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カナリア  作者: みえさん。
Story5 太陽が堕ちる日(1)
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Story5 太陽が堕ちる日(6)

   6 かなりアホ




「で、キッシュはともかくとして何でマリンまで付いてくることにしたんだ?」

 協力が欲しいとカナリアを連れに来たトキに、最初に自分も行くと言い出したのはキッシュだった。協力者が増えるのは嬉しいけれど巻き込むわけにはいかない、と断ったトキを強引にねじ伏せ勝手付いてくることになった。

 その行動は彼女の性格から半ば予測出来ていたし、さらに無理に断ったとしても、別ルートで必ず同じ場所にたどり着きそうな彼女をしぶしぶ容認した。

 それはともかくとして、まさかマリンまで行くと言い出すとは思っていなかった。

 カナリアが尋ねると彼は仏頂面で答えた。

「ラネルとラネルが心配だ」

「・・・だから両方ラネルになっているってば」

「俺がラネルに施した治療は長期間持つものではない。魔薬を使って表面を覆った事で何とか形を保っているだけのことだ。薬が切れれば消滅しかねない」

 ふう、と溜息をついてトキは頭の後ろで腕を組んだ。

「ああ・・・そのラネルとかいう奴は亜精霊だったな。国元離れると消滅しかねないなんて面倒なもんだな」

「同じ亜精霊でも平気な種族もある。ある種族などは処女以外が触れると病気になると聞いた。命を落とすこともあるそうだ」

「兄ちゃんやけに詳しいな」

「俺はアインハイトの中に入ることを許可されている。人の医者の中では唯一だそうだ」

 それはすごい、とトキは口笛を吹く。

 アインハイトはそもそも閉鎖された国だ。亜精霊という特殊な種族が住むために、外界とあまり関わりを持ちたがらないのだ。人間側もあの特殊な国には好んで入ろうとは思わない。その上、今の代の王になって出入りの管理が強固になった。

 出入りが自由に出来るものなどそうそういない。

 もっとも、カナリアは許可されていようがされていまいが、時々出入りしていたのだが。

「医者ってもんは便利だねぇ。俺も医者になろうかな」

「トキがなれるとは思えないな」

 カナリアの言葉にトキは睨む。

「何でだよ」

「お前はかなりアホだから」

「カナリアはお前だろ」

「カナリアほーじゃねーよ」

 やはりこの男が医者になれるとは思えない。そもそも、医者になれば国境なんかほぼ無視して各国回れそうだという勝手な解釈で医者になろうかなんて口にしたのだから、動機の方も相当間違っている。

 マリンは頭痛がするという風に頭を押さえた。

「お前のような輩が医者になるから、魔術を使わない医者がヤブとか言われるんだ。俺の足を引っ張る気なら今すぐ楽にしてやるぞ」

「うわっ・・・医者の言う台詞じゃねぇ」

「つーか、マリン、何でトキが医者になった前提で話しているんだ? どうせこいつの言うことは一過性のもので、三歩進んだら忘れるから安心しろ」

「俺はニワトリか!」

 カナリアはせせら笑う。

「そういう使い方を覚えているんだな。偉いぞ、トキ」

「くっそ、馬鹿にしやがって」

 馬鹿なんだよ、とカナリアは付け加える。

 くすり、とキッシュが吹き出した。

「前々から思っていたんですけど、カナちゃんってばトキに遠慮ありませんよね。扱いが酷いを通り越して愛すら感じますわ」

「愛・・・」

「ははん? カナリアにとって俺は兄貴みたいなもんだからなぁ。うんうん、俺様ってばやっぱり愛されキャラ?」

「寝言は永眠してから言え!」

 カナリアのストレートパンチをトキは笑いながら交わす。

 彼の行動はいつもと少し違う。やはりトキを相手にしているからなのだろう。カナリアはマリンに対しても遠慮なく接するがそれはむしろ親友に対してという感じだ。トキを相手にしている時は家族に接するかのよう。

 親がいないとそれとなく聞いたことがあったが、けして孤独であった訳ではないと知ってマリンは少し笑んだ。

 口に出して言えないが、少し気がかりだった事だ。

 他人と接触するのがあまり好きではない自分でさえ寂しさを覚えることもある。人と接することがむしろ好きという感じのカナリアが、孤独を味わっていないなんてとても考えられなかった。

 何より彼は時々夢にうなされている。

 何気にキッシュが出会う前にカナリアと出会っていたマリンは(一目惚れをしたという弱味もあってか)気になっていた。

 自分にキッシュがいたように、彼にも家族があったのなら、少しは安心した。

「ふはは! お前如き実力でこの俺様が倒せる訳がなかろう!」

「くそ、ちょろちょろ動くんじゃねぇ!」

「それで配送ですか? はいそうですか。なんて止まるやつなんかいね・・・・ぐはっ!」

 笑いながら走っていた男は前方不注意で木の枝に激突し、粉砕する。

「はん、ざまあ・・・どはっ!」

 粉砕された木の枝が頭の上に落ちてきたカナリアは奇妙な叫び声を上げる。

 マリンは頭を押さえた。

「・・・・かなりアホだ」

「ええ、どっちもどっちですわね」

「これと一緒にするな!」

「これとか言うなよ、カナリア! 俺様に失礼だろ!」

「お前なんぞ‘これ’で十分だ!」

「・・・・まるで子供のケンカですわね」

 ふふん、とトキが笑う。

「若いなんて良いことだろ、嬢ちゃん」

 カナリアが馬鹿にしたように笑う。

「六十超えた奴がこの馬鹿さ加減だとさすがに引くよな」

「まだ六十超えてねーよ」

 まだ、ということはそれに近い年齢ではあるということだ。彼の外見は四十代くらい。とても六十近いようには見えない。

 驚いて目を見開いた。

「・・・! あなた、そんな年齢でしたの! ぜひ若さの秘訣を!!」

「アホが増えたか」

「俺の若さの秘密は極秘だ! 何しろ二十歳過ぎても十代前半くらいの若々しさでいられるほどの技術だからな! 他の奴に話せる訳がない!」

「何!? それは俺の美少年培養計画に必要不可欠のものだ! 教えろ!」

 アホもう一人追加。

 ここまでアホばかりのメンバーであるとかえって清々しいほどだ。

「うおっ! 俺様なんかすっごく人気者! ふはは! つかまえてご覧なさい!」

「それは浜辺で男女がやる奇行だ! 止まれ! 止まらないとメスを突き刺すぞ」

「ダメですわ! そんなことをしたら話を聞けなくなってしまいますわよ!」

「ああ、大丈夫だ、トキはその程度じゃ死なない」

「うははは!! 俺様は不死身の男!! 不死鳥の・・・・・むっ」

 突然立ち止まる彼に会わせて一同も止まる。

「どうしましたの?」

「匂う」

「カナリア、お前か」

「俺じゃねぇ!」

「花の匂いだ」

 俺様、俺様と騒いでいる時とはまるで別人のような彼の瞳はまるで何かを射るように鋭い。長年灰の目の一族を監視し続けた者の目だ。

 一同はきゅっと表情を引き締める。

「数は?」

「一つ。だが、これは・・・・」

 トキは胡散臭い付け髭を装着する。

「ちょっと厄介な奴だ」

「その顔で真面目な話すんなよ」

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