魔物にも紅茶はいかがですか?
※ちょっとタイトルいじりました。
クー・シーは、妖精猫ケットシーの犬版みたいなものだ。
確かCu sithという綴りだった。シーだからチャンネルCってわけじゃない。
もちろんゲームで登場するクー・シーが前世のそれと同じような存在ではないだろう。外見とかも犬で緑なの以外は違うようだし。
でもこのステータス画面は私にしか見えない。ということは、私の記憶や想像の範囲内で設定されると思う。
ゆえに英語表記でもアリということで。
「すいっちおーん」
精霊のささやきに、私はチャンネルCを押す。
すると画面に会話が表示された。
《クー・シーA:なんかいい匂いするんだよね》
《クー・シーB:おいしそう?》
《クー・シーA:それよりいいもの。魔力の匂い》
《クー・シーB:やっぱりおいしそうなんじゃないの?》
聞いてから二匹を見ると、ふんふんと嗅ぐような仕草をしている方と、牙をむいてみたり舌なめずりしている方と、反応が少し違う。
たぶん、間違いない。
《クー・シーA:とりあえず捕まえよう》
《クー・シーB:よし捕まえて魔力を取り込もう》
ひいっ! と悲鳴を上げそうになったけれど、次の言葉に目をまたたいた。
《クー・シーA:魔力を取り込めば、このおかしな魔法も壊せるものね》
魔法を壊せるって、もしや魔物達が集まっているこの魔法のこと?
「待って待って!」
慌てて制止すると、歩き出そうとしていたクー・シー二匹は驚いたように立ち止まった。
《クー・シーA:今人の声が》
《クー・シーB:エサの声がした!》
「あなた達、もしかして魔物を集める魔法を壊したいの? 邪魔なのよね?」
私は声が届いて、しかも意味が通じているらしいのでさっそく話しかける。急いで話さないと襲われそうだから。
「ユラさん……?」
当然、私の後ろにいるフレイさんがいぶかしんだけれど、今はそれどころじゃない。
上手く行けば、本当にお茶で解決できる。
「魔物と話が通じるみたいなんです。どうにか話がつけられるかもしれないんで、少し見守っててください」
私はフレイさんに小さな声でそう言うと、ステータス画面を睨む。
《クー・シーA:魔法は壊したい……》
《クー・シーB:邪魔に決まってるよ》
「魔力をあげれば解決できるのなら、わけてあげる」
私の言葉に、二匹のクー・シーはやや悩むように頭を揺らした。
《クー・シーA:魔力? 沢山必要だけど人間が用意できる?》
《クー・シーB:魔力が食べられるならそれでいい。僕等もだいぶん吸われた。ムカつく、壊す》
「なら、この飛びトカゲを包囲するのを止めてもらえる? その後あなた方の頭上まで行って、問題のものを投げ落とすから、受け取って」
クー・シーの一匹が長い尻尾を揺らす。
《クー・シーA:人がどうして、そこまでする?》
「壊してほしいから。それが叶えばいいの。代わりにお互いに手出しはなし」
《クー・シーA:とりあえずわかった。魔力くれるなら約束は守るよ》
私は一度チャンネルを切った。
「フレイさん、団長様達に攻撃させないようにしてください。約束を守ってくれるなら、クー・シー達が包囲を解いてくれます」
「ユラさん……」
戸惑いながらも、フレイさんは私がクー・シー達と会話をしていたらしいことを見ていたからだろう。団長様に手を出さないように、待ってくれと合図を送ってくれた。
手の振り方で伝えられるみたい。そういう合図を決めているんだろうな。
団長様達は隊列を組んで何かをしようとしていたけれど、クー・シー達に向かって移動するのを止めてくれる。
やがてクー・シー達が森の樹を操ることを止めた。
包囲網が解かれていくのを、フレイさんが信じられないような顔をして見ている。
「ユラさん、君は……」
「フレイさん、クー・シーの前へ移動してください。約束が守られないとわかったら、襲いかかってくるかもしれませんから」
「……わかった」
危険ではあるけれど、今のところ私の言う通りに事態が進んでいる。だからフレイさんも言う通りにしてくれた。
ややクー・シーから距離をとりながらになったけれど。
そこで再び彼らに話しかける。
「これからお茶をばら撒きます。それを飲んでみてください」
《クー・シーA:お茶?》
「あったかい色水です」
魔物にわかりやすいように言いかえる。色水と言うとなんか寂しいけれど、理解してもらえることを優先しなくちゃ。
私は水筒を抱きしめ、中のお茶が温まることを想像しながら魔力をそそぐ。
蓋を開けると、ほわんとした湯気が立つ。
安全なものだと示すため、私は水筒に口をつけて飲んでみせた。うん、大丈夫。カップに注いだお茶はきらきらしてるし、ぬるいままだ。
「どっちか一匹、口を開けてください。そこに向かって落とします」
そう言うと、二匹は顔を見せ合ってから、一匹が口を開ける
私はフレイさんにもう少しだけ高度を下げてもらう。飛びトカゲがものすごく怯えていたけれど、それもフレイさんがなだめてくれた。
そしてクー・シーの口に向かって水筒を傾けた。
お茶が少し拡散しながら落下していく。
でも高度を落としたおかげで、大半はちゃんと片方のクー・シーの口の中に入ったようだ。
水筒を傾け終わると、飛びトカゲは高度を上げた。
そして飲んだクー・シーは、
《クー・シーA:んま。ちゃんと魔力がある》
《クー・シーB:えええ、そうしたら僕もほしかった》
片方のクー・シーはとても残念そうだ。
《クー・シーA:じゃあもらおうよ。二人じゃなきゃ壊すの難しそうだし》
《クー・シーB:だよね。僕にもほしいんだけど。そしたら約束通り壊してあげる》
なんと、二人力を合わせないと壊せないみたい。とはいえ、もう水筒で持って来た分は使ってしまった。
「持ってきていたのは今ので全部なんです。明日、もう一度ここへ来て渡すので。それでいいですか?」
《クー・シーA:うーん明日ね。これだけ魔力がもらえるなら待つ》
《クー・シーB:いいなぁ、いいなぁ》
飲めなかった一匹は、拗ねたように近くにいた魔物を前足で踏み、後ろ足で蹴り上げた。
「あの、フレイさん……」
私はフレイさんを振り返った。フレイさんは実に微妙な表情をしていたけれど、言わねばなるまい。
「ご注文を受けました」




