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【第二章開始】奥様は聖女様――契約妻になったらどういう訳か聖女にされました  作者: 赤城ハルナ/アサマ
【第一章】契約妻になったら外界が阿鼻叫喚になりました

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ヴァシリウス、電撃をくらう

籠城を決め込んだ奥様部屋の恐怖です。

 翌朝も奥様部屋の扉は開かなかった。話しかけても返事はない。

 扉の前に前夜の夜食が乗ったワゴンがポツンと置かれていた。手を付けられた形跡もなかった。


 何だか寂しい……俺、新婚だよな?


「アンガス、後で妻に朝食を届けておいてくれ。それから服のカタログと、一か月分のお小遣いも」

「かしこまりました、旦那様」


 契約妻のことは心配だが、扉は開かないようだから、嘘つきと毒親に絡まれることはないだろう。それに俺はもう妻帯者なのだから、『ヴァシーと再婚するの!』というリリィの不快な声もなくなるだろう。


 あぁ、結婚して本当に良かった……俺、新婚だよな?


『扉が開かないので食事は扉の外に置きました。衣服のカタログも置いたので、気に入った物があればペンで丸を付けて下さい。封筒には一か分月のお小遣いが入っています』


 扉の隙間にメモを残して国立大学へ行くと、わが研究チームの予定表が張り出されていた。十日ほどの事前調査だった。


(随分急だな)


 前々から興味があった発掘現場だから、数日くらいは行ってみよう。ついでに妻にお土産を買ってこよう。


 ……俺、新婚だよな?





 五日ほど調査に立ち会ったのち、俺は現場からお土産を抱えて屋敷に帰った。

 若い娘が好きだという噂の、フォッションのベリービスケットだ。気に入ってくれるといいな。

 チームのみんなからは、『とうとう伯爵様がご結婚を!』と、喜んでいるのか珍しがっているのかよく分からない反応が帰って来たが。


(妻がいるって何だかいいな。へへへ……)


 すると、二階からメイドの叫び声がした。


「何があった!?」


 長い足を有効に使い、螺旋階段を三段抜きで上がると、何と、奥様部屋の前に置かれたワゴンに数匹のネズミと虫がたむろしていたのだ!


 ウゲゲゲッ!


 皿にはカビたパン、腐ったスープと果物。使われなかったカタログと手を付けられていない封筒。


 扉に挟んだはずのメモは廊下に落ちていた。


「アンガス、どういうことだ、この惨状は!」

「だ、旦那様、申し訳ありません! すぐに片付けますので……」

「そういう問題じゃない、俺が留守のあいだ妻を放っておいたのか!? これが伯爵家の妻の食事か!?」

「で、ですが……奥様はお部屋から出て来ませんで、召し上がりたいものも聞けず……それに、扉も開かず中から変な音が……」

「腐った食事、ワゴンを片付けない、妻の世話もしない、お前たちは何をやっているんだ!」

「で、ですが……奥様からは専属メイドは必要ないと言われまして……」


 そこに元伯爵夫人(毒親)と居候(嘘つき)がやって来た。

「ヴァシー! 一度も挨拶に来ない、礼儀も知らない女など妻と言えますか、即刻離婚なさい! リリィも怯えていますのよ!」

「お、おば様……リリィ、あの人怖い……」

「それに、二番目に大きな部屋を与えるなんて!」

「伯爵夫人として当然だろう、お前たちにはすでに発言権はない、もうここへは来るな! 俺と妻に構うな!」


 フンっ、お前たちに用はない!


 奥様部屋のドアを開けようとしたが、鍵を使っても蹴り飛ばしても、依然として開かない。一体どうなっているんだ?

 仕方ないので、梯子を使って外から二階へ上り、ガラスを割って窓を壊した。


 ガシャーン、パリパリ!!


 そのとたん、部屋中が光り輝いた。

 太陽光線よりも眩しかった。もはや目を開けるというレベルではなかった。


「め、目が目が~~!!」

 一気に汗が噴き出して息苦しくなった。立っているのもやっとだった。


「旦那様、わたしの部屋へは入ってはいけません!」

「!?」


 いきなり幼な妻が現れた。全身光をまとった姿が神々しい。

 ――只物ではない――いや、俺の妻だった。


「それから、破壊された窓の修理は必ずわたしに立ち会わせて下さい、それまでは放っておいて下さい!」

「??」

「さぁ、ここから出て行って下さい!」

 容赦なく扉から追い出された。

 俺は夫だよ? 酷い、こんなに気遣っているのに酷すぎる。


 この扉は妻なら開くのか。

 契約妻に対する謎は深まるばかり。


 俺はその後、ワゴンを置きっぱなしにしていたメイドをクビにした。

 その上で、『衣食はどうしている? ちゃんと生活しているのか?』というメモを扉に挟んだ。

 何しろ、食事はとらない、洗濯物もない、暖炉もキャンドルも使った形跡がないのだ。しかも小遣いも使っていない。あり得ないだろう。


 翌朝、『霞を食べて生きていけるので気になさらずとも大丈夫です』というメモが扉に挟まれていた。


 契約妻は妖精なのか?





 奥様部屋は夜中も明るい。


 キャンドルなんてとっくの昔になくなっているはずなのに。それに、あんなに真っ白い光は見たことがない。

 試しにキャンドルセット一箱をメモと一緒に扉の外に置いたら、なぜかエントランスにそのまま移動していた。いくら妻に会おうとしても差し入れようとしても無駄なのだ。


(妻が生きているのか死んでいるのか、全然分からない……俺、新婚だよな?)


 心配になって奥様部屋へ行くと、いつの間にか細い針金が巡らされていた。


 グ、グアッ!


 触った途端、ピリリッと全身が痺れ、息が止まって動けなくなった。

 俺は這うようにして自室に戻った――死ぬかと思った。


(ハァハァ……心臓が止まりそうだった……な、何だコレ!??)


 もう一度窓から侵入を試みたら、窓ガラスを割る前に全身を雷で撃たれて落ちそうになった。

 今度はマジで死ぬかと思った。


 何というデンジャラス幼な妻なのか!


 ますます不安になった俺は、ときどき奥様部屋の扉から中の音を聞くようになった。グワーッという、男たちが怒鳴っているような騒々しい音が聞こえてくるかと思うと、不規則な光とともに『ワッハッハ』という不気味な笑い声がする。


サンダー! サンダー!】

サンダー! サンダー!】


 何かの呪文か!?


サンダー! サンダー!】

サンダー! サンダー!】


 これはマズい、悪魔祓いを呼ばなければならないのだろうか……あぁ、胃が痛い。


 契約妻の謎は深まるばかり。

☞次回は毒親姑と噓つきリリィの断罪回です。

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