取をすることだってできるし、フレイさん達の手をわずらわせることもなくなるだろう。

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