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悪魔が捧ぐオンライン  作者: ヒノキ
二章.熱と喝采編

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22/59

1.心を焦がすは熱と喝采【後編】

誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。


 この『ルシフェル・オンライン』には、街から街へのテレポート機能がある。

 とはいえ相応の対価が――現実の金銭とも紐づけられたゲーム内通貨が必要で、無作為には利用できない。


「でも今のアタシなら余裕ってね」


 キィィンと音を立てて街の中心点に降り立つのは二人組。

 一人は少女。紫紺の髪が印象的な、堕落したシスターを彷彿とさせる者。

 一人は巨漢。曇天と血が合わさったような、灰赤の体躯から筋骨が溢れる者。


 リアルならば二人に奇異の目が集まる外見だった。

 しかしここはゲーム――加えて非正規の代物だ。

 怪しい世界に魅入られたプレイヤーしか存在しない狂人の巣窟だった。

 沙多とベアルに一瞬は注目するも、次には興味を無くし視線を戻す。


「ベルのゲーム口座も登録できたし、これからはワープしまくりだね?」


 所持するゲーム内通貨を見て沙多はニンマリと笑う。

 先の裏バトルギルドの掃討戦により、懐は潤っていた。彼女に至っては、さらに以前のレアエネミー討伐による報酬も上乗せされている。


「『わぁぷ』とやらに対価を要するのが解せぬな。吾が自ら――」

「あっ、見てベル!なんか美味しそうなの売ってる、ちょい寄ってこっ」


 ベアルが不服な様子で何かを呟くも彼女の耳には入っていない。

 滅多に利用しないワープ。それも普段来ない場所ということもあり、年相応に目を輝かせた沙多は悪魔を半強制的に同伴させる。


「ほら串焼き、ベルの分もあるよ」

「ム?売り手の人間がおらぬな、これでは商いなど成立せぬぞ?」

「このゲーム、N()P()C()いないからね」

「…えぬぴいしい?」


 無人の屋台。誰も存在しない空間に向かい、食べ物を引っ張り出した沙多をベアルは訝しむ。

 しかし彼女の言うように、この世界にプレイヤー以外のキャラクターは存在せず、人間とエネミーという二つの存在のみだ。

 ゲームという娯楽に慣れた者なら"そういう仕様"として飲み込めるが、それらと無縁な異世界の悪魔には、不自然なようだ。

 

「で、どう?美味しい?アタシも食べるの初めてなんよ」

「…フム、以前とは異なる感覚であるな」

「あ~確かに。このゲーム、なんか味付け変な感じだよね。――…いや、そもそも味するだけで凄いんけど」


 余談ではあるが、沙多が知るVRとは、五感に暗示をかけて楽しむデバイスだ。

 俗にいう"フルダイブ"からは程遠く、技術革新の時代は到来していない。

 視覚や聴覚はともかく、味覚や触覚などは僅かに感じられれば御の字。

 しかし、この『ルシフェル・オンライン』は感覚機能の全てが研ぎ澄まされ、鮮明に感じる異常な造形だった。

 ここが実在する世界と勘違いしてしまうプレイヤーは珍しくない。


「吾の記憶に存在し…いや実在するものでは無いかっ…?」

「ん?故郷の味付けってやつ?」


 そんなゲームが提供する風味を前に、珍しく悪魔は曖昧な感想しか述べなかった。

 沙多が問うも、答えに辿り着けるわけもなく完食に至る。


――――――

――――

――


「なんか山道歩いてるとベルん家思い出すなぁ」

「それほど類似せぬだろう、サタ…いや妹君よっ」


 あれから一時間後、二人の歩く姿が山麓にあった。

 「最近アタシ山ばっか歩いてない?」とウンザリする沙多と、彼女の要望を守り『妹君』と呼ぶベアル。

 二人が目指すのはとある山頂だった。

 そこに近藤が残したレアエネミーが座するという。


「吾の根城は凡庸な山地である、なればこの火砕丘とは結び付かぬ」


 補足するなら、これから向かうのはただの山ではなく、活火山という点だ。

 火山礫や岩塊が降り積もって丘を成した危険地帯へ、二人は赴く。


 歩を進めるごとに岩肌が露出し、緑が芽生えない環境へと変わる地帯。

 遭遇するエネミーも生態が異なり、体が石の如く硬化した蜥蜴や、意志を持ったマグマさながらのスライムと会敵する。

 とはいえ、それは些細な問題だ。

 歴戦の暴君であるベアルはもとより、沙多もスキル構成を予め変更して難なく処理を可能にしていた。

 効果を見込めない炎系統の魔法を外し、氷系統のスキルをセット。耐火の手段を増やしている。

 彼女の備えも功を成し、道中での目立った苦労は相変わらず無かった。しかし――。


「ベルッ!!あぶな――!」


 山の中腹まで登ったところで想定外の事態が訪れた。


 歩くのは舗装などされていない岨道(そばじ)

 だが、地面にしては不自然なほど柔らかい箇所を悪魔が踏み潰し、同時にカチッという音が鳴った。

 それが人為的に用意されたトラップだと沙多は察する。

 反射的に叫ぶが間に合わない。対向にある岩石群の隙間から矢が無数に乱射された。


「弓兵か?」


 矢がベアルの胴に突き刺さる――と思いきや、あまりにも強靭な肉体がそれを弾いた。

 

「は?エグッ、アンタの筋肉どうなってんの?」


 沙多はドン引きもそこそこに、セットした氷の魔法で地面一帯を凍らせ罠の起動を無効化。

 儚くも役目を全うできなかった幾重の矢、それを防いだ悪魔の身体に興味深く触れる。

 そこで異常が起きた。


「っ、あぇ…?」

「どうしたのだ?妹君よ」


 途端に四肢から力が抜ける。呂律も危うくなり、そのまま崩れ落ちる。

 そこでようやく彼女はそれが毒――麻痺の効果が塗布された矢じりだったと気付く。


 「えっじゃあ、なしてベルは平気なん?」という別の異常事態も浮かんできたが、それに構う余裕は無かった。


「今だ!やっちゃえッ!」


 思考の外から、一人の少女の声が響く。

 それに呼応して飛び出すのは四人の影。

 彼らが狙うのは隙だらけの沙多――ではなくベアル。


「って何で麻痺ってないの!?」


 再び少女が叫ぶが、それは困惑を示していた。

 とはいえ一同は攻撃の意思を緩めない。

 ローブを纏った女性が水球を創り出し、悪魔を包み閉じ込める。

 そこへ少年が引き絞ったクロスボウから矢を放つ。

 青い軌道を描く一風変わったそれは、切っ先が水球に触れた途端、連鎖的に氷結。一瞬で氷の塊へと変化し、ベアルを拘束する強固な氷の牢獄となる。


「やった、ウチらのコンボ炸裂!」

「油断せんようにな、残るはその()だけなんか?」


 関西訛りに、大盾を背負った男が立ち塞がるように周囲を俯瞰する。

 男の眼前には氷漬けにされたベアル。

 指一本たりとも動かせないほどに圧迫され、呼吸もままならず、酸欠を免れない驚異的な連携だった。だが――


――ピシッと亀裂が氷塊から生じる。


「なっ!?」


 驚愕する暇も与えずにバンッと内側から弾ける。

 中からは悪魔が何事も無かったように仁王立ちしていた。


「スガ!下がれッ」


 呆気とられる大盾の男を『スガ』と呼び、喚起する青年はそのままベアルに真っ向から突撃する。

 彼が手に持つのは刃が潰れた両手剣。

 それでも人に向けるには充分と言わんばかりに袈裟斬りを試みる。


――しかしこれも悪魔の肉体には通じない。

 刃が潰れていれば尚更だ。直撃を受けて微塵にも揺らがない体幹に瞠目する。


「この人ホントにどうなってるの!?しょうがないっ、()()やるわよ!」

「あいあいさー!」


 反撃が来ると悟るや否や、ローブの女性が隙をカバーするため小柄な少女へ呼びかける。

 頷いた少女は、両手の親指と人差し指で、カメラシャッターのような枠組みを作り――


「【ファイアバード】!!」


 構えた手をカシャリと閉じる。

 刹那、鳥を象った炎が出現。錐もみ回転しながらベアルに突撃した。 

 

「フム、興味深い術であるなっ」


 しかし当の本人は意にも介さない。

 超高熱であるはずのそれを片腕で受け止め、あまつさえ相手の技に関心を示す。

 

「ここっ!【ヴォダ】!」


 続いてローブの女性が呪文を口ずさみ短杖(ワンド)を振るう。

 彼女が呼び起こすのは凄まじい威力の間欠泉。

  

 単体でも人など優に吹き飛ばす攻撃。だがこれで終わりではない。

 そのまま水流は少女の放った炎と接触し――爆発。

 水蒸気となって膨れ上がった衝撃が、悪魔を芯で捉えた。

 余波で味方すらも立っていられず、姿勢が崩れる。


「あれ、これ死んじゃった?殺しちゃダメじゃない?」

「まだ分からない。肉体(フィジカル)に補佐効果がある(ジョブ)なら或いは…」


 やり過ぎたと焦る少女に、警戒を続け両手剣を構える青年。

 爆心地は立ち昇る煙に、巻き上がる土砂で荒れ果てていた。


「前出ちゃアカンでっ、オレが確認する」


 そんな中、彼らを手で制し、大盾の男は防壁(タンク)役を全うするため前に出る。

 悪魔の様態を確認すべく、煙の向こうに目を凝らし――刹那。 


「ムガッ!?」


 大盾を持つ男の顔面が鷲掴みにされた。

 一瞬たりとも隙を見せてはいない。しかしベアルは反応できない速度で、この包囲網に反撃を開始した。


一回のワープで四、五万くらい飛んでる設定

現在の沙多の所持金はギルド崩しで約百万、最初のレアエネミー討伐で約八十万。

元々の手持ちと合わせて二百前後。ベアルのお金も彼女が管轄


積み重なってたとはいえ、近藤はデスペナで四桁万円近くの損失なのに、それを討伐した沙多は十分の一以下の利益。誰だ、中抜きしたの

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