5.貴方と終えるギルド崩し【章末-後編】
誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。
「イテテ…見つかりませんねぇ」
軋む体に鞭を打ち、探し物の途中である新堂。
手に入れた冊子を照らし合わせる為、裏ギルドの片隅を物色していた。
「ほらほら、シャキっと探す!」
一方沙多は、かつて近藤が腰を下ろしたであろう椅子に乗り、優雅に寛いでいた。
情報を引き出した功績と、想定よりも敵が多かった怨念を込め、上司をこき使う。
ちなみに彼がフラフラながらも動けるようになったのは、今しがたの事である。
「団長~、そんなんじゃ日が暮れるよ?アタシ明日学校あるのになぁ?」
「何で僕こんなに嫌われてるんですかねぇ?これでも子供受けは良い方だと自負してたんですが」
調子よくアンタから、団長呼びへ移行する沙多。
ギルド崩し成功により、見るからに上機嫌だった。口元が緩み、いつもより多めにウザ絡む。
(ですが近藤君が沙多さんを気に入ってくれたおかげで勝利。情報も円滑に獲得……)
実績を羅列すれば、頭が上がらない事実がある。
大人しく従うほかないだろう。
とはいえこの話題を擦られたくないので、話を逸らす新堂。
「しかし沙多さん、随分と君はこのゲームを楽しめるようになったみたいですねぇ」
「…まーね、最近色々あったし」
だが何気ない回答に、彼の手はピタリと止まった。
「……へぇ」
「なに、楽しんじゃ悪い?」
「いえいえ、とんでも」
思わず、感慨深いと息を漏らす新堂。
それは初対面時、彼だけが知る初心者時代。当時からは想像できないような言葉だった。
「僕は純粋に嬉しいですよ。この世界と共に歩む君の姿を見て」
「それ誰目線?父親かっての」
飄々とした様子が消えた声音。妙なむず痒さを感じた。
杖の持ち手でツッコみとして、緑髪天パの頭を軽く叩く。
「…アタシも探す」
これでおあいこと言わんばかりに、雰囲気を払拭。沙多もメモ探しに加われば――
「――ありました、恐らくこれですね。内容を見るに間違いないでしょう」
数分後、それらしき用紙を新堂が手にした。軽く目を通し、整合性を確認していく。
「暗号とかは任せていい?アタシそういうのニガテ」
「元より君に預けるつもりはありません。僕が受け持ちます」
ブラフや偽造品でないことも無事確認。
これで裏ギルドへの用件は消える。
「さて、それでは帰りましょうかねぇ」
もぬけの殻とはいえ、敵地に長らく留まる理由もない。
適当に金目の物を物色、回収しながら出口に向かった。
***
「そういえば沙多さん、僕のギルドを出ていかれますかぁ?」
全てを後に、外へと繋がる地下の連絡通路を移動中。新堂らの時計塔までそう遠くない距離。
帰ったら何をしようかと悩む沙多を尻目に、ふと尋ねる。
「え、急になんで?」
「例の彼――ベアルさんと行動しているようですし、君は一人でも充分強くなった。もう僕の所に居る意味は無いと思いまして」
二人は利害の一致による関係。
新堂はアイテムや知識を与え、沙多はギルドの繁盛に協力する。
だが沙多の目的は、レアエネミーがもたらす天恵の獲得。
彼もそれを理解しているが故、ここを潮時とした。
「え、なんか薄情じゃん」
「元々僕のギルドは"マイン"系譜、お金稼ぎが目的です。君とは相性が悪い」
本来、全く接点が無いはずの二人だ。
彼にとって、ギルドに誘う動機も理由も存在しなかった。
「じゃあなしてアタシを誘ったん?」
「…ただの気まぐれです」
しかし現に勧誘したのは、他の誰でもない新堂。
顔を合わせたとて、そのまますれ違うだけだった運命を捻じ曲げたのは彼だ。
「…ほんとにそれだけ?」
ようやく地下を抜け、闇を知らせる夜光が二人の顔を照らす。
沙多は冷えた空気に晒されたその顔を覗くも、表情筋は不動。
一つも理由など無いと新堂は口を開く。
「ええ、もちろん」
――もちろん、嘘だ。
……
…
――新堂は金銭にがめつい。損得勘定で行動し、利益を第一にする狂人だ。
ただそれ以前に、彼はこの世界が大好きだ。
ゲームという範疇に収まらぬ興奮と衝動。
もはや二つ目の人生と言っていいほどの世界で、彼は生きると決めた。
仕事を辞め、資産も時間も全てこの『ルシフェル・オンライン』に投げ打った。
それに後悔は微塵もなかった。
むしろ、楽しさだけが加速した。
それから間もなく、駆け出し時代の沙多と出会った。
一方の彼女からは"楽しさ"をまるで感じない。
この世界に、冷めた目を向けていた。
――繰り返すが、新堂は金にがめつい。
そんな沙多を、自身のギルドへ誘った。それも組織として地盤が整ってすらいない段階で。
当然、善意ではなく打算があった行為だ。
貸しを作る、弱みを握る、都合の良いように先導するなど幾らでも出来よう。そんな思考は確かにあった。
論理的な理由など後付けできる。
今ここで勧誘するデメリット、リスクすら捻じ伏せる理屈を、無限に胸中へと取り繕えよう。
――だがなにより、このまま放っておくのが癪だった。
何もしなければ、狂おしいほど魅了されたこの世界を否定されたまま沙多と別れる。
いや、それだけならば良い。まだ良い。
楽しくないのなら、ゲームを辞めればいい。
なのに彼女はゲームを続ける。そんな覚悟が見えた。
つまり、またどこかで出会うことになる。
次に合うときも、きっと同じ感情を持ち続けているのだろう、『つまらない』と。
その次も、またその次も、なんの切っ掛けも無ければ、その熱は動かない。
同じ目をし続けるという確信があった。
――これが癪に障らずして何になるか?
故に、新堂は勧誘を決めた。たった一つの感情論で。
好きなものを共有するように、愛したゲームの素晴らしさを伝えるただのゲーマーのように、『ルシフェル・オンライン』を手引きした。
…
……
「これも一つの手向けです。この世界、君はもっと楽しむべきだ」
言葉では刺々しいが、確かな想いだった。
もう『つまらない』と言う彼女は居ないだろう。
「ん~とりま、まだいっかな。もうしばらくお世話んなる予定。何やかんや居心地いいし」
だが彼の胸中も露知らず、まだ頼り続けるという宣言を零す沙多。
「……では退屈しないよう、仕事の量でも増やしますかねぇ」
「…居心地いっきに悪くなったんだが?アタシのギルド」
これに新堂はケラケラと皮肉を返す。
「あ、でも借金はどちらにせよ返してくださいね?その服と杖の」
しかし何度でもいうが、金にがめつい。
数十万はする装備を祝儀に贈ったりもしない。
「…アタシ、アンタのそういうトコ嫌い」
そして巨大な時計台の一角が見える頃、再びアンタ呼びへと戻った。
「あっ、てかベルの様子見に行かんとヤバイじゃん」
「……今更ですか?」
――やがて今一番の、大きな悩みの種も思い出した。
今、悪魔が何をしているかなど想像も出来ない。
最悪の場合、ガチャガチャとVRを弄って破壊。数万円はする出費になるかもと、沙多の背筋をゾクゾク伝った。
「まってすっかり忘れてたッ、アタシもう戻んなきゃ!」
次の瞬間、沙多は大急ぎで駆け出す。
「ええ、ではまた後日」
街の中やギルドでなければログアウトに不便。
そんな事情にて急ぐ彼女を、ゆっくりと歩く新堂は見送った。
ここまでがリメイクの範囲内です
次のエピソードに近藤の掘り下げあるけど、まあ放置でいいや




