File.23 忠犬の初めてのおつかい作戦<3>
大祐はただ真っ直ぐ道を駆け抜ける。若干、服から焦げ臭い匂いが漂うが気にしている暇はない。すると前方に炎や火の粉が舞わない空間が目に入ってきた。そこには、ベンチに腰をかけて目を閉じている沙紀がいた。
「見つけた! 沙紀さん! 気づいてください!」
大声で怒鳴るが沙紀は全く反応を示さず、身じろぎもしない。もしかしたら、意識を失っているのかもしれない、なら気づくまで大声で叫ぶ続けるしかないと大祐は、声を張り上げながら走り続けた。
(……血がいっぱい。まるであの時と同じ。でも……あの時とは違う。家族が殺される? ……分からない、どういうこと?)
見たことのない光景のはずなのに、恐怖という感情が自分の心を支配する。もう見たくないのに目を開けることが出来ない。そんな時だった、自分を呼ぶ声が聞こえる。いつも自分を勇気づけてくれる、大好きな相棒がこっちに来いと呼んでくれる。
「…………タロ?」
「沙紀さん! 起きてください!! そろそろ限界です!」
「違う……、タロじゃない」
「沙紀さん! 寝ぼけるのは後にしてください!! あちぃ!」
「大熊? …………あんた、何してるの!?」
沙紀は自分を呼ぶ声の主を確認すると急いで炎の勢いを抑える。完全に抑えることは出来ないが、何とか大祐がこちらに来れる程度には抑えられた。その炎の弱まった道を正確に読んで大祐は自分の目の前にまで駆けてきた。
「沙紀さん! 新しい腕輪です、早くこれを着けてください!」
「…………ありがとう。でも、大丈夫なの? あんたの現在の能力だと私が意識を飛ばしたら結界を張れないわよ?」
「大丈夫です! 沙紀さんの守護霊さんがどうにかしてくれます」
「は? 守護霊? 何その人任せの無謀な作戦。そもそも私に守護霊なんて…………」
「いいから着ける!」
大祐は戸惑う沙紀の手首を無理やりつけると、持ってきた腕輪を無理やり装着する。するとゆっくりと沙紀の瞼が閉じていく。
「……馬鹿…………、どうなっても知らないわよ」
完全に意識を失って力が抜けた沙紀の体がガクンと倒れてくる。その体を受け止めた大祐は、ホッと息をつく。周囲に目をやると沙紀が生み出していた青い炎が弱まってくる。しかし、周囲に燃え映った炎はまだまだ勢いを弱めない。急いで沙紀の体を防火性の高い布でくるむとその体を俵担ぎで持ち上げる。そして、無事に駆け抜けられる道を探す。
(犬。最初から私をあてにするとはどういうことだ。己でどうにかしようとはせんのか?)
「時と場合によります! 頼れる力があるなら存分に頼りにします」
(…………こやつ。まぁ、仕方ない。あちらに道を開いてやろう。あそこを抜ければお主の仲間とも合流出来るであろう。ただ、私の事は容易く口にするなよ。もちろん、この子にも。可哀そうに。鍵が外れかけておる。まだ、この鍵を開けてはならん)
女性は沙紀の額に手を伸ばすと何か術らしきものを施した。
(さぁ、行け。お主達を待っている子らがいる、その子らを救ってやるのが今回の仕事なのだろう?)
「はい。行きます」
(全てを救おうなどとは考えるな。所詮、我々は自分達の手が届く範囲の人しか救えぬのだから。その手から零れ落ちた者を悼むことは出来てもそれ以上のことをその者たちに与えることは出来ない。出来るとしたらこれから先同じことが起きないように励むことだけだ)
「肝に銘じます」
(さぁ、道を開いたぞ。さっさと行け)
大祐は、女性に一礼すると作り出された道を駆け抜けた。




