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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第二部 騎士団の喫茶店

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出動の要請がきました

 ため息をついていると、扉が開いてお客さんがやってきたようだ。


「いらっしゃいませー」


 顔を出すと、そこにいたのはイーヴァルさんだった。


「おかえりなさいイーヴァルさん、いつものですか?」


 と言いながらキャッシュトレイを差し出すと、めずらしくトレイの受け取りを拒否した。

 え、どしたの? いつも渡す前にしっかりとトレイを確保するから、集金作業がとても気に入っていたと思っていたのだけど。


「今は注文しに来ただけです。団長の部屋まで、お茶を運んでもらいたい」


 お届けの注文は初めてだ。


「何人分ですか?」


「三人でいい……いや、四人分にしてください」


 イーヴァルさんが私をじーっと見て、四人分と言い直した。

 何だろう。私の顔って、思い出すのにちょうどいい作用でもあるんだろうか。

 とにかくお茶を用意した。


 白いカップを四つ。大きめのポットにお茶を淹れて、苦くならないように葉を捨てたものを用意して、ティーコゼーで覆って保温した状態で運ぶ。

 お盆を持とうとすると、イーヴァルさんがポットの方を引き受けてくれる。一緒に部屋を出た私は、階段を登って、二階の団長様の執務室へ到着した。


「失礼します」


 ノックしたイーヴァルさんが、そう言って入室した。

 続いて入ると、中にいたのは副団長さんと団長様だけだった。ということは最初の三人分と言ったのは、イーヴァルさんを含めてのことだろう。

 あとの一人分は誰だろうと思いながら、私は指示された通りに四人分を用意。

 団長様達が座っている、接遇用のソファの前にあるテーブルへお茶を置いて行く。


「問題は、フレイがどう言うかだな」


 団長様がふっと息をつきながら言った。


「隊長の一人の意見を、そこまで重視しなくとも……。と言っておりましたが、先ほどまでのお話を伺っては、さすがに意見を聞くべきかと」


「わかってくれたか、ハーラル」


「逆に無視するようだと、本人の心の規範的にも問題が生じましょう。ただでさえ、戦闘になると我を忘れかけるのですから」


 どうも団長様とハーラル副団長さんは、フレイさんのことについて相談しているようだ。とすると、最後の一つはフレイさん? 後から来るのかな?

 だとしたら、今カップに注いでしまうと冷めてしまうし……と思っていたら、


「ユラ、あなたも自分の分を注いだら座りなさい」


「え?」


 イーヴァルさんが自分の隣を指し示した。

 ちなみにお誕生席の位置に団長様。その左手に副団長さん、右手側の団長様寄り、イーヴァルさんとの間に、空きがある。


「早くしなさい」


 静かに急かされ、私は戸惑いながらも言う通りにする。

 最後の一人分は、私のだったらしい。でもなんで?

 頭の中に「?」が詰まった状態のまま座ると、団長様が「悪いな、ユラ」と謝ってくる。


「お前に手伝ってもらいたい案件がある」


「お手伝いというと、お茶ですか?」


 お茶を作るというものでなければ、わざわざ私を使ったりはしないだろう。

 案の定、団長様がうなずいた。

 なるほど。それでフレイさんの話が出たんだとわかる。たぶん、お茶を使うにあたり、私を現地に連れて行く必要があって……それが、魔物のいる場所とかなんだろう。

 トラウマ持ちのフレイさんが、実に反対しそうなシチュである。


 説明を受けた副団長さんまでが意見を聞くべきと言うのだから、既に団長様とフレイさんの間でそういう話になったことがあって、フレイさんがものすごく嫌がったりしたのかもしれない。

 とにもかくにも、内容を聞かないことにはどうしようもない。


「どんなお茶を作ればいいんですか?」


「端的に言うと、魔法を打ち破るものだ」


「わたしが説明しましょう」


 イーヴァルさんが挙手し、詳細を話してくれた。

 今フレイさん達がいるのは、騎士団領と東。そこに魔物がやたらと集まってくる場所があるのだとか。

 他の魔物を狙ってなのか、強い魔物も寄って来るようで、その地点を目指す途上の街道などに現れるので、人的被害もでているそうだ。


「けれどそこに集まる魔物を倒しても、次から次へとやってくるのです」


 原因を究明しない限り、街道を馬車が通れない。物流も滞ってしまう。


「戦いながら近づくのは、人海戦術を使わなくては難しい。そこで、まず飛びトカゲで上空から確認しました」


 すると、魔物が集まっている場所の中心に、魔石があるのを発見したらしい。

 魔石を中心に何らかの魔法が使われいて、そのため死にかけながらも魔物はそこへ向かって行くのだ。


「魔法での攻撃は弾かれます。そのため、ユラさんのお茶で試してはどうかという提案が、過日の森の警戒ラインの一件に参加していた騎士から出まして」


「私も、一度は試してもいいと思っている。このままでは、森を荒らすことが多かったせいでクー・シーも出てくるだろう」


 クー・シ―とは、森に住む魔物だ。巨大な緑の毛を持つ犬の姿をしている。

 けっこう強い。LV40ぐらいあると倒せるはず……。というところで、あ、これメインの話だと思い出した。


 クー・シー討伐。

 魔物が周囲に沢山いるので、一人だと挑むのは難しい。ので、他のプレイヤーとパーティーを組んで、騎士団員のNPCを連れて行くことになる。

 騎士団員は、オートで周囲の雑魚モンスターを攻撃してくれる。

 その間に、プレイヤー達はクー・シーを倒すのだ。


 こんなに早く発生したっけ……と思うけれど、ここはリアルな状況から色々とゲーム通りにはいかない世界。でありながら、ゲームに近いことが起こる世界だ。

 とにかく強い。私が戦ってもまだ今は勝てない。


「一度現地に行き、確認しなければ難しいだろう」


「それは……」


 まさにフレイさんが嫌がりそうだ。

 行くとなれば、先に中級魔法書を入手しに町へこっそり出かけたいけれど。団長様なら手伝ってくれるかな。そうしたら、万が一のことがあっても、大分私、生き残り率高くなるんだよね。

 今だに装甲が紙ですから。


 何にせよ、フレイさんの説得が必要そうだ。

 団長様がずっと私を抱えて行動するわけにはいかないだろうし、そうしたら預け先がフレイさんになるだろうから。


「あなたには討伐者として、この作戦に参加することを要請します。いいですか?」


 イーヴァルさんが一応確認してくれる。


「わかりました」


 私に否はない。なにせ飼い主が頼みたいと言っているのだから。

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