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黒の攻略対象 ニコラス・ランカスター


「ねぇ、あなたの名前は何ていうの?」


ようやく泣き止んだ男の子に温かいお茶を差し出しながらアリソンは尋ねた。


「・・・ニック。ニコラス・ランカスター」


その名前にアリソンは衝撃を受けた。


(まずい・・・黒髪の攻略対象だ。しかも、不良で女ったらしでオレ様系)


脳裏に彼とヒロインとの情事がよぎる。非常に大人向けの濃厚なものだった。


背中にタラ~ッと冷や汗が伝う。


(でも・・・彼がヤサグレていたのは、幼い頃から酷い扱いを受けていたからかもしれない。女をとっかえひっかえ遊んでいたけど、女性不信・・というか人間不信が根本にあったような気がする)


記憶によると、ヒロインに対して最初は体だけの関係だったが徐々に心を通わせていく過程があった。


(でも、そもそも体の関係から始まるなんてとんでもない!あのゲームでビックリしたのはアラン・ルートなのにニックとも関係を結ぶところよ。不純っ!乱れてるわっ!)


R18では複数の相手と関係を結ぶのがお約束ではあるが、アリソンには益々以て受け入れがたい。


彼女が思いに耽っているとその場にいた神官が


「・・・側妃のカッサンドラ様の御子息でいらっしゃるようで」


と小声で伝えてきた。


そういえばそうだったと思い出す。


「第二王子でいらっしゃるのよね?何故あんな酷い状態で道端に放置されていたの?」


神官は


「・・・それについては後で」


と言いにくそうに言葉を濁した。


ニックに聞かれたくない話なのかもしれない。


アリソンはニックに振り返って笑いかけた。


「あのね。私はアリソンっていうの。アリーって呼んで。私もニックって呼んでいい?」

「もちろん!」


ニックの顔が嬉しそうに紅潮した。


「私はね、いつか修道院に入るために今この教会で修行させてもらっているの!」


ニックは眩しそうに私を見つめた。


「そっか・・・。しゅうどういんって何か分かんないけど、いつか入れるといいね」


あどけなさの残った口調で言うニックは堪らなく可愛かった。



**



アリソンはのちにニックの事情を教えてもらった。


側妃のカッサンドラは黒い髪の王子を産んだことで国王の寵愛を失い、周囲からも軽侮されるようになった。


そのため酒に溺れ、公務を怠り、挙句の果ては育児放棄の状態が続いていた。


自分の不満を周囲に当たり散らしたため、それを諫めようとした心ある使用人は全員解雇され、現在はろくな使用人が残っていない。


また自分の不遇はすべてニックのせいだと彼を虐待し、ろくに食事も与えず放置した。


その結果、ニックは栄養失調になり弱って動けなくなってしまったのだ。


動けない我が子に対してカッサンドラは殴る蹴るの暴行を加えたらしい。


『道端に捨ててこい』


『そいつがいなくなれば国王陛下もまた私を愛してくれる』


自分の母親の冷酷な言葉をニックは遠のく意識の中で聞いていた。



王宮と相談した結果、ニックは教会が正式に保護することになり、カッサンドラは精神疾患として療養施設に収容された。また、関わった使用人は全員解雇や減給などの処罰を受けた。


しかし、何の罪もない幼児を殺しかけたにしては軽い罰だとアリソンはやり場のない怒りに震える。


(やはり被害者が黒髪ということが影響しているのかな?実の母親に殺されかけるなんて、ひどすぎる・・・)


アリソンは彼のために泣きたくなった。



**



教会で暮らすようになったニックは順調に回復し、グングンと背が伸び体重も増えた。


教会に行くと、ニックが満面の笑顔でアリソンを迎えてくれる。


最初はほとんど笑わなかったニックが徐々に明るくなっていくのを彼女は嬉しく見守っていた。


攻略キャラだからいずれ別れの日が来るだろうが、今はまだ五歳児だ。


ゲームの中のニックはとにかくヤサグレていて女遊びが酷かった。女たちは黒髪のニックを蔑みつつ、彼の美貌や性的魅力に抗えず不健全な関係を結んでいた。


そんなニックがヒロインとの交流を通じて徐々に更正するプロセスがあり、かなり際どいシーンも含まれていた。


(でも今のうちに人間不信を払拭できたら、ヒロインと変な関係を持たなくても彼の人生を変えられるかもしれない!)


アリソンは希望を見出した。


(うん、そうだ。幸いニックと神官たちは良い信頼関係を築いている。孤独でヤサグレたりしなければ、将来女遊びをせずヒロインにも手を出さないのでは!?)



一緒に掃除や雑用をしながらアリソンとニックは色んな話をした。


会話のはしばしにニックの黒髪に対する劣等感が表れていて、アリソンが悲しくなることも多かった。


「黒髪なんて魔力もないし役立たずだから誰からも必要とされないよ」


拗ねたようにぼやくニック。


「そんなことない!私たちはみんなニックが大好きよ。それに頑張って働いてくれるニックが役立たずな訳ないじゃない!?」


アリソンは力説した。


「例えば勉強して身につけた知識は力になる。それに体を鍛えて強くなれば騎士にだってなれる。強くなって人々を守ることもできるわ!」


「・・・知識?・・・騎士?」


初めて聞くことのようにニックは考え込んだ。


そして、その後ニックは真剣に勉強や剣技の訓練に取り組むようになった。


時には


「・・・アリーはさ。本当に修道院に入るつもり?」


と尋ねることもあった。彼もこの頃には修道院が何なのかを正しく理解している。


「ええ、もちろんよ!」

「ふーん・・・そこに入ったら二度と外には出られないんだよ?一生だよ?」

「知ってるわ」

「それでいいの?・・・俺とももう会えなくなるんだよ?」


拗ねた表情を見せるニック。


「そうね・・・すごく寂しいわ。でもまだ先の話よ。それにニックには他にも友達が沢山いるじゃない?」


ニックは教会周辺に住む子供達とも親しくなっていた。庶民の間では黒髪はそこまで禁忌ではない。


しかし、アリソンの言葉に彼はますますふてくされた。


「俺はアリーがいないとやだ。行かないで」


頬を膨らませながら彼女の腕にしがみつくニックに、何と答えたら良いか分からないアリソンであった。

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