王子の部屋に潜り込みました
「無茶だよクレア!」
私の話を聞いたウィルフレッドが情けない声を出して飛び上がる。
隣で落ち着き払った顔で紅茶を飲んでいるレティーシャと同じ血が流れているとは思えないほどの狼狽っぷりだ。
といっても私は彼がこういう反応をするだろうことは、長年の付き合いで解っていた。
「いつものことでしょ?」
「そうよお兄様。いつものことですわ」
私とレティーシャがそう言うと、ウィルフレッドは「そう……だけども」とソファーに疲れたように腰を戻す。
そして一つ深呼吸をすると、珍しく私の目を真剣な表情で見返してくる。
彼の偶に見せるこの表情に私は少し弱い。
「クレア。君は本気なのか?」
「え、ええ。もちろん本気よ」
ウィルフレッドの真剣な顔を久しぶりに見た私は、少しだけその顔に見とれていたため返事が遅れてしまった。
「もし成功しなかったら……いや、少しでもバレたら君だけじゃ無く男爵家や巻き込んだ人たち全ての人生が終わるんだぞ」
「……それでも私はやるわ」
「クレア……」
「それにねウィル。これは私の復讐だけが目的では無いの」
「どういうことだい?」
私は計画書の隣りにもう一枚の、くしゃくしゃになったのを広げたような紙を置いた。
「これは?」
「あの馬鹿王子の執務室のゴミ箱に捨ててあったものよ」
「ゴミ箱って」
「さすがにあのまま帰るのは癪だったのよ。だから最後に何か嫌がらせでもしてやろうと思って忍び込んだってわけ」
「相変わらず無茶をするなぁ君は」
呆れた声でそう言いながらその紙を手にしたウィルフレッドは、内容を読み進める内にまた先ほどの様な真剣な表情を浮かべる。
そして最後まで読み終えた後、顔を上げて「これは本当なのかい?」と問うた。
「きちんとあの馬鹿王子のサインが入っているでしょ? といっても書き損じて捨てたみたいだけどね」
「それにしてもこんなものを無造作にゴミ箱に捨てるかな」
「私にずっと見せてた顔と、それ以外の顔が全く違ったってことよね……何度思い出しても腹が立つわ」
書かれていたのはある計画だった。
その計画とは、グリン王子の婚約者となるらしいエリザベール・ブラックバーン。
ブラックバーン家のライバルであるポーラル家を取り潰すというものだった。
「私が本気でこの国を潰そうと思った理由がわかったでしょう?」
震える手で計画書を握るウィルフレッドの手を、なるべく優しく包み込むようにして握ると、私はそう笑いかけたのでした。
次話は少し遅れるかも知れませんがよろしくお願いいたします。