まぼろし
あの時。
呪術屋の婆さんは、
『逢瀬』は、
「私は後悔せずに生きられたよ、『御影』くん」
幻聴だ。けど、聞こえてしまう。
意識してしまう。どうしようもないほどに。
愛おしいように。
狂おしいように。
縋り付くように。
恨むように。
「『御影』くんはどうなの?後悔、してない?」
声が出なかった。
体が震えて、全身が拒否していた。
『逢瀬』という存在の全てを。
「後悔してるんだったら、ごめんね。私のせいだね」
悲しげに微笑む『逢瀬』。
笑うな。謝るな。
むしろ、俺のせいだろ。
「今は辛くても、時が経てば忘れちゃうから。どうってことないことくらいになってると思うから。大丈夫」
優しくしないでくれ。
叫んで、訴えて、罵倒された方がいい。
優しくされるより何倍も。
そして俺は謝った。「ごめんなさい」と。
その理由は俺にすら分からなかった。
家から飛び出して、直ぐにタクシーに乗った。服装は制服だったので目立ちはしなかった。いつもは和服で、割と注目を集めるが、タクシーは呼びやすかった(今回はちょっとタクシーを呼ぶのに苦労した)。
「どこまでですか?お客さん」
御坂は答えない。
「お客さん?」
御坂は答えない。
「お客さん、体調でも悪いんですか?」
「……………………近くになったら言います」
「……………?分かりました」
運転手の老人は不思議そうにし、運転し始める。
御坂は顔を見てないが、先程の侵入者の件で老人の顔があまり見れない。似てるという訳では無いが、気分の問題である。
数十分後、タクシーが急に小脇に止まってしまう。それまで御坂は顔を俯き、一言も喋っていなかった。なんとなくだが、車内の雰囲気が重いのはわかる。
「お客さん、相席よろしいでしょうか?」
「…………………構いません」
他のお客さんが来たようだった。
(誰だ?酔っ払いのおっさん……だったらやだなぁ………サラリーマン?あーと、そうやあ、今何時だ?12時はすぎてるだろうけど…………それに明日は学校がある……)
ぶつくさと考えていると、右の扉が開く。
ちらりと見ると、御坂が通う『明鏡高校』の女子の制服を着ていた。
「…………」
寄りにもよって同じ学校の生徒、そしてこの時間だ。カツアゲでもされそうな感じがする。もしくはギャルかもしれない。
御坂は目を合わさないように、再び考え事をしようと思った。しかし、思考は阻まれ、 自然と目が合う。
悪寒がした。悪い予感がした。一瞬だったけれども。
「同じ学校の制服、よね?」
今までの嫌なものは消え、普通の感じだ。
(なんだ……こいつ?今のは気のせいか?)
真っ赤な三白眼に、肩までの長さの茶髪。何より印象的なのが真っ赤なニット帽だ。
「私もなの。もし良かったら相談受けてあげるわよ」




