まずは注文についての説明を雇い主に
とにかく城に戻った。
団長様の執務室に連行されて、フレイさんと団長様、イーヴァルさんに囲まれての説明というか釈明を行うことになった。
「ユラさん、説明をお願いします」
ソファに座らされ、周囲を背の高い人達にやや険しい表情で囲まれるこの圧迫感よ……。でも説明はせねばならない。
しかし団長様以外には、魔女の力で……などとは言えないわけで。どう誤魔化そう。
そうだお茶だ。全部お茶で解決だ。
「お茶の香りが届いたみたいで、片言で『いい匂い』って聞こえたんです。もしかしたらお茶の効果かもしれません」
「前もそんなことがあったな……ゴブリンだったか」
左様でございます団長様。
「人に匂いで影響が出たことはありませんから(嘘ですし)精霊融合の方かもしれませんね」
決して魔女だからとか、そういうわけではないと印象づける。しかしちょっとでは足りないかもしれないので、さらに念を押した。
「実験で……もしかして私、魔物も融合させられているんでしょうか……」
「まさか!?」
そう言いながらも、フレイさんはハッキリとは否定できないようだ。そうだよね、何を混ぜたのかなんて普通の人にわかるわけがない。ソラはわかったようだけど、彼は精霊だし……。
でもそのせいでフレイさんと、イーヴァルさんも顔色が悪くなったので、ここでやめておこう。やり過ぎは良くない、うん。
「とにかくユラから聞いた通り、クー・シー達は行動しました。私達を捕まえようとしていたのをやめ、大人しくユラのお茶を飲んだのです」
団長様がうなずく。
「信じがたいが、見た以上は信じるしかないな」
「その後ユラが、お茶が足りないと言われたらしく……」
フレイさんに視線を向けられて、私は続きを話す。
「お茶の香りが気になったらしいんです。それで片方に飲ませてみたら、もう一匹もほしいと。それをくれたら、あの森に仕掛けられた魔法を壊してくれると言うんです」
「なるほどな。それなら魔物を倒し続ける必要もなくなる」
団長様はうなずいたが、イーヴァルさんはまだ懐疑的なようだ。
「本当に幻聴ではないんですよね?」
「幻聴だったらいいと、私も思ったが……。本当にユラが言う通りに動くし、口を開けてと言った後に片方がちゃんと口を開けて待っていたんだ。飼い犬みたいに」
フレイさんまでそう言うので、イーヴァルさんも信じざるを得なくなったようだ。
「なんにせよ、それでカタがつくのなら無駄な労力をかける必要もなくなる。試す価値はあるだろうが、万が一にもクー・シーが襲ってきた時のために、明日も同じ人数と人員で向かう」
団長様の決定に、フレイさんとイーヴァルさんがうなずいた。
「二人とも自分の部下に伝達するように。ユラは明日までに、ユラは茶を用意しておけ。少し多めにするといい」
「はい」
私もうなずき、これで解散ということになった。
たぶん団長様に詳しい話をするのは、夜、お茶を飲みながらになるだろう。
イーヴァルさんに二日連続の出動、そしてお茶の依頼をすることになったことによる、お給金の説明を受けた後で部屋をでる。
すると、先に出たはずのフレイさんが待っていた。
「ユラさんお疲れ様です」
壁にもたれていたフレイさんが、私に向かって一歩踏み出す。
「フレイさんも今日はありがとうございます。おかげで無事に帰って来られましたし、クー・シーへの対応でわがままを聞いて下さって助かりました」
約束通り、フレイさんにお願いをしながらの行動にしたけれど、もっと抵抗されてもおかしくないかな……と思ってはいたのだ。
けれどフレイさんは、飛びトカゲをクー・シーに近づけてくれたりした。
フレイさんは苦笑する。
「クー・シー達が、本当にユラさんの言う通りに動きましたからね。それにゴブリンのことを思い出したのもあります。あの時も目の前で見ていませんでしたが、ユラさんが言う通りではあったんですから」
それより、とフレイさんは私を覗き込むようにする。
「具合が悪かったりはしないんですか? 魔物の言葉がわかるということで、何か異常が出ているんじゃないですか?」
「あ、大丈夫ですよ。全く変な感じはしません」
なにせ魔女スキルのせいですから……。
心配されると後ろめたくなるけれど、今ここで目をそらしたら気づかれそうだ。
だから笑って目を細めてごまかす。ごまかされてください。
「それならいいんです」
フレイさんは息をついて、私の頭をつついた。
「何かあったら、すぐにオルヴェ先生に診察してもらってください。あと、お茶の用意で必要なものはありませんか?」
「大丈夫です。水筒でしたら、五個ぐらい予備があったはずなので」
「何かあったら言うようにね」
そう言って、フレイさんは私が寝泊まりしている棟まで送ってくれた。
笑顔で見送ったけれど……フレイさんの善意が心に刺さって、後ろめたかった……。




