表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔が捧ぐオンライン  作者: ヒノキ
一章.ギルド崩し編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/59

3.致命の一打と、ギルド崩し【後編】

誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。


「…エ?…はぁッ!?」

「…ア"ァン?」


 まるでプツッと何かが途切れたようだった。

 一瞬の静寂の後、沙多は素っ頓狂な声を上げる。

 近藤も首を傾げている様子から、相手の仕組んだ罠ではない事は明らか。


――敵の魔法かアイテム!?

――ベルの体力ほんとは切れてた!?

――操作ミスってログアウトした!?


 可能な限り頭を回すが、どれも肯定できない。

 敵の攻撃なら、相応の予兆や演出が生じる。そもそもプレイヤーを消す術など沙多は聞いたことがない。

 体力もこのゲームはゼロになった瞬間、プレイヤーは泡となって消える。例外となるスキルやアイテムはあれど、今のベアルにそれが可能なはずがない。

 ログアウトも戦闘中は不可能となる。また、ベアルはああ見えて学習は早い。

 沙多が教えた事項には従い、余計な操作はしない筈だ。


「…まさかッ」


 そこで唯一の可能性が脳裏によぎる。


――『ほう、電気とやらはここで役立つのかっ。今までそやつの意義を理解していなかったな』


 それはベアルの家へ赴いた時に聞いた一言。

 当時は聞き流したそれも、嫌な意味を帯びてくる。


「電気止められた!?電気代払ってないんッ!?」


 あり得るッ!ベルならあり得るッ!!と、沙多は握りこぶしを作る。

 何せ浮世離れした場所に住まう彼だ。言動から見てもインフラのあれこれに詳しい訳がない。


***


「ムッ!?ここは――吾が根城かッ?」


 目を開くと、廃墟寸前の景色が悪魔を迎え入れる。

 電灯も無い夜中。畳の上でVR機のみが発光する違和感がえげつない。

 本来ならば寝そべるか、椅子にもたれ掛かる姿勢でプレイする所を、何故か仁王立ちで意識を飛ばしていたベアル。

 その驚異的なバランス、立ち姿のまま頭から機器を外す。


 覗き込んだ画面からは『通信エラー』の文字を残してシャットダウン。

 奇しくも沙多の予想は外れてはいなかった。


「…不可解であるな、『おんらいん』への道が何故断たれた?」


 が、当然悪魔にそれが理解できるはずもない。おまけに文字も。

 加えて沙多から「あんま勝手に弄らないで」と言いつけがある為、ベアルに出来ることは少ない。


「妹君は未だあの『げぇむ』であろう、ならば明朝を待つのみかッ?」


 或いは現実の沙多の住処へ赴こうかと考えたその時、ベアルはとある異変に気付く。


「…吾の魔力が――枯渇しているッ?」


 電力によって賄われるゲーム機やネットワーク。

 当然それを利用するには電気代が必要で、ベアルも例に漏れない。沙多はそう思っていた。

 だが事実は少し違う。

 

 悪魔は自身の魔力を無理やり動力として、ゲームをプレイしていた。

 電力に限らず水道も同じだ。沙多が訪れた際、廃墟同然の住処にも関わらず最低限の生活基盤が整っていたのは、彼の一人の生命エネルギーによるもの。


 魔力が枯れれば全てのインフラを失う。そういった制約の元、ベアルは『ルシフェル・オンライン』をプレイしていた。


「これが原因かっ?致し方あるまいッ、魔力の生成と貯蔵を優先せねばならぬ」

 

 山吹色から深緑にグラデーションした長髪。その毛先を束ねる七つの水晶――いつの間にか透明色から黒く濁ったそれを全て解く。

 次にベアルは胡坐をかいて座り、意識を集中。極度の瞑想状態へと移行した。


***


「大事な時にガチで言ってる!?てかリアルで大人しくしてるよね!?ゲーム機叩いて直そうとか思ってないよね!?」

「――ぶハハはははッ!なんだァ?お笑い枠かよッ!?」


 ベアルが消え、頭を抱える沙多を近藤は笑い飛ばす。が、次第に口角が下がった。


「つってもシラケんなァ、せっかく盛り上がってきたってのによ」


 悪魔が居てこそ脅威があった戦い、彼が去ればどちらが優勢なのかは明白。

 裏ギルドの面々は、敗北が遠ざかり嬉々とした感情を表に出す。それが普通だ。

 しかし近藤は哀の感情を浮かべた。


「ガキ潰してお(しめ)ェとか、エンディングにゃ不釣り合いだ。それとも尻尾巻いて逃げっかァ?」

「…は?舐めんな、ベルがいなくてもアタシはやる。元々そのつもりだし」


――ベルと出会って、何かが変わるかも。

――これまでの全部が報われるかも。

――ベルに任せれば、しんどい思いをしないで済むかも。


 そんな思いは少なからず、確かに沙多の中にあった。

 悪魔に依存し、甘えれば楽に次のステージへ進める予感が。

 

 だが沙多は元々この世界で孤独だった。

 一人、『ゲームを楽しむ』という範疇から外れ、苦しみもがいて今がある。


「アタシがアンタを倒すからっ」


 故に、今更その覚悟が揺らぐ事などあり得ない。

 沙多は杖の切っ先を突きつけ、迎撃に移る。


「おいおい勇ましいじゃねえかッ。んじゃァせいぜい良い声で泣いてみろや!」


 だが相手は裏ギルドの団長に加え、側近には手練れの腹心。

 さらに彼女らを囲むように、辺りには敵味方の勢力が入り乱れる。

 各々が自分の生存のために必死だ。助けてくれる存在はどこにもいない。


 敵が一歩目を踏み出すと同時に沙多もバックステップ。

 引き際に地面へ魔法を打ち込んで火柱を生み出すが、真っ直ぐ突っ込むほど相手も愚かではない。

 回避で二手に分かれた影、沙多が先に対処するのは近藤――ではなく速さが最も優れた、アサシンの如き側近。

 刹那の空白から一気に間を詰め、ナイフで彼女の首を狙う。

 これには杖を棒術の要領で振るい、カバーできない隙は重力魔法を極小の範囲で発生させる。

 腕や足を的確に狙い、動きを僅かに鈍らせて防御。


「横がガラ空きだぜッ?」


 だが間に近藤が割り込む。 

 【完全強化付与(フルエンチャント)】による効果のピークは過ぎているものの、効果は絶大だ。

 近藤の居る辺り一帯を重力強化で鈍くし、さらに杖を挟んで防御するものの、全てを振り切って沙多に一撃をお見舞いした。


「洒落臭ェッ!!」

「――ガハッ!」


 直撃は免れたものの、石畳を激しく転げて体に痛みを刻んでいく。

 杖を落とさずに握りしめていたのは幸運だ。

 震えた手足で起き上がろうとすれば、一人がナイフを投擲。

 ダメージが蓄積した沙多には避けきれず、腕に一筋の赤い線を作る。


「終わりだ」

「なにを――」


 ナイフの持ち主だった側近は勝利を告げる。

 その相手の意味を沙多は理解すると同時――口から何度も血を吐き出した。


「ゲホッ、ゴホッ…毒!?ゴホッ」


 即座に悪化する様態。鼻血が噴き出し、目眩が発生。呼吸も困難になり喉へ手を添える。

 遂にはバランスすら保てなくなりドサッと床に這いつくばった。


「随分あっけねぇなァ、最初の動きにゃ期待できたんだが…」


 恐らくこれで主戦力は全て削いだ。あとは敗残兵の処理のみ。と、近藤が意識を周囲に向けると――再び白い閃光が視界の端で迸った。


「なにッ!?」


 咄嗟の回避で近藤は身を捩る。しかし大柄な彼の身体が死角となり、側近の一人は反応が遅れた。

 響いたのは、パンッとプラズマの弾ける音。

 沙多の主力である魔法、【フレア】だ。


「…二人目ッ」

「おいおい、どうやって生きてやがる。普通は死ぬだろが」


 渾身ではなく、さらに防御されているとはいえ、与えたのは強化付与(エンチャント)されたギルドマスターの衝打。とどめに死に至る毒も喰らっている。

 その時点で近接に弱い魔法職ならば、致命傷どころか泡となって消えているべきだ。


「元が近接主体か…?だがフレアの威力は魔法専門の…いや待て、なんで重力魔法も使えてやがる」


 本来、沙多の容態は瀕死であるはずだが、反撃を許した。

 つまり【魔導士(ウィザード)】職のスキルを扱え、【祈祷師(シャーマン)】職のスキルも扱え、おまけに解毒まで可能。

 それが許されるのは――。


「テメェ!占星術師か!?」


 (ジョブ)――【占星術師】。

 通常ならば各々の(ジョブ)には、固有の必殺技や、膂力に俊敏性といった肉体への補正(サポート)が存在する。

 一方で、占星術師という職種はこれらの強力な恩恵を、何一つとして受けられない。

 しかしこの制約と引き換えに、ある特性を有する。


 それは――あらゆるスキルから数種類だけ選び、セットしたものを最上位の練度で行使できる事。

 補足すると件のスキルの他に、【武芸師】から近接に対応できる護身の【棒術】を沙多は拝借している。


「んで治癒師(ヒーラー)の技をパクッて回復か、んなマイナーな(ジョブ)なんざ忘れてたぜ」

「あ~きつ、バレんの速いっての」


 沙多は苦虫を噛み潰したように呻く。

 占星術師は、初見の相手に対しては手札を悟られず滅法強く出れる。が、正体が割れれば器用貧乏に過ぎない。いわば初見殺しが本領のバトルスタイルだ。


「テメェら気を付けやがれ、このガキャ、占星術師だぜェッ!?」


 故に大声で周囲に知らしめれば勝ち目は消える。

 両手の指で数え切れないほどの敵勢が、しかと忠告を聞き届けてしまう。

 

 仮に近藤が負けたとしても、その場に残るのは手札がすべて割れた少女だ。

 出来ることが限られた上、何をするか明確な相手など、プレイヤーにとっては赤子に等しい。


 対して味方の数は、いつの間にか片手で事足りてしまうまで減っていた。

 戦闘不能か、或いは撤退したのだろう。

 戦える者は、沙多を除いて存在しなかった。


「うわ…最悪…っ」

「こりゃァ、詰みだろ。それともテメェにも切り札はあるってかァ?」


 まさしく孤軍奮闘。加えてまだ近藤の手札は残っている。沙多にとっては凶報でしかない。

 対して勝ち筋が濃厚となった敵は、安堵と歓喜の一途。

 天恵を叶えた未来を想起し、嗜虐的な笑みを浮かべる。


「――なら僕が見せるしかありませんねぇ、切り札を」


 そして悪意の熱が渦巻く中、やけに鮮明に聞こえる声に、全員が視線を奪われた。

そういや新堂の友人こと無所属プレイヤー三人の見せ場はほぼ無いです。


一人は瓦礫に圧殺され出オチ。

↑地味にヒーラーの役割も出来た。開幕で死んだの痛手すぎ。


一人は描写外でやられてる。

↑崩落時、どっかに武器落とした。素手で頑張ったけど無理だった。


一人はこの場に居合わせてるけど、そこら辺で瀕死になってる。

↑今後ますますのご活躍をお祈り申し上げます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ