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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第二部 騎士団の喫茶店

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おかげで決心できました。

 私はどういう顔をしていいのかわからず、うつむいた。

 団長様も額を押さえてうつむいた。


「ユラ……」


「はい」


「とりあえずお前は、何か任せる度に面倒なことになりかねないということはわかった」


「面目ございません……」


 ヤンデレ脅迫に対して、どう行動するのが正しいのかわからないけれど、うまい対処が思いつかないことについて謝罪する。


「飼われている身なのにすみません……。でも主人に従順な犬らしく、かみつくわけにもいきませんし。フレイさんが心配症になったのは私のせいでもありますし」


「やめておきなさい。もっとひどいことになるのが目に見えるようだ」


 団長様が顔を上げて睨んで来た。

 本気で怒ってる!


「すみません! ごめんなさい! 絶対しません!」


 両手を合わせて拝みながら謝る。

 変なこと思いついたなって自分でも思ってはいたんです。


「お前はもうちょっと、物事をよく考えて行動するべきだユラ」


「はい、申し訳ありません」


 怒られても仕方ない。元々頭はよくないのに、ペット気分で気楽になりすぎてるかも……。

 お祖母ちゃんにも、そろそろ甘え過ぎだと言われてはいたんだよね。

 いよいよお祖母ちゃんが危なくなった時にも、ひきこもりが治らなくて、不安で泣いてしまったことを思い出した。


 結局、社会人だった前世を思い出したところで『ユラはユラ』なんだなと思い知る。

 考えてみれば、日本人だったころも今とそれほど大差ない気がするんだよね。会社では肩肘張っても、家に帰ると親にツンツンしてて……。甘えていたから、そんな態度ができるんだって、今ならわかる。


 もっと自分の心に、不安を収められるようにするべきなんだろうな。人の手を求めてばかりじゃ、迷惑をかけ通しになってしまう。

 フレイさんが過保護から、やや過激なことを言い出すようになったのも、私が端から端まで面倒を見なくちゃいけない相手だと思っているせいもあるはず。


 ……そこで思い出すのは、ソラの言葉だ。


 強くなれば私自身のことも守れる、っていうことだよね?

 そして強ければ……フレイさんにも一人で大丈夫って言えるようになるし。強いところを見せたら、あんなに不安がらないはず。


 団長様に怒られて、少し冷静になってきた気がする。

 もうすでに魔女のスキルついちゃってるし。MPとんでもない数字になってるし、これを利用するつもりで考えた方がいいのかもしれない。

 嫌われるのが怖かったから、魔女になるなんて考えられなかったけど、迷惑をかけるよりもずっといい。


 私がそんなことを考えている間、優しい団長様は慰めてくれていた。


「ただフレイのことにしても、とっさに魔女に関わることを隠せる言い訳を思いつけと言うのも酷だったとは思っている。特にお前のような戦闘とは縁がなかった人間は、緊急事態に対応するだけで精いっぱいだっただろうからな」


 団長様はそう言ってため息をつく。


「フレイについては、私も注意しておく。少しあいつの行動は逸脱しているように思うからな。次に、先ほどのは……精霊か?」


 私がもう落ち着いたのがわかったのだろう、さっきの質問をもう一度繰り返した。


「はい。ゴブリン姿の……大きな精霊がいて」


 ソラのことは、まだ団長様には話していない。精霊の不可解な動きについてもだ。なにせ前世の記憶にからんでくるから、説明しにくい。

 でもさっきまではどうしよう、だけで心が一杯だったのに、今は少し落ち着いていた。

 今までは頼り切っていたから、団長様がどんな反応をするのか心配で仕方なかった。でも今は、自分の中で方針が決まってしまっている。


 ソラとのことで、一番重要なことは隠す。

 でも全部は隠せないだろう。だから、魔女を作ろうとしている集団がまだ動いていることは言おう。

 ……私にその力を横からかっさらうように助言してきたこと。そうして強くなって行けば、いずれ団長様達を助けられるようになることは言わなくていい。


 その道の果てでは、団長様達とはきっと離れるしかなくなるだろうけれど……。

 私は唾を飲みこんで、言った。


「あの精霊は、他の精霊より力が強いので大きいらしいです。クッキーが沢山あるのを見た精霊に、呼べるからと言われて呼んでみたんですが……」


 嘘は言っていない。

 だけど不審に思われないようにしよう。そう思って、私はうつむく。


「試しに聞いてみたら、明日調査に行く場所に、魔女を作ろうと実験をしていた人達が、関わっていると教えてくれて」


「実験をしていた者達がか?」


「おそらく。魔女を作ろうなんて人、他にいませんよね?」


 ちらりと見れば、団長は難しい表情で視線を自分の手元に向けていた。大丈夫、信じてくれてる。


「行って、私がそこに魔物を集めている仕掛けに触れたら、壊せるって言われたんですけれど……」


 一度ぐっと唇を噛む。


「壊せるのか、精霊の言葉を信じきれなくて不安なのか? それでさっき震えて……」


 団長様が気遣ってくれる。半分は本当のことだからか、疑っている様子もない。


「すみません、うろたえてしまって」


「謝る必要はない。自分が変化するきっかけになった者達が、仕掛けたものだ。恐怖も感じるだろう」


「そうですね……改造されたようなものですし」


 自分でそう言って、ふと思い出したのはあらすじだけ前世で聞いたことがある、とある特撮ドラマのことだった。


「バッタじゃなくて良かった」


 精霊は魔力の塊だから、融合しても外見が変化することはない。強くてもバッタになってしまったら、私ものほほんとはしていられなかっただろう。


「バッタ?」


 団長様が疑問を口にする。


「小さい頃聞いたお話で、バッタと融合してしまう人のお話があったんです。たぶん、お祖母ちゃんの作り話だと思うんですけれど」


 聞いた団長様は、ものすごく嫌そうな顔をした。


「それは……ずいぶんと恐ろしい話を子供にするんだな。でもまぁ、お前の祖母らしいといえばらしい」


 それはどういう意味ですかね?


「とにかくそれなら、まずは近づいて様子を見るだけにするといい。フレイも行ってすぐに何かあった場合、よけいに悪化しそうだ」


「そうですね」


 うなずいた私の頭を、団長様が撫でてくれる。


「フレイだけでなく、私もイーヴァルも現地にはいる。万が一の場合には助けるから、安心しろ」


 そう言ってくれる団長様に、私は微笑んだ。


「ありがとうございます」


 でも嘘をついているせいで、少し頬が動かしにくかった気がするけれど、それも緊張のせいだと思ってくれたらいい。



 翌日、私はお茶を常備して行くことにした。

 基本的にはソラの提案通り、現地に集められているという魔力を手にするつもりだ。フレイさんを心配させないように、次回にするつもりだけれど。


 ただ予定を変更する場合も、あるかもしれない。

 その時にもお茶のせいにできるよう、もって行こうと考えたのだ。

 あと、クッキーの精霊のおやつも。

 昨日使わなかったクッキーが9枚残っている。これで精霊を呼び出して、助けてもらうことができるかもしれない。


「魔女になる……そうしたら、全部解決する」


 つぶやくと、そんな気になってくる。

 私が諦めればいいことだ。逆らうよりも、その流れに乗ってしまった方が願いはかなえられるとソラが言っていたのだから。

 最後には魔女だということを隠せなくなって、団長様との約束が必要なくなってしまうけれど。

 でも恩人たちに迷惑をかけず、そして助けることの方が大事だ。


 部屋を出ると、廊下の窓から外を見ているメイア嬢を見かけた。

 彼女は私に気づいて振り向くと、驚いたように目を見開く。


「ユラさんも行くんですか?」


 私がマントを羽織って、動きやすい恰好をしていたからだろう。すぐに騎士達と一緒に、外へ出るとわかったようだ。


「はい、討伐者ですし。私は補助みたいなものですけれど」

「危なくないんですか?」


 メイア嬢は不安そうな表情をしていた。女性でも討伐者はいるのだけれど、いかに隅においやられていても、貴族令嬢ではそんなことは知らないのかもしれない。

 何より一人で残されるようで、不安なのかも。


「大丈夫ですよ。みなさん助けてくださいますし、私は後方にいますから。メイア様も安心して待っていてください。帰ったらまたお茶を淹れますね」


 メイア嬢が隣の領主の館へ移動するにも、これからの討伐を終わらせなければならないのだ。街道が使えないのだから。


「行ってきます!」


 そう言うと、メイア嬢はなんとか微笑んでくれた。


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