そして森のクエストはクリア!
クー・シー達は一目散に、魔物達が固まっている場所へ駆ける。
行く手にいた魔物達は蹴り飛ばされ、前足で踏み潰され、時に体当たりで蹴散らされた。
《クー・シーA:じゃまじゃま!》
《クー・シーB:どけどけー!》
そして中心部に近づくと、まずは周辺の魔物を、蔦で薙ぎ払うようにして追い出す。
お互いに喧嘩をしていた魔物は、あっけなくクー・シー達に飛ばされた。
それからどうやって魔法陣を壊すのかと思ったら。
《クー・シーB:にゃーん!》
「にゃん?」
なぜか猫っぽい声を上げて、二匹は猛然と土を掘り始めた。
「……地面ごと破壊してるってこと……なんだ」
件の魔法陣は、何かしら魔力が流れる線を地上に描いている。なら、書いてあるものを破壊したらいいという理論で、クー・シー達は行動しているようだ。
とはいっても、魔力が必要なのは見るとわかる。
クー・シーの爪が地面を削る時、バチッと稲妻みたいなものが弾け、次いでガラスが割れるような音と一緒に光の欠片が舞い上がる。
「なるほど。あれは魔法陣の方の魔力の欠片だな。一見すると土を掘る犬にしかみえないが、お前の茶から補充した魔力を使って壊しているのだろう」
団長様の解説に、なるほどと思う。ちゃんと魔力使っていたんだね……。
でもクー・シーが協力してくれて助かった。おかげで私が魔法陣を壊す姿を見せなくてもいいんだもの。
やがて二匹の動きが止まる。
《クー・シーA:あー終わった終わった》
《クー・シーB:これで巣の近くも静かになるよね》
《クー・シーA:ねー》
クー・シー達は巣の周辺が騒がしいわ、自分達の魔力まで奪われるわで、魔法陣を壊したくてたまらなかったようだ。
「団長様終わったみたいで……」
報告しかけたところで、私は気づいた。
舞い上がった魔力の欠片だと言う光。それが消えずにゆったりと流れて……私の方へ向かってない?
「団長様、いますぐクー・シー達の方へ移動してください。魔力が私に流れてきてます」
このままじゃ、私が魔力を吸い込むところをフレイさん達に目撃されてしまう。
遠ざかろうという提案に、すぐにうなずいてくれた団長様が、
「クー・シー達の様子を見てくる」
と近くにいたイーヴァルさんに伝え、私達は移動した。
竜がつぃっと空を切ってすぐに、光の欠片の中へ飛び込んだ。
ちらりと振り返れば、先ほどまで広がっていた光の欠片は、今度は中心に向かって流れを変えているらしいことがわかる。
やはり団長様に動いてもらってよかった。
団長様も同じことを考えたのだろう。
「おそらく魔力を集めるにあたって『魔女のための魔力』などと、魔法に制限を組み込んでいたんだろう。他で使われないために。だから、魔女であるお前に集まってくるんだ」
「最初から、魔力の使い道が指定されていたんですね」
だからかと納得する。
導きの樹の精霊の時の渦もそう。ダンジョンの不可思議な玉もそうなんだろう。
魔女の魔力になるようになっていたから、取り込んだ私はレベルアップしたんだ。
「取り込んでいて、お前は大丈夫なのか?」
団長様が尋ねてくる。気づう眼差しは、たぶん魔力をとりこんだら何か私に不利なことが起こる予感がしているのだろうか。
でも言わない。
魔力を取り込むほど、私が完全な魔女に近づくことは。
「大丈夫みたいです。たぶん、クー・シー用のお茶に込めた時に減った魔力が、ちょっと戻っているくらいの感じです」
本当はなんだか体がぽかぽかするので、それどころの感じではないけれど。
団長様、嘘をついてごめんなさい。
「でもこれどうしましょう。もう少し目をくらませる何かがあるといいんですが」
光の欠片をクー・シー達の側に誘導してみたものの、集まって来た欠片はするすると私の中に溶け込んで行く。
今はまだ沢山飛散しているから目立たないけれど、少なくなったら私に吸収されているのが、フレイさん達にも見えてしまいそうだ。
と、その会話が聞こえていたようだ。
《クー・シーA:なーに。周りから隠れたいの?》
《クー・シーB:まだ魔力くれるなら、目隠しぐらい手伝ってあげてもいーよ。さっきので減っちゃったし》
お、やった。
ちょうど水筒はまだ二つある。
「そうしたらまたさっきの水をあげるので、この周囲にちょっと目隠しを作ってもらえますか?」
《クー・シーA:いいよー》
軽い返事が来たので、私は団長様に話して、もう一度水筒の中身をあげた。
ごっくんと飲んだ二匹は、尻尾を振って竜の周囲を駆け回った。
《クー・シーA:あーこれほんと楽》
《クー・シーB:子育ての頃にもほしいぐらい。とりあえず目隠し……巣と同じでいいかな?》
《クー・シーA:攻撃されたと勘違いされると困るから、幻覚の方がいいだろうね》
団長様が、先に手出しをするなと後方に腕の動きで伝えている間に、クー・シー達はやることを決めたようだ。
彼らが立ち止まると、周囲にふわりと緑の風が起きる。
クー・シー達と竜を囲むようなその風は、やわらかく循環するので竜巻みたいに恐ろしいものには見えない。やがて緑の風に、ふわっと森の木立が映像みたいに浮かび上がる。
そうか幻覚。
初めてクー・シー達に囲まれた時。これだけの巨体なのにあの時まで気づくのが遅れたけれど、森の木立の幻影を使って、自分達の姿を隠していたのかもしれない。
「ユラ、急げるか?」
今なら間違いなくフレイさん達からは見えていない。だから団長様は、どうにかできないかと言うのだろう。
「がんばってみます」
お茶に魔力が込められるなら、逆に集めることもできるんじゃないだろうか。
あっためるイメージだとソラに言われて、私は自分の体の熱を移すことを想像した。
だったら今度は、自分があったかくなるイメージをしたら……。
手を差し出すように伸ばして、目を閉じる。
そうして想像をはじめて間もなく、目の前が瞼を通してもまぶしくなった。
薄目を開けると、自分の手が光っている。それもすっと収まると、周囲に漂っていた光の欠片は一つもなくなっていたのだけど。
「あ……」
なんだか寒気がした。風邪をひいた時みたいな感覚。自分の体があったかくなるイメージのせい!?
でも微熱があるくらいの感覚だから、なんとかなるだろう。
「終わったな、帰るぞ」
「はい」
うなずいた私は、クー・シー達に伝えた。
「ありがとう。これで私達はここには用がなくなったから、帰ります。人間の作った道の周辺にいる魔物は、倒しに来るかもしれないけれど、その時は攻撃しないようにするから、見逃してくださいね」
《クー・シーA:いつも通りだね》
《クー・シーB:じゃあね》
あっさりと言ったクー・シー達は。こちらも用事は終わったとばかりに、森の奥へと姿を消したのだった。




