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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第二部 騎士団の喫茶店

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メイア嬢のお見送りをする日

「それほど楽なことじゃないと思うんだ」


 ソラは続けて言った。


「紅茶は君しか作れないだろう? おそらく近い味のものを作るのは、だれでもできるだろうけれど。君の魔力を使って、様々な効果が出るものは無理だよね。そうじゃなくても、広めるのなら君はかなり大量生産しなくてはならないよ」


 なるほど。お客さんの幅を広げた上、それ以外の人にも売ることを望んでいるらしい。

 確かにお茶だけを販売するとしても、販路が大きくなったらかなり大量に作る必要がある。今の煎って作る方法だと、間に合う気がしない。


「紅茶そのものをパッと作る研究をするしかない……のかな」


 たとえば茶葉の元になるものに、炎の魔法を使ってどうにかするとか。炙ったら一瞬で紅茶になったらいいんだけど。


「蒸す……なら大がかりなものが必要になるし。鍋に入れて大量に煎るか……」


 問題になるのは、巨大な鍋を仕入れることで、団長様に不審に思われないかということだろう。急にお茶を広めたくなりましたー、なんて言って納得するわけがない。何か理由をひねり出さなければ。


「赤いもの、基本になる葉。たぶん君のイメージするお茶に必要なのはこれだよね? そこに君の魔力を、炎や水を媒介にして加えることができれば、いつも通り精霊達が手伝えるようになると思う」


「え!? それなら……鍋を増やすぐらいでどうにかなるかも」


 それなら不審がられないはず。

 でも火であぶるのは難しい。いっそ蓋をして初歩の炎の魔法をぶつけてみるのもアリだろうか。でも鍋がすぐだめになりそう。


「それなら水……水か」


 水に魔力を移す方法はもうわかっている。それで紅茶を作る方法を考えられれば、火を使うよりもずっと大量に早くできるんじゃないだろうか。

 なにせ正規の作り方をしているわけではないし。魔法のおかげで紅茶の色と香りと味が再現できているんだもの。魔法らしい作り方を編み出すのもアリかも。


「でも、お茶を作ると魔力が上がるの?」


「君の紅茶師スキルが上がった方が、今後の対応が楽になるよ。それに後まで必要になる。魔力を獲得するにも、お茶が君には必要だろう」


「確かに……」


 クー・シーに手伝ってもらうのも、お茶を作って魔力を分けたからだ。


「よし、お茶をつくる」


 今後の行動方針は決まった。


「だけど意外」


「何がだい?」


 ソラが首をかしげる。


「私、ソラだったらきっと何か、魔力を補充できるクエストを紹介してくれるものだとばかり思っていて。早く……私に魔女になってほしいんでしょう?」


 そう尋ねると、ソラは困ったような微笑みを浮かべた。


「君の言う通りだよ。なるべく早く魔女になってほしい。君の他の、魔女になれそうな人物よりもね」


「私以外にも、やっぱり魔女がいるの?」


 ソラがうなずく。


「その魔女は、予定通りに全てを壊すだろう。だから君じゃなくてはいけない、ユラ」


 ソラが立ち上がって、座っている私の両手を握る。

 成長した彼の手は、もう私と変わらない大きさになっている。いや、少し大きいくらいかもしれない。茶色がかった肌の手は少しあたたかい。


「彼らではだめなんだ。全てを救えない。そして自分自身を止められなくなるだろう。だから君に頼みたい」


「わかってるよソラ。私は、アーレンダールを壊されたくない。そこに住む人達を死なせたくない。今の私が大切なのは、ここの人達だけだから」


 お祖母ちゃんも居ない今、私は他に何も持っていない。だから自分の恐怖さえ飲みこめたら、今の私が大事なもの……ここの人達を守ることになるのなら前に進めるから。

 うなずく私に、ソラは「ごめんね」と言う。


「代わりに、どうあっても君のことは守るから。恐怖からも、痛みからも」


「ソラ……」


「そろそろ時間だから、また呼んでくれるといいな」


 最後に笑って、ソラの姿が空気に溶ける様に消えた。

 手を握られていた感触も。

 そして私は、ふっと息をつく。

 聞きたいことはほとんどわからなかったけれど、ソラがいつでも守ってくれると思えば勇気が出た。

 明日からまたがんばろう。そう思いながらテーブルを何気なく見た。


「あ、ちゃんとホットケーキ消費してる」



 翌日は、紅茶のことはあまり手をかけられなかった。

 メイア嬢の出発の準備を手伝うためだ。

 とうとう迎えの人達が来たのだ。

 隣の領地、バルカウス伯爵の騎士達と召使い達の総勢15名だ。


 迎えの人達は一泊していくことになるので、その部屋の準備のためヘルガさんと走り回ったりした。

 一方、メイア嬢のための女性の小間使いや召使いも3人来てくれたので、私は彼女のお世話からはお役御免となった。

 そのまま、公爵令嬢である彼女とは話すことができなくなる。


 翌日の午前のうちに、メイア嬢は出発した。

 私は目立つところに立って見送りができる身分でもない。だから二階の廊下の窓を開けて、ヘルガさんとモリーさんと一緒に様子を見ていた。


「ようやく帰ってくれるんだね……。ご本人はかわいそうだけど、仕事が増えてけっこう大変だったからねぇ。これで一息つけるよ」


 ヘルガさんはふぅと息をつく。


「年には勝てないねぇ。何年か前の、やたら傷病者が運び込まれた時よりも楽なはずなのに、疲労感が違うんだよね」


 ヘルガさんと同じく、普段は洗濯をするため通いで来ているモリーおばさんは、とんとんと腰をたたく。


「まぁ、大人しいお嬢さんで助かったよ」


 ヘルガさんがそう言いながら、馬車の前に立つメイア嬢を見下ろす。

 伯爵家から持って来たのだろう、沢山の襞とレースで飾られた翠のドレスを着たメイア嬢は、しずしずと馬車へ乗り込もうとする。


 その時にふと、上を見上げたメイア嬢と目があったような気がした。

 見送りに手を振るというのも、貴族令嬢にするべきものではないかもしれない。そう思った私は、ただじっと馬車の中に姿を消すメイア嬢と、走りだした馬車を見つめるしかなかったのだった。

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