フレイさんに関する懸念とか
「でもフレイさんて、そこまで我を忘れてしまう感じなんですか?」
三度、戦闘があるだろうシチュエーションでフレイさんと会っている。
一度目はイーヴァルさんがいたので任せたので、フレイさんは事前に配慮もできる。飛びトカゲに乗っていた時のは……私が飛び降りたので、突出もなにもなかっただろう。
三度目はダンジョンだ。
あの時は笑いながら戦っていたし、目は怖かったけれど……そうか、私無茶していたかどうか見ていない。なにせ団長様に見つかるのが怖くて。だから少し、フレイさんはやりすぎていたのかもしれない。
帰りは問題は無くなった(?)のだから、フレイさんは大人しく作戦通りに戦っていたし。
疑問に思ったことに答えてくれたのは、イーヴァルさんだ。
「今日は珍しく、突出し続けて怪我をしたそうで。何か気になることでもあったのでしょう。だからこそ、あなたを連れて行くことについても、今回は慎重にしようと話していたわけです」
なるほど。
問題が起きたから、フレイさんのことについて慎重にしようと思ったのね。
「怪我は、大丈夫だったんですか?」
フレイさんが怪我をする姿を見たことがない分、不安になる。むしろみんなに強いと言われる彼が、心配されるような怪我を負うということ自体がびっくりだ。
「そこそこ派手に出血したようですが、すぐに傷は塞いだようで。隊をまとめて予定通りに戻ってくる気のようです。それからオルヴェ先生のところで、治療を受けるでしょう」
「オルヴェ先生の手まで必要なほどなんですか……」
騎士が覚えられる範囲の回復魔法では、追いつかない怪我なんだ。
そこで団長様が言った。
「我々が心配しているのは、命令を拒否することではない」
確かにフレイさんが「嫌です」なんて言うわけはないと思うし、私の仕事を勝手に拒否する権利もないわけで。
「問題は二つだ。フレイにお前を連れて行かせた場合、お前を必要な距離まで近づけさせないかもしれないこと」
「あ、なるほど」
やたらと現場から距離をとって、そこで頑張ってなんとかしろと言われる可能性もあるのか。
「私がお前を引き受けた場合、危険に近づかせたくないフレイが、むやみに魔物相手に暴れまわる可能性。こちらの方を、今回は強く危惧している」
「近づかせないため……」
「フレイは、お前に対して保護者意識が強くなっているようだからな」
そう言われると、申し訳ない気持ちになる。
以前はもっと軽い調子だったフレイさんが、ものすごい心配症になったのは私のせいだ。でも、あの時はフレイさんを助けるにはそれしかないと思ってて……。
団長様は話を続けた。
「逆にお前と親密な分、言うことを聞くのではないかと思っている。だからお前からも言い含めてもらいたい。そうしてお前という制限をつけながら戦ううちに、むやみに戦闘で憂さ晴らしをして、怪我を作ることも少なくなるだろう。今後も、戦闘に連れて行くことが多くなるかもしれないからな」
「わかりました」
私としても、フレイさんに怪我をしたりしてほしくない。
しかもそれが、フレイさん自身が無茶をしなければ避けられることだというのなら、なおさらだ。
急ぐため、できれば明日には実行するという。
荷物の行き来ができないのなら、食品の流通が滞る村なんかも発生しやすいからだ。
フレイさんが戻るのは夕食ごろ。
団長様に報告に行くより先に、怪我の治療を優先させることになる。
そこを私が捕まえて話をするのでは、明日の行動について知らせるのが難しい。なのでそこは、オルヴェ先生から予定を知らせてもらうそうだ。
「あなたは治療が終わったところで、フレイと話しをしてください。そこについても、オルヴェ先生には依頼しておきます」
イーヴァルさんはそのために、先にオルヴェ先生に会いに行った。
私はとりあえず、お茶器を片付けて喫茶店へ戻る。
洗い物を済ませて、何人かのお客さんにお茶を出した後でお店を閉める。精霊用のクッキーだけを持って部屋に戻った頃、おもいがけず早く、フレイさん達が戻って来たようだ。
複数の馬が通る音や人の声が外から聞こえる。
窓からのぞけば、私がいる棟の前にも何頭か馬がいた。きっともう、フレイさんが来ているんだろう。
扉を小さく開けると、話し声がはっきりと聞こえた。
「報告を先に……」
「その報告をされる側の団長からの指示ですよ。先に治して来いと」
フレイさんはやや疲れたような声だったけれど、本当に無事なようだ。それを説得しているのはイーヴァルさんだ。
「では、先生お願いします」
イーヴァルさんがフレイさんを診察室に押しこんだようだ。足音が遠ざかって行くので、彼は団長様のところへ戻ったのだろう。
治療はどれくらいかかるだろうか。そう考えながらしばらくは戸口でじっとしていたけれど、あまりもたもたして、フレイさんを逃してしまっては元も子もない。
もう三分ぐらいは経ったことだしと、私は診察室に顔を出すことにした。
ノックをして、小さく扉を開けて声をかける。
「ユラですが、お手伝いはいりますか?」
「ちょうどいいところへ来た、ユラ。隣から、間に合わせでいいから羽織れるものを持って来てやってくれ」
オルヴェ先生のほっとした声を受けてのぞけば、フレイさんが血まみれのシャツを脱ぐところだった。
「お水とかも運びます!」
私は慌てた。結構な大出血じゃないだろうか。しかも左肩のあたりだ。
急いでお水やタオルを用意して、次に着替えになるだろうシャツを一枚探す。一応怪我人が多い場所なので、代替品になるシャツとか、病衣とかも備えているのだ。
リネン類を置いている部屋で物色しつつ、フレイさんでも着れそうな大きさのものを見つける。フレイさんが真正面に立った時、自分との肩幅の違いを思い出しながら。
そうして診察室へ戻ると、治療は終わっていたようだけれど、オルヴェ先生の前に座ったフレイさんは、素肌に藍色の上着を半分羽織った状態だった。
私は赤面するとかの前に、固まった赤黒い血の痕なんかが気になって、それどころじゃない。
晒されている左側は、腕や肩に傷があったのだろう痕がわかるし、あちこち血がついたままだ。
そしてフレイさんは、困った顔をして私を見た。
たぶん私があれこれ探している間に、明日のことについて聞いたのだと思うけれど。
一方のオルヴェ先生はため息をつき、
「もう重傷者はいないようだからな。身支度をさせてやったら帰していいぞ」
そう言って、隣の私室へ行ってしまう。
「とりあえず、血の痕どうにかしましょう」
私は水に浸したタオルを絞って、フレイさんの腕と肩を拭ってしまう。




