第九話・怪獣バトル大会予選開始
ホシノフネは怪獣バトル大会予選の星──人工天体【アウル】に到着した。
駅からゾロゾロと出てくる怪獣たち、その中に聡明の怪獣旅団もいた。
ラベンダー色の空を見上げて、アグラが呟く。
「なんで、本戦からスタートじゃなくて、予選星からのスタートなんだよ……昨年までは、本戦の巨星からスタートだったのに」
空には、大会本戦の決戦場となる巨星【ティル・ナ・ナーク】があった。
予選星のアウルは、ティル・ナ・ナークの衛星だった。
聖霊鳥エアルがアグラに言った。
「誰かさんが手当たり次第に、建物破壊を行ったからじゃないんですか……まったく、大会本部の建物も容赦なく破壊して」
「それは怪獣にとっての褒め言葉だ、怪獣の建造物の破壊は勲章みたいなモノだからな……どれだけの数の有名な建造物を、破壊できるか……ガキの時は仲間と競いあって、国宝とかネズミ怪獣が主役の大型アミューズメント施設を……破壊する計画を」
アグラが話し終わる前に、エアルの翼がアグラの頭を叩く。
「やめなさい! そういう物騒な自慢話は! 行きますよアグラ、一緒に来て」
「どこへ?」
「大会出資主催者王のキャッスルへ」
◇◇◇◇◇◇
人工天体アウルは、ぶ厚い地層をめくると、数千キロに及ぶ金属のバームクーヘン層が現れる。
そして、アウルの中心にはダイヤモンドの核がある。
建造物は、怪獣が破壊衝動を満足させるための町と、王が住む変形する城があった。
エアルとアグラは、大会主催者の城を見下ろす。
アグラが、腕を振り上げる。
「こんな小さい城にどうやって入るんだ……面倒くせぇから、城をぶっ壊して中へ……」
アグラが腕を振り下ろす前に、城の一部がロボットのような腕に変形してアグラの頬を殴る。
「おごっ、不意打ちとは城のクセにやるじゃねぇか……油断したぜ、表に出ろ! かかってこい! と、ここは最初から表か」
エアルが翼でアグラの頭を叩いて言った。
「城とケンカしていないで、入城しますよ」
「どうやって?」
「パートナーの体の中に怪獣体を押し込めるんです……こんな風に」
エアルの体が、プリンセスの体に収納されドレス姿のプリンセスが、アグラを見上げる。
「さあ、アグラもパートナーの人間の中に入りなさい」
面倒くさそうな舌打ちをして、尻尾の先を持ち上げる暴魂獣。
「チッ、しかたがねぇな……おい、ニンゲン……おまえの体の中にオレの体を押し込めるからな、破裂しないように根性入れて気張れよ」
尻尾先端のニンゲンの中に、収納されていく怪獣アグラ。
ニンゲンは、苦痛にのたうち回る。
「おごぁぁぁぁぁぁ!」
アグラの巨体が、吸収された人間は四つ這いから、自分の手を眺めて呟く。
「なんだ、コレ? オレの体……どうなっているんだ」
体の中からアグラの声が聞こえた。
《メインはオレだからな……おまえに発言権はねぇ、おまえの口を使ってオレがしゃべる……ありゃ、尻尾が残っちまったな》
裸で立ちあがった人間形態のアグラが、そのまま歩き出して城に入ろうとするのをエアルが止める。
「服を着させなさい! わたしのように怪獣体の一部を衣服に変えて……裸で城に入ったら、城の兵士に捕まって地下牢に入れられますよ」
「オレは構わねえよ……地下牢ぶっ壊して外に……」
エアルのプリンセスが凄みのある声で言った。
「服を着なさい」
◇◇◇◇◇◇
エアルとアグラは、怪獣バトル大会の出資主催者で人間の『怪獣王』に謁見した。
「おお、あなた方が【黎明の怪獣旅団】の聖霊鳥エアルと、暴魂獣アグラですか……お会いしたかった」
怪獣王は、膝の上に乗せた怪獣事典を開くと、嬉しそうな笑みを浮かべながら言った。
「実は儂は、子供の頃から怪獣が大好きでな……今でもこうして、怪獣事典を開いて眺めては、悦に浸っておるのだ」
アグラは内心……なんだ、コイツ? 単なる怪獣オタクか? と、思った。
怪獣王が、人間形態のエアルとアグラに向って言った。
「一つお願いがあるのだが、その人間の姿で怪獣の能力を披露して見せてもらえないだろうか」
アグラが言った。
「お安い御用だ、口から火炎を吐いて城を炎の海に……いてっ」
隣に立っていたプリンセス姿のエアルが、アグラの頭を平手で叩く。
人間の姿になっていても、怪獣なのでその平手の一撃は、城の柱を破壊できるほどのパワーがある。
エアルが微笑みながら言った。
「怪獣が城内でパワーを使えば、大変なコトになりますので……わたしが、パワーを抑えた軽い飛翔パフォーマンスならお見せできますが……」
「おお、それで結構です……この広間を数回旋回していただければ」
プリンセス・エアルの背中から翼が突出して、数回羽ばたくと突風が起こった。
広間にいた甲冑の兵士たちが、風で飛ばされないように踏ん張り。
怪獣王は玉座ごと、広間の外に吹っ飛んだ。
エアルが数回、広間を旋回して、背中の翼を引っ込めると。
玉座ごと元の位置に、兵士に運ばれてもどってきた怪獣オタク王が拍手喝采をする。
「素晴らしい! 怪獣の災害級のパワーを見せてもらった……さすが、古代文明を滅ぼした聖霊鳥エア……」
エアルが王の話しを遮って言った。
「なんでも、アグラに渡したいモノがあると聞きましたが」
「おお、そうだった例のモノをここへ」
数人の兵士たちに運ばれて重量がある、鎧と武具が運ばれてきた。
「この鎧と剣は、人間では扱えない代物……暴魂獣アグラなら、扱えるのではないかと思いましてな」
「よろしいのですか、こんな貴重なモノを」
「人間が扱えずに城に飾って置くよりも、怪獣が使ったほうが良いでしょう……使ってください」
◆◆◆◆◆◆
怪獣王から、渡された剣と鎧を体の中に収納して怪獣形態になったアグラは、大会開催までの余暇をブラブラと怪獣町を歩いて散策していた。
胸を撫でながらアグラが呟く。
「エアルに言われて、体の中に王さまから、もらった武具を収納したけれど……アレって怪獣のオレに必要か?」
尻尾を振りながら歩くアグラの足が、前から歩いてきた凶悪そうな怪獣グループの一匹の尻尾を踏む。
明らかにワザと尻尾をアグラに踏ませようと、歩いてきたのは見え見えだった。
尻尾を踏まれた怪獣が転倒してアグラに向って凄む。
「てめぇ、どこ見て歩いてやがる」
舎弟の怪獣が、アグラに絡む。
「兄貴、大丈夫ですかい……あ~ぁ、兄貴の尻尾が骨折しちまった、おうおう、どうしてくれるんだい……これから兄貴は、ピアノの発表会に行く途中だったんだぜ……慰謝料払いな」
鼻で笑うアグラ。
「オレにケンカを売ってタカるなんざ、百億年早い……おまえら、大会参加の怪獣か?」
「あんな、強者揃いの怪獣ばかりが集まる大会に出場なんて、怖くてできるか」
「そうか……大会とは無関係な怪獣か、それならオレのコトを知らなくてもしょーがねぇな」
そう言うとアグラは、一瞬で数体の怪獣を放り投げて倒してしまった。
投げられた怪獣の体で破壊された、名所の赤い電波塔の下から、同じ赤い電波塔がタケノコが生えてくるように伸びてきた。
「さすが、怪獣に破壊されるために作られた町……何度壊されても赤い塔が生えてきやがる、姉妹塔の空の高層塔も、ぶっ壊せば地面から生えてくるかな?」
アグラに投げ飛ばされた、尻尾踏まれ屋怪獣がアグラに向って土下座して頭を下げる。
「お見それしました──お名前をお教えください」
アグラが答える。
「名乗るほどの者じゃねぇ……それほど、オレの名を知りたいなら、アグラとだけ覚えておきな」
全身が蒼白になる、尻尾踏まれ屋の怪獣。
「アグラ……暴魂獣の……ひぃぃぃぃぃぃ!」
尻尾踏まれ屋怪獣グループは、悲鳴をあげて逃げていった。
◇◇◇◇◇◇
町を散策するアグラは、狭い路地で立ち止まった。
路地のブロックを敷き詰めた道の一部に穴が開き、そこから赤イ丸い球体の上部が覗いていた。
球体からは白い湯気が出ている。
アグラが呟く。
「茹でダコ怪獣か……そんな所に隠れて、何をしている」
赤い半球体が答える。
「暴魂獣アグラを待ち伏せしているんだよ」
「なんのために?」
「ここだけの話しだが……オレは暗殺怪獣でな、依頼を受けてアグラって怪獣を抹殺しなきゃならない」
「ほう、おまえ名前は?」
「ここだけの話しだが……オレの名前は灼熱暗殺獣『ユダール』って言うんだ」
「特徴を表している、いい名前だ……アグラの抹殺を依頼したのは誰なんだ? 誰にも言わないから教えてくれ」
名前を誉められて気分を良くしたユダールが答える。
「ここだけの話しだからな……誰にも喋るなよ、妖怪大好きな『妖怪王』だ」
「ほう、妖怪王が怪獣の抹殺を怪獣に依頼したのか」
「ここだけの話しだが……妖怪王も妖怪バトル大会を開催しようとして、参加妖怪が思っていたよりも集まらなかったらしい……まっ、妖怪は怪獣みたいな建造物破壊の派手なパフォーマンスは望まないからな」
アグラがうなづく。
「確かに妖怪は、ひっそりと目立たないのを望むからな……怪獣王、妖怪王、怪人王の三人は互いに競い合っているとエアルから、さっき聞いた」
「ここだけの話し……妖怪王は、参加妖怪が集まらなかった原因の一つはアグラの存在だと思っているらしい……完全な見当違いの逆恨みだがな……ところで、あんた誰だ?」
「オレか、オレの名は暴魂獣アグラ」
アグラの名前を聞いた途端にタコの触手を蠢かせて、ユダールが穴から飛び出してきた。
「なにぃぃぃ! おまえがアグラかぁ、灼熱暗殺獣ユダール参上! 抹殺!」
アグラに巻きついて、灼熱で焼き殺そうとするユダール。
アグラはユダールの灼熱にも、サウナ室にでも入っている感覚で平然とした口調で言った。
「ポカポカして気持ちがいいな……いい汗が出てきた」
そう言うと、アグラはユダールの、体を怪力で引き千切ってしまった。
バラバラになった、ユダールの煮えた触手の一本を千切って口に運ぶアグラ。
「うまっ、塩味が効いていて、美味いなおまえの足」
ユダールの一部がピクッピクッ動いて、再生がはじまったのを見てアグラが言った。
「完全に再生復活したら、オレの舎弟にしてやる……おまえ、非常食として気に入った」
そう言い残すとアグラは、ブラブラと町の散策を続けた。
【創作裏話】
作中に登場する『ユダール』のネーミングヒントは資料&ネタ集めで、ウルトラシリーズの特撮本を読んでいた時……ウルトラQの『南海の怒り』に登場する大ダコ怪獣スダールが「酢ダコ=スダール」の単純なネーミングだったと知って……そんなんでいいのか、じゃあ茹でダコなら=『ユダール』で、と即決まりました。