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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第二部 騎士団の喫茶店

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団長様、怒りませんか?

 団長様が固まっていた。

 私もどう言っていいのかわからない。

 頭の中は、ソラは私を魔女にしたいのかということで一杯で、まだ震えがおさまらない。


 まだレベル10だから完全にラスボスみたいな魔女ではないんだろうけれど、もしそうなったら私、何をさせられるんだろう。

 私の守りたいものを守らせてくれると言っていたけれど、もし、魔女らしく力をふるうことになったら……団長様に今度こそ見離される?

 それは嫌だ。


 でもソラ達は魔女になるつもりでいないと、助けてくれなくなるだろうか? そうしたら討伐についていくのは危険になっちゃうかもしれない。

 でも団長様達が困っているのに、手を出さずにはいられないと思う。

 恩返しもできずに、怪我をして苦しむ姿を見るのは嫌だ。


 力があれば、騎士団の人を守れると言っていた。それなら、団長様に黙って魔女として力をつけた方がいい? どっちにするべき?

 答えがわからなくて、ぼうぜんと団長様を見るしかない。

 団長様も二秒ほど困惑していたようだが、扉を閉め、つかつかと歩み寄ってきた。


「ユラ、怯えているのか? 今のは精霊なのか?」


 不審そうな表情をしているのも無理はない。ソラは大きくなっていたから、小柄なゴブリンが私にくっついていたようにしか見えなかっただろう。


「あの、せいれ……です」


 なんだか口がまわらない。滑舌もちょっとあやしい。わかっていても上手く話せないことで、さらにパニックになりかける。

 どうしよう。団長様にソラのことは話していないのだ。なんて聞かれる? どう答えたらいい?

 隠していたことを知ったら、怒られるだろうか。

 そんなことを考えていたせいか、私は団長様が肩に手を触れた時にびくついてしまう。


「あ……」


 どうしよう。団長様に触れられるのが嫌だと思われたら。そういうわけじゃなくて、怒られるかと思って怖かっただけなのに。

 私は団長様を見上げた。違うんです、団長様が嫌いなわけじゃない。でも上手く声にならなくて。

 だから肩に置かれた団長様の手を掴んだ。ぎゅっと離れないように。

 団長様はじっと私を見下ろした後、


「お前は本当に犬みたいな奴だな……」


 ちょっと困ったように言いながら抱きしめてくれる。

 怖さに震えていたのに、体が冷えていたのかものすごく温かく感じる。

 何より怒られなかった。それだけでほっとして、涙がにじみそうだ。


「また何か隠し事をしたんだろう。あの精霊のことか? バレた時にそんなに怖がるならやめておけばいいものを」


「う……」


 なんでそんなにお見通しなんですか。

 どうして呆れたように言うだけで、怒らないんですか。

 聞きたいけれどまだ不安の方が大きくて、つい団長様にしがみついてしまう。はずかしいことよりも、嫌われたくない気持ちの方が強かった。

 団長様は一瞬息を飲んだような気がしたけれど、


「その通りか……」


 意味が通じたみたいで、諦めたようにそう言って頭を撫でてくれる。

 それが心地よくてたまらない。許されている感じに浸っていたい。子供みたいだけどいいや、と思う。だってペットなんだから。

 そうしてしばらくすると、震えが収まっていった。


「ユラ」


 落ち着くと今度は、また隠し事をしていたのだと追及されることがうしろめたくなる。

 たぶん団長様は、かまう時間は終わりだと声をかけたんだろうけれど、なんとか白状する時間を先延ばしにしたくなってきた。

 今度は心地よさと色々と問題に立ち向かうのを先延ばしにしたい気持ちが強くなって、離すもんかと団長様の服を握りしめてしまう。

 そうしてしがみついていたら、団長様がため息をついた。


「ユラ、言わないでは済まないだろう」


 言うなり、抱きしめていた手を離した団長様が、私の両脇に手を添えて抱え上げた。


「ひゃっ」


 驚いてしがみついていた手を離してしまう。そのまま私を持ち上げた団長様は、ちょっと考えた末に、手近な椅子の上に私を座らせた。

 自分も、さっさとその前に椅子を引っ張ってきて座ってしまう。

 驚いて目を見開いた私に、実に冷静そうな表情で団長様が言った。


「さて。私はフレイの状態などの報告を聞こうと思って尋ねたが、居なかったためにお前を探していた。オルヴェも、夕食に手もつけずにどこかへ行ったままだと心配していた」


「あ……」


 フレイさんの行動に動揺して、クッキーを作ることで気持ちを落ち着かせることを優先したものだから、すっかり夕食のことを忘れていた。


「オルヴェ先生に、謝らなくては……」


 何も言わずに喫茶店の方に籠ってしまったのだ。心配させて当然だった。そもそもこうなったのも、フレイさんがあんなことをするからで。


「オルヴェは、フレイと話している途中でお前が飛び出して行ったようだと言っていた。扉を開けていたので、内容までは聞こえないながらも、お前が奇声を発した後で出て行ったと言っていた」


「うわあああああ」


 確かに、フレイさんと一緒にいた部屋も少しドアが開いていた。ぶつかるように押した時に、するっと開いた記憶がある。開いてなかったら、かなり肩が痛くなっただろう。

 たぶんオルヴェ先生が、気を遣って席を外したものの、何かあれば――喧嘩とか言い合いとかね――があった時のために、駆け付けられるようにしていたんだろうけれど。


「まず聞こう。フレイと何があった?」


 団長様は、そちらから尋問することにしたようだ。でも従属の力を使ったものじゃない。


「ええと……」


 むしろ強制的に吐かされた方が良かったんじゃないだろうか、と思う。普通に説明するのはあれ、恥ずかしい。でもこの期に及んで、何も言わないなどということが団長様に通じるはずもない。


「ユラ。強制的に端から端まで言わされたいのか?」


「それは! あの、フレイさんが約束できなければ自分が飛び降りるとか、膝の上に座らせたりするからで……あっ!」


 私は自分の口を手で塞ぐ。

 だけどもう遅い。あらかた言っちゃった……。

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