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数日して、ルーナを狙った犯人が分かった。
エリオス王子の結婚相手候補だったクラリス様のお父様だった。
どこからかルーナが自分の実家に帰っているのを嗅ぎ出し、亡き者にしようと暗殺者を向けたのだ。
仮にもルーナは王族の一員になっていたため、クラリス様のお父様は処罰されたらしい……
クラリス様は修道院へ連れて行かれたが笑顔で日々を過ごしているという報告を聞いた。
自分のお父様の指示に長年したがってきたクラリス様からしたら、案外心穏やかに過ごせているのかもしれない……
そうして、エリオス様達とルーナが王都に戻るために出発する朝になった。
見送りのために駆けつけられる家族は全員きてくれた。
「ルーナ、また高度な魔法を使ったんだって?」
プチ家族会議をしたぶりに会うファーレお兄様がルーナを呆れた顔で見た。
この別れの日までは家族にいつも通りのルーナとして接してもらっていた。
明日からは王太子妃として例え家族でも敬って接してもらわなければならない。
「でも役に立ったから……」
ルーナはたじたじで答える。
「貴族たちへの抑止力にもなったみたいだね。今回の件で王太子妃に反撃されたら洒落にならないって広まったみたいだよ」
エリオス王子がルーナに語りかけるふりをしてファーレの発言にフォローしてくれた。
「エリオス殿下、ルーナは昔から魔法を使って騒ぎを起こしていましたが、全て誰かを守る理由からでした。今までは領民を守るという範囲でしたが、これからは国民を守るという広範囲になるでしょう」
お父様がそう語る。
「それが少し心配でもありますが、王国が管理してくれるならありがたい」
お父様はふふっと冗談めかして笑った。
「本当に、ある意味1番安全な嫁ぎ先かもしれませんね」
お母様もお父様と一緒に笑いあった。
「もー、お父様もお母様も私を珍獣扱いしないで下さい!」
ルーナが照れながら怒っている。
「学園でもね、2年生の時に一般市民の友達の子がバカにされたから怒って使っちゃったらしいよ」
ファーレお兄様がエリオス様にコソっと告げた。
ルーナは大事な人を失うことを1番恐れている。
だから人一倍大事な人を守りたいのだ。
シャーロット様やカトリーヌ様から隠れて生活していたのも、自分がいじめられるのが怖いからだけではなく、もしそのいじめがルーナの大事な人にまで及んだら、感情を、魔法を抑えられるか分からなかったからだ。
「困った所もある娘ですが、どうかよろしくお願いいたします」
お父様が真面目な表情に戻ると、エリオス様に頭を下げた。
それに倣ってお母様や他の兄弟たちも頭を下げる。
「パパ……」
ルーナは潤ませた瞳で家族を見た。
「はい。過去のルーナもこれからのルーナも必ず幸せにします」
家族たちは一瞬驚いた表情をしたがエリオス様の力強い言葉を聞いて安心して笑った。
エリオス様は過去のルーナ、前世持ちの私ごと幸せにしてくれる約束をしてくれた。
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私たちの結婚式は国を挙げて盛大に行われた。
式の翌日、カンデラアカデミーにお願いしていつものサロンを借りた。
休日だったのでちょうどよく、現役学生はいなかった。
サロンを借りたのは、学友たちを招いてフランクな披露宴パーティを開催するためだった。
薄暗くなった夕方からスタートだ。
披露宴パーティといってもいつものサロンで美味しいものを食べて飲んでおしゃべりをする。
学生時代と変わらない感じだ。
王宮の料理が振る舞われるので食事が格段に豪華になったけど。
中盤にさしかかること、自然とルーナとサッシャとエマが集まった。
いつもの3人組だ。
「ルーナが王太子妃になるなんてねぇ」
学生時代のようにサッシャがルーナにしゃべりかける。
この日は無礼講ということでみんなに敬語は使わないようにお願いしている。
「本当にビックリしたよ! 卒業パーティのエリオス様とのダンス、素敵だったよねぇ」
エマが当時を思い出しているのかうっとりしている。
Cクラスのみんなは開け放たれた窓から王宮内を見てたらしく、ルーナとエリオス様のダンスもバッチリ目撃していた。
「ねー、本当に私もビックリしたよぉ。プロポーズの意味知らなかったから魔法使って翌朝逃げちゃったし」
ルーナがワイングラスを傾けながらしゃべる。
今は妊娠の心配はない時期らしい。
学生時代のようにセーブしなくていいので好きなだけ飲んでほろ酔いになっていた。
遠くでジーク様がエリオス様に謝り倒しているのが見えた。
……第二夫人発言についてかな?
ルーナの隣にいるサッシャも呆れた表情で2人の様子を見ていた。
「どんな魔法使ったの?」
エマが好奇心旺盛な目で見てくる。
「実演しましょうか?」
ルーナが楽しそうに笑う。
「私は雨雲の魔法が見たいですぅ」
いつの間にか側に座っていたリリィが発言する。
王家の影のリーダーは、今ではルーナの専属だった。
影なのにあんまり隠れないのがリリィ流らしい。
他の有能な部下をエリオス様につかせている。
「いいよー」
ほろ酔いルーナが古代語をつむぐ。
ルーナの周りに優しい銀色の光が舞い、その一部が外に飛んで行った。
サロンの大きな窓から見える空の一部が黒くなり、雨が降り出しそうになった。
けど何かが降り出したと思ったら一瞬で氷に変わり、辺りにキラキラと細かく飛散した。
「綺麗……」
エマたちが感嘆する。
他のパーティ参加者もおぉ〜と驚いて拍手してくれた。
「雨じゃ面白くないから氷にして砕いてみたよ。綺麗に出来たー」
ほろ酔いルーナは上機嫌だった。
「魔法の使い過ぎには気をつけてね」
そこにエリオス様が現れて、ルーナの横に座る。
そして側近でありいつもそばで補佐をしているレオン様も近くに来てみんなと座った。
学生時代と変わらない光景だ。
いつからかルーナの隣には必ずエリオス様であるテオ様がいた。
クラスメートからしたら、テオ様=エリオス様ということが分かってから2人が結ばれたのは納得の成り行きだった。
「私が魔法を使って寝てしまうことをリオ様が気にしてるからぁ、編み出したんですよー」
ヘラヘラルーナが楽しげに揺れながらしゃべる。
「何を?」
そんなルーナを優しい眼差しの王太子様が見つめる。
これも学生時代からのいつもの風景だ。
「魔法を使う代償に、接種したアルコールを使うようにしてみましたぁ。威力は落ちますが酔っている時は魔法使いたい放題です」
ルーナがわざとらしくビシッとキメ顔をする。
そんなルーナを見て可愛いなとでも言うようにエリオス様はニコニコ笑っていた。
「……どんどんルーナが最強になっていく……」
「……でも、最強の王太子妃に守られるなら、安心じゃない?」
サッシャとエマがお互い見合わせて喋った。
「ルーナは、エリオス様のどこを好きになったの?」
ふと気になったエマが質問した。
エマの隣でサッシャが「顔?」と笑いながら言った。
ルーナの隣に座るエリオス様も続きが聞きたくてルーナの顔を覗き込む。
「そりゃぁもちろん……」
ルーナは言いながらエリオス様と出会った当時を思い出していた。
この人と一緒にいつまでも居たいと初めて思ったきっかけ……
ルーナは自分にとって最大級の愛の表現をした。
「リオ様と飲むお酒が1番美味しかったからだよ」
最後まで読んで下さり、ありがとうございました。
この物語が、あなたに届いたことを嬉しく思います。




