パンケーキでソラを呼び出し
この日の夜、団長様は来ないようだった。
喫茶店に顔を出して様子を確認したから、もう一度話をしなくても大丈夫だと思ったのだろう。
万が一のためと思って、いつもの時間を過ぎてもじっと待ってみたのだけれど、大丈夫だったようだ。
「よっし、三枚ね」
私はホットケーキを作り始める。
もしも団長様が途中で来た時のため、ごまかし用に五枚焼くことにした。団長様が顔を出したら「味見してください」と言って食べるために私に一枚、団長様に一枚出す換算だ。
来なかったら明日の私の朝食後のおやつにする。
五枚をじっくり焼いても、団長様は現れない。
もう絶対に来ないだろう時間になったので、私はソラを呼び出すことにした。
「まずは精霊召喚……」
ステータス画面を出し、召喚の項目を出してポップアップを表示。
《召喚しますか?:要おやつ一個 Y/N》
おやつの必要個数は変わらないようだ、1LVアップしてもあまり変わらないのかな?
ボタンを押すと、ぽんとゴブリン姿の精霊が卓上に現れた。
……2体。
「あ、レベル上がった分……呼べる精霊の数が増えるんだ」
なるほど……と思う私の前で、ゴブリン精霊二匹はテーブルの上に座って、クッキーを仲良くはんぶんこして食べ始める。
「お願いなーに?」
まだクッキーを食べてる途中で、精霊の片方が聞いてくれた。あ、口の端にクッキーの粉ついてる。
指先でちょいちょいと払ってやりながら、私はお願いする。
「ソラを呼んで欲しいの。あともう一人の子は質問が」
「わかったー」
「なにー?」
私に尋ねられた、膝を曲げてぺたんこ座りをした紫の花のリースをした精霊が言う。これ、何の精霊なんだろう。よくわかんないな。
「ソラのことを王様って読んでるじゃない? ソラは……何の精霊の王様なの?」
ちらっと疑問には思っていた。けれど次から次へと問題が起きて行ったりして、他のことが気になって尋ねずにいたのだ。
だけど前回のことで、ソラがどういう存在なのか気になってたまらなくなった。
……私と同じように、この先のことを知っているソラは何者?
破壊される未来のことを知っているのに、私を魔女にしようとするのはなぜ?
魔女になれれば、色々なことを私の手で解決できるだろうし、ゲームの状況が改変されていても、騎士団の人達を守ることができる。だからもうそこは異存はないんだけど。
ソラの目的が知りたかった。
紫のリースをした精霊は「んー」と顎に人差し指をあてて答えた。
「からの王様?」
「から?」
からっぽの「から」だろうか。ん、だから空……「ソラ」って名乗ったのかな?
「じゃあソラは、誰かの王様ではないの?」
「みんなの王様だよー」
そして精霊ははいっと手を出す。おそらく続きを聞きたいのなら、クッキーを課金してくださいということだろう。……なんかニュースサイトの購読か、占いの購読みたいなシステムを思い出す。
クッキーを渡すと、また仲良く二体で分けて食べ始めた。実にかわいい。
これ、レベルが上がって一度に三体とか呼べるようになったら、三体で分けるのだろうか。綺麗にクッキー割るのが大変そうだ。
「ということは、みんなソラに従って動いているのよね?」
「まーねー。僕達はね」
んん? 僕達は?
「僕達ってどこまでの範囲?」
「んっとね……」
答えようとした精霊の口を、横の緑のリースの精霊が塞ぐ。首を横に振られた精霊は、しゅんとして私に言った。
「内緒なの」
なんとゴブリン姿の精霊にも秘密があるらしい……というか、なんとなく言わなくても察したぞ私。たぶん、ゴブリン姿の精霊だけってことじゃないのかな、僕達って。
なにせ他に区別する方法が思いつけない。
しかし課金しても答えられない質問があるとは思わなかった。なんでだろう? ソラだったら全部を答えられるのだろうか。
「……ソラを呼んでもらえる?」
「わかったー」
精霊二体は一緒に手を上げて答えると、お皿に重ねた三枚のパンケーキに駆け寄る。
そしてパンパンと手を叩く。
「おやつだよ、みんなおいでー」
二体がそう言うなり、ぽぽぽぽんと一気に精霊が現れる。
「えっと、いち、にい、さん……」
思わず数えてしまうぐらい沢山だ。20体はいた。
色んな色のリースを首にかけた精霊達は、パンケーキをぐるりと囲むように立つと、
「えいっ!」
とパンケーキに触れる。
すると一番上のパンケーキが一枚が消え、精霊も光に変わり、気づいたらテーブルの前に少年ほどの大きさの人物が立っていた。
ゴブリンな外見は変わらず、大きさも前回と同じ。だけど服は、他の精霊と同じように変化していた。ただちょっと、精霊教会の司祭にちょっと似てる服かも?
雰囲気的にはゴブリンプリーストだ。
そして私は、なんて言おうかと思った。前回はソラの話を聞いて泣くという、醜態を晒したばかりだ。
「あの、この間はごめ……」
謝るよりも先に、ソラが口を開く。
「気にしないで。また呼んでくれてよかった、ユラ」
ソラはそう言って微笑んでくれた。




