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シューズ特訓へん


「さあ、特訓の時間よ」

 というKOGAさんの言葉で、再びビンディングシューズを履き、二人で練習を再開。

 さっきまで店の駐車場で行ってことを。

 何度何度も行って動作を、感覚を、体に染みこませる。

 KOGA曰く、

「意識して行うんじゃなくて、無意識にそれができるようになるのが理想ね」

 この言葉に応えたいという一心で地味な反復練習を何度も重ねる。

 が、なかなか思い通りにはいかない。

 無意識に、反射的に外すという境地には全然たどり着かない。

 けれど外すと意識し、右足に神経を集中させればほぼ百発百中で外せるように。

 右に関してはKOGAさんから及第点を。

 だが、左はなかなかに。

 得手とは異なる、まあ手ではなく足なのだが、ゆえに思うように。

 しかしながら前回記したように右よりも左足のほうが重要である。

 こちら側こそ完璧に離脱着をできるようにならないと。

 そう思って練習、練習、また練習。

 着けて外すという基本動作を何十回、何百回、いやこれは誇張が過ぎる百何回くらいは嵌めては外すを繰り返した。が、始めたと当初よりも精度が格段に向上したけど、百発百中というのには程遠い。

 上手く外れる時はいとも容易く簡単に、それこそ赤子の手をひねる、左足を少しひねるだけで外れるのだが、同じような動作を行っているつもりなのに、次には全然外れないということが幾度も。

 原因が分かれば、それに向けて対処をするのだが、自分のことながら何がどうしてこうなっているのかサッパリ分からない。

 KOGAさんも同様。

 ならばとKOGAさんが、

「もう少し難しい条件で練習をして、それを元に戻したら簡単にできるようになるんじゃ」、と。

 KOGAさんの提案をもっと具体的に説明するとSPDには固定力を強弱で調整できる機構が備わっていた。それを一番強い固定力にしてそれで練習することによって、最弱にした時には簡単に外せるようになるのでは、と。

 その助言に従ってみることに。

 六角レンチを持ち出して最強に。

 外れない。

 全然外れない。

 まあ、これは後で調べて分かったことではあるがSPDはマウンテンに使用する者で、山の中の道で簡単に外れないように固定力はなかなかに強力になっている。

 だけど、この時の僕は必至に外そうともがいていた。

 往々にしてこんな場合まず上手くいくようなことはほぼなく、この練習はすぐに頓挫を。ペダルに着いたままでシューズを脱いで手で外すというような醜態を。

 固定力を元に戻して、最弱にして特訓を再開。

 これが功を奏したのか、それともこれまでの特訓が身に付き始めたのか、我がことながら分からなかったけれど、それでも外せる精度がかなり高くなってきた。


「じゃあ、今度は走りながらやってみようか」

 KOGAさんの提案が。

 それにはにべもなく賛成であった。

この地味な反復練習は重要であることは認識しているものの、正直飽きていた。

 走り出す前に、まずは右足のペダルを嵌める。

 これは何度も練習で行ってきたからもう慣れたものであった。簡単に装着を。

 しかし問題は左。

 動きだしたKOGAさんの左のペダルが真上を通り越した瞬間に足を乗せる。

 装着……するはずだったのだが、上手く嵌らないままペダルは一番低い位置を通過して再び上場を辿る円運動に。

 どうして?

 さっきまでは百発百中ではなかってけど、それでもすんなり嵌めることができたのに。

 自問自答をしている僕の脳内にKOGAさんの声が、

「はんたい、反対だから」

 最初言っている意味が理解できなかった。が、すぐにKOGAさんが言わんとすることが分かった。

 KOGAさんに着けているペダルは片面使用。

 つまり、僕はビンディング機構の備わっていないもう片面、フラットの麺を一生懸命に踏み込んで嵌めようとしていたわけである。

 これではどんなに熟練を重ねても絶対に嵌らない。

 爪先を使用してペダルを回す。

「うん、大丈夫。こんどはちゃんと上になってるから」

 リトライを。

 何度も感じている感触が足の裏に。

 嵌った。

 漕ぎだすとすぐに一時停止のマークが。

「はい、外して」

 KOGAさんの声。

 道交法はちゃんと守らないと最悪の命の危機に。

 停まるための手順はこれまでとほとんど変わらない。前後のブレーキを過度にならない程度の強さでバランスよく引き、急ブレーキはジャックナイフを引き起こしてしまう可能性がある、KOGAさんの速度を減速させる。しかし今日からそこにもう一つ行程が。それは左足のビンディングを外してフリーにすること。これができないとKOGAさんの速度が0になった瞬間、というのはちょっとだけど、それでも数秒後、そこまでは持たないからコンマ何秒後に左足を地面に設置できず、バランスを保てなくなって転倒してしまう。

 声が脳内で聞こえる前に僕はもう外すための行動を。

 上手くいった。一発で外すことができた。が、予想以上に出来過ぎたために停止線の遥か前で外れてしまう。

 左右の安全を、具体的には車及び歩行者の有無、確認し、再度。

 左足のビンディングを。今度も一発で嵌る。

 嵌ったと思ったら、

「次来るよ」

 KOGAさんの声。

 自宅周辺だからすぐに十字路が、一時停止線が。

 今度はピタリの位置で外そうと密かに画策。だがしかし、停止線が間近になってもペダルとビンディングはくっ付いたまま。

 KOGAさんの速度が停止線のほぼ真上で0に。けど、まだ外れない。

 このままでコケてしまうと思った瞬間、なんとか外れて左足は無事にアスファルトの上に。立ちゴケという恥ずかしい事態を回避することが。

「一回上手くいったからといって調子に乗らないの」

 というKOGAさんのお説教。

 もっともである。余裕を持って臨めばちゃんと外せたはず。

「さあ、まだまだ、もう一回行くわよ」

 

 この後、何回か自宅周りの停止線で外す練習を。

 その後も近所で、走行中に電子柱を目印にして、これを過ぎたら嵌める、これを過ぎたら外すという特訓を行った。

 その成果か、それとも回数を行ったからなのか、どっちが要因か定かではないけど、それでも大体思い通りの、嵌める、外す、ができるようになり、KOGAさんからも合格点を貰うことが。



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