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第8話

 ✿―✿―✿―✿


 翌日。

 リリィは自分の体が眠っている窓辺からボーッと青空を見ている。周りは森なだけあって草木が多かったが、屋敷の周りの草木は切り取られており空も綺麗に見えていた。


(……結局、昨日も訳がわからないままだった)


 そう。昨日は幽霊アイテムである腕輪を填められた後、レオンは「色々疲れただろうし、混乱していると思うから今日はゆっくり休むといいよ」と、言って、レオンの自室に近い部屋を案内されたのだった。

 勿論、本体もいつの間にか移動されていた。恐らく、黒曜が移動してくれたのだろう。

 リリィの今いる部屋には以前に誰か使っていたらしい形跡があった。調度品等が揃っていたからだ。クローゼットには古い型の赤いドレスや鏡台にはドレスに似合った宝石が付いているアクセサリーが置かれていた。

 しかし、今のリリィにとってはそんな事どうでもよかった。


(私は何なのかしら……? それに、これからどうなるの?)


「はぁ……」


 空を眺めながら溜め息を吐くと、不意に体が何かに引き寄せられるような感覚にリリィは陥った。

 いや、現に引き寄せられているのだ。


「え、え!? なに!?」


 リリィの体は壁をすり抜け、やがて引き寄せる感覚は無くなり一気に自室からレオンの部屋へと移動されていた。


「相変わらず、彼のアイテムはすごいなぁ」

「まぁ、それしか取り柄がないような店なので当然かと思いますが」


 レオンと黒曜の会話にリリィは呆然と浮いていたが、ようやく何が起きているのか理解した。


「まさか、私を試しで呼び寄せたの?」


 リリィがそう言うとレオンがニコリと微笑んだ。


「うん、そう♪ と、言いたい所だけど、勿論、君にも用があるよ?」

「私に? ……なんか怪しい……まぁ、いいわ。それより用というのは……?」

「色々言葉がキツくなってない? 悲しいなぁ〜……。ま、それは置いといて、君には僕にも分からない力を秘めている。だから、今日はその力について研究しようと思うんだ」


 足を組み直すレオンは「そうだなぁ。まずは――」と、言いながら黒い手袋をはめると指を開いては閉じる。今のレオンの顔は子供のように無邪気な笑顔をリリィに向けていた。


「君の体を調べようと思う♪」

「かっ体を!?」


 リリィは自分の体を守るようにレオンから距離を置く。そんなリリィの様子にレオンは安心させるように両掌をリリィに見せた。


「あぁ、大丈夫、痛いことはしないから♪」

「痛いことは!?」

「あははっ」

「わ、笑ったって無駄よ! だって、貴方からは触れないんだもの!」


 リリィからは触れることはできるが、レオンから触れることは決してできない。だからリリィはレオンから距離を置くと少しドヤ顔でレオンに言った。

 だが、レオンはそれでも笑みを崩すことは無かった。

 寧ろ、どこか楽しげだった。


「うん♪ でも、ね。この手袋は特殊なんだよね」

「ま、まさか……」


 リリィはゴクリと口の中の唾液を飲み込む。この楽しげに微笑むレオンの様子からからにして、リリィはその手袋が何なのかを予想したのだ。

 そしてその予想は当たった。


「っ!!」


 レオンはおもむろに立ちリリィの隣に座ると、リリィの白い頬に触れた。

 頬を触れられたリリィはビクリと体が跳ねれ。レオンはそんなリリィの反応を見ておかしそうにクスクスと笑っていた。


「わ、笑わないでよっ! 卑怯だわ、そんなので触れるなんて!」

「滅多に使わないから大丈夫だよ♪」

「そういう問題じゃ……はぁ、もういいわ……」


 何を言ってもレオンには意味が無いと思ったリリィは抵抗をやめ溜め息を吐いた。

 レオンは静かになったリリィの頬や肩に触れる。リリィは擽ったくてその度に体を捩り「ふふっ、擽ったいわ」と、笑っていた。

 レオンは興味深そうに頷くと、またリリィの頬に触れた。


「そうか……触れられる感覚はあるんだね? なら、これはどう?」

「いたっ!」

「へぇ、痛いんだ。ふむふむ……」


 頬を摘まれたリリィは頬を摩りレオンを睨む。

 レオンは独りで勝手に理解し頷くとパッとリリィから手を離し、紙に何かを書き始めた。


(な、なんなのよ……)


「痛いことはしないって言ったくせに……」


 レオンに聞こえないようにボソリと呟くリリィ。その瞬間、レオンは紙を持ったままリリィの方を振り向いた。

 リリィは一瞬「もしかして、聞こえた!?」と、思い内心ドキドキしていたが、どうやら先程の言葉はレオンには聞こえなかったらしい。

 相変わらずの王子様的微笑みで微笑むと「それじゃぁ、次はこれを飲んでみて♪」と言って、紫色の液体が入った小瓶を差し出して来た。


「あのぉ……私、幽霊なんですけど……」


 そう言いながらリリィはレオンが持っている小瓶をジッと見る。


(これ、飲めないわよね? そもそも、飲みたくないっ! 何か瓶の中でブクブク泡が立ってるし! なんなのこれ!?)


 しかし、レオンはそんな事お構いなしにニコリと微笑み「大丈夫だよ♪」と、リリィに言った。


(何が大丈夫なの!? 大丈夫じゃないよ、これ!?)


「これもね、ある店から買った物で霊体でも口に含む事ができるんだ。凄いよね♪」

「え、えぇ。そ、そそうですね……」


 あまりの気持ち悪い液体をリリィが飲まないといけないということに動揺し、またソレを飲めることがわかるとなると目も逸らしたくなるというもの。

 レオンはそんなリリィの様子をジッと見ると首を傾げた。


「あれ? 汗掻いてるけど大丈……はっ! ちょっと待って! これも新発見だよ! 霊体でも汗を掻くことができるんだね!? メモメモっと……」


 レオンは、手に持っていた紙にサラサラとリリィの体について書き記していた。

 リリィは渡された紫色の液体をジッと見る。


(これ……本当に私が飲むの、よね?)


 書き終わったレオンは小瓶を見つめているリリィに向かって笑みを浮かべる。


「さ、飲んで飲んで♪」

「うぅ……」


 その微笑みは思わずトキメキそうになるものだが、その笑みの奥にある瞳は、あまりにもキラキラしていたため、リリィは断れず渋々飲むことに決めたのだった。

 期待の眼差しに目をそらすようにギュッと目を瞑るリリィ。


(こうなりゃ、ヤケよ!)


 そして、グイッと一気飲みをしたリリィだった。


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