15
強化練習は順調に続いているようで、シモンも泣き言を言わず頑張っているようだ。
あれからシモンの友人や、Cクラスの他の剣術が強くなりたい男の子が参加してるらしく、今ではちょっとした人数になっていた。
「いよいよ明日ですね」
「そうだね」
ルーナとテオ様は、今日も2人でまったりベンチトークだ。
だいぶ肌寒い季節になってきた。
「シモンは、いい線いきそうですか?」
「うん。なかなか筋はいいよ」
「じゃぁ後は応援ですね!」
ルーナはぐっと手を握った。
「シモン、明日の模擬戦で使う剣を貸してくれる??」
授業が始まる前、強化練習から帰ってきたシモンに、ルーナは声をかけた。
「?? 何で?」
「ふふふ、放課後にとっておきの秘策を授けます」
ルーナは不敵に笑った。
「加護魔法を剣にかけるんだよ。まぁちょっとした応援になるぐらいだけどね」
「魔法をかけるのはルールに反しないか?」
シモンが眉をひそめてルーナを見た。
「あのね……加護魔法だけは禁止されてなくて……」
ルーナは今回の作戦を伝えた。
そして秋麗祭当日、澄み渡る秋晴れの中、模擬戦が開催された。
アカデミーには闘技場があり、その周りには、すり鉢状に観客席がある。
なんとなくクラスごとに塊が出来ており、ルーナたちもCクラスのみんなと席に座っていた。
ルーナの隣には、ちゃっかりテオ様が座っており、その隣にはレオン様だ。
「僕らは強いからシード枠だしね」
準備は無いの?と聞くと、テオ様がさらりと答えた。
シード枠だから、初戦の開催時間は暇らしい。
「次はいよいよシモンだね!」
ルーナがチラリとBクラスを見ると、シモンの婚約者のルクアも応援に来ていた。
ーーーーーー
「勝者! Cクラス、シモン・レナウザー!!」
「「「わぁー!!!」」」
場内に歓声があがる。
そんな中、抗議の声があがった。
「ちょっと待ってくれないか。Cクラスの生徒の剣には、何か魔術がかかっているのでは? 私は魔術の心得があってね」
帝国学のサイラス先生が声をあげた。
Aクラス贔屓の年配の男性だ。
シモンはさっきAクラスの男の子と戦って勝ったのだ。
ルーナは舌打ちしそうになった。
魔法判定をするロベルト先生は、言いくるめて味方にしているのだが、サイラス先生の方が年上だ。
強く出れない状況で不利だった。
ルーナは、魔法の不正利用をしていないか審査するために、審査員席に座っているロベルト先生をチラリと見た。
ロベルト先生は、眉を下げて困った顔をしている。
誰か生徒から苦情があがると思っていたけれど、まさか先生から上がるとは……
ルーナは意を決して、緩い三つ編みを解き、メガネを外した。
ステルスモード解除だ。
「それは〝加護〟です。校則に書いておりました。 〝秋麗祭の模擬戦では、ポルンフォスの戦いになぞらえ、加護以外の魔法を禁止する〟と。 伴侶である春の女神アリオンヌが、英雄シルファーに加護を授けた。の一節ですね」
ルーナが立ち上がり、凛とした声を張り上げた。
校則には書いているが、誰もが忘れ去っていることだった。
ルーナは校則の隙間をつけるように、全ての校則に隈なく目を通していた。
校則に抵触せずお酒が飲みたい一心で。
「君は?」
サイラス先生が尋ねた。
ルーナはサイラス先生の授業は受けてないので、面識がなかった。
「マクシミリア。……ルーナ・マクシミリアです」
ルーナは澄んだ緑の瞳で、相手をみぬいた。
「……ロベルト先生、本当ですか?」
サイラス先生が、魔法判定員のロベルト先生に聞いた。
「はい。マクシミリアさんの言うことは本当です。加護のみ使用可能です」
ロベルト先生は答えながら視線を動かす。
「……ですよね、学園長」
そしてロベルト先生は、判断を学園長に投げた。
学園長も審査員席に座っている。
白髪でおしゃれなスーツを着こなした、ダンディなお爺さまだ。
「……加護をかけたのは、マクシミリアさんですか?」
学園長は口を開いた。
「いいえっ」
「わ、私です!」
ルーナの返事に被せるように、Bクラスから声が上がった。
手をあげたルクアが、緊張した面持ちで立ち上がる。
「シモン様の婚約者です。ルクア・アーナキーです。どうしてもシモン様の応援をしたくて」
ルクアは赤くなりながら俯いた。
舞台上のシモンも赤くなって照れていた。
実は加護をかけたのが、誰かまではシモンに教えておらず、後からルクアから種明かしをしてもらう予定だった。
シモンはルクアに言われるまで、ルーナにかけられたと思っていたことだろう。
「ふむ。〝伴侶である春の女神アリオンヌが、英雄シルファーに加護を授けた〟の一節をなぞらえてるんですね。婚約者の想い、いいでしょう! 校則にあるように、加護はオーケーしましょう。ただし誰からかけてもらったか、申請するように。加護をかけるのは女生徒のみ、その女生徒が加護をかけれる男生徒は1名のみで」
「「わぁー!!!」」
ルクアがいるBクラスと、シモンがいるCクラスの生徒から歓声が上がった。
騒ぎに乗じて、学園長がルーナに向かってウィンクをした。
ルーナはヘナヘナと座り込んだ。
「大丈夫?」
ヨロっとしているルーナを横からテオ様が支える。
「良かった……」
ルーナはつぶやいた。
**===========**
「え、学園長にも手を回していたの?」
サッシャが驚いて言った。
テオ様とレオン様は、準備に向かっていなかった。
「人聞き悪いなぁ。学園長の大好物である白ワインを、事あるごとに送っていただけよ。でかでかと名前付きで」
ルーナはいそいそとメガネをかけて、髪を三つ編みにしていた。
周りは模擬戦に熱狂しており、ルーナに注目していない隙にだった。
「それでマクシミリアを強調したのと、マクシミリア家の特徴である緑の目を見せたのね」
エマが納得して頷いた。
「あー目立っちゃったし、学園長というコツコツ根回ししていたカードを使っちゃったなぁ」
「ルーナも根回しって言ってるじゃない」
サッシャが呆れながら言った。
「これで、シャーロット様とカトリーヌ様に目をつけられたらどうするの?」
エマが心配そうに聞く。
「まだ初戦だからか、その2人は来てなくて、取り巻きたちが数名来てるだけだから、まぁ大丈夫じゃないかな? もしダメだったら、シモンのとこの領に大きな港があるから、海外逃亡の手助けをしてもらう手筈よ!」
ルーナはキリッと格好をつけて言った。
「でも、そんな危険をおかしてまで、何でルクアの加護をシモンの剣にかけたの?」
サッシャが首をかしげる。
「だって、好きな人からの応援が1番励みになるでしょ? シモンとルクアが、絶対いい感じになる作戦だったし。案の定、盛り上がってるでしょ」
ルーナはニシシッと笑った。
せっかくの人生で一度の学園生活だ。
恋して悩んで、存分に青春を謳歌して欲しい。
加護はオーケーになったことで、模擬戦の裏舞台が大騒ぎになった。
ちょっとでも有利にしたくて、加護がかけれる女生徒を探す者や、この機会に意中の人に「加護をかけて?」と頼む者が現れ始めた。
そして、ルーナの元に、簡単な加護のレクチャーを頼む者。
加護は、幸運がプラスされるぐらいの弱い魔法なので、比較的簡単に扱う事が出来る。
Cクラスの女の子たちが、キャッキャッしながら加護の練習をしていた。
バレンタインのイベントみたいになってきたなぁとルーナは心の中でつぶやいた。
「ルーナ、ちょっとおいで」
レクチャーもひと段落して、休憩がてら観客席でくつろいでいると、模擬戦の服に着替えたテオ様に手招きされた。
ついていくと、選手控え室の前の大きなホールに通された。
そこに模擬戦用の刃を潰した剣が、数本置かれていた。
「これがいいかなぁ〜」
テオ様はその中から一本選ぶと、ビュンビュン素振りする。
そしてルーナに剣を差し出した。
「これに加護かけてくれる?」
テオ様はニッと笑った。
「いいですよ」
ルーナはテオ様が持っている剣に向かって、両手をかざす。
そして古代語の詠唱を始めた。
ルーナの口から紡がれる言葉が輝いているのか、時々ルーナと剣の間の空気の一筋がシルバーに輝く。
詠唱が終わると、柔らかい螺旋状の風がテオ様の周囲に起こり、頭上へと駆け抜けていった。
「ルーナ、これって本当に加護?」
テオ様は、刀身が薄っすら黒く輝いているのを指差した。
「加護です。今、作りまし……間違えました。今、思い出した古い加護です」
ルーナはそう言いながら目をそらした。
「ふーん。まぁいいけど」
テオ様は案外気に入ったのか、楽しそうに剣を振った。




