第八十八話 昔話
それは昔々の、こことは遠い次元の世界のお話です。
その世界の人々は、不老不死の力を求めました。研究に研究を積み重ね、やがて緑光石という特殊なエネルギー結晶体を発明しました。
それは魔力や気など、この世界の様々な生命エネルギーを永久強化できるとてつもない力を秘めた物。それを人間の肉体と魂と融合させることで、その人間に圧倒的な力と完全なる不老不死の力を与えるもの。
それの最初の実験体となったのは、レイコという当時まだ幼い少女でした。
そしてその実験は見事成功。レイコは超人的な力とともに、頭を砕かれようが毒で侵されようが、何度死んでも蘇る不滅の命を手に入れました。
これを喜んだ世界の王は、早速自分もこの緑光石の力を、自らの中に取り込みました。結果だけを見れば、彼の望みは叶いました。
だがその代り、彼は人としての姿と知性を完全に失いました。醜い巨人の姿となり、その世界のあらゆる命を貪り始めた王。
レイコは滅び行くその世界を見限り、別の世界へと脱出しました。
やがて彼女は後に岩木世界と呼ばれる次元に辿り付き、そこで自らの力を使って高度な文明を発展させました。それが今、炎王や海太達がいるこの世界だったのです。
岩木世界は長く繁栄し、やがて別の世界からの移民も受け入れていきます。そうするとどんどん人口が増えて、逆にその世界は住みづらくなりました。
そこでその世界の支配者達、レイコとその眷属の半緑人達は、その世界の人々の出生率を抑制する“二人っ子政策”を打ち立てました。
この法律が制定されてから、世界の人口はゆっくりと減少し始めました。というか減りすぎました。
法律が解禁されても、一度人々の間に定着した少子化思想は無くならず、数百年という時間とともに岩木世界の人口は、最盛期の一割を切ってしまいます。
それによって多くの都市・地域に人がいなくなり、無人の国が増えていきました。この新郷地方も、その土地の一つだったのです。
おおよそこういった内容の説明をした炎王が、一息つく。話を聞いた皆が、神妙でありながらも、大分納得した様子である。
というか後半のおおよその概要は、既に判っているも同然であった。あの廃村の亡骸にあった置き手紙しかり。
「ここに人がいなくなってから、私たちもやることほとんど無くなっちゃってね・・・・・・まあソーメンて奴がここに来てからも、仕事は少なかったんだけどさ。だからといって他にやることなんてないし、とりあえずここにずっと居着いてたら、あの化物どもが図に乗ってきやがってさ~」
化物ども=神地荒らしのモンスターの話になると、苛立った口調になる炎王。まだあれへの怒りは収まっていないようだった。艦長が次の質問をする。
「成るほどね。じゃああの刀持った女や、緑天丸もその緑光石を取り込んだ“緑人”て奴なのか?」
「緑天丸様に会ったの? あの人はちょっと違うよ。私も含めて緑天丸様のような人のことを“半緑人”ていうの」
「半? 混血児ってことか?」
「ううん。 緑人の血を飲んで力を貰った人のこと。もちろん血を貰えば誰でも強くなれるわけじゃないよ。心の弱い人が緑光の力を取り込むと、昔の馬鹿王みたいに人妖て怪物になっちゃうし」
“人妖”とは聞いた名前だ。それは故郷世界でのワールドビーストのことだったはず。そしてこの話は、あの不死の女神というゲームに登場するモンスターと、設定はほぼ同じだ。
「その人妖についても聞かせもらっていいか?」
「うん」
上から口止めの命令を受けていない。というより今話してる相手の事情もろくに知らない炎王は、何の迷いもなくペラペラ喋る。
その世界の命を貪り尽くした王=大人妖は、やることが何もなくなり、そのままその世界で冬眠状態となった。
やがて年月が経ち、その世界に次元の門を開けて、外からの来訪者がやってくる。
その者たちは、その眠り続ける大人妖を見つけ解析し、結果その体に、不老不死の力の源が、無限に詰まっていることを発見する。
これに喜んだ人々は、その大人妖の血液から精製した不老不死の薬を次々と飲み、そして皆が全く壊れず歳もとらない不滅の肉体を得る。
その来訪者達の王は、その力を使って、全ての異世界の征服まで考えていたという。
だがその幸福は永遠ではなかった。十数年ほどして、薬を飲んだ者に、精神に異常をきたすものが次々と現れ始めた。やがて肉体も変形し、人間とはかけ離れた姿=人妖と化していった。
前述したとおり、 緑人の不老不死の力は、本来相応の精神力が持つ者でないと、制御しきれない。
力に溺れ切った彼らの精神力は相応の器でなかったため、人間の心と姿を失ってしまった。
その後、その世界の生命を食らいつくし、どんどん人妖たちは増殖していく。彼らは人間から直接変異するだけでなく、自らの分身を無限に生み出す力も持っていたのだ。
やがて彼らの世界は滅亡した。
その後、その世界の文明によって作られた異世界の門を潜り、別世界にも被害を及ぼす。やがて彼らは進化し、制御不安定ながらも自力で異世界を渡ることができるようになる。
異世界から異世界へと渡り歩き、イナゴの大群のように、訪れた世界の生命を貪り尽くすと、また次の世界へと群れを分割しながら増殖していく人妖達。
次元上の多くの世界が、世界を滅ぼす伝染病と化した人妖に滅亡させられることになった。
この変異に気づいたレイコ達、緑人・半緑人の権威達は、人妖の侵略から身を守るために、岩木世界の取り巻く次元空間に堅固な結界を張り巡らせた。
こうしてこの世界は、別世界と交流を断絶しながらも、どうにか己の世界の安全を守ることに成功した。
炎王の口からおおよその説明が終わる。ここまで話してもらえば、自分たちの現状の、大体の部分は把握できた。
「な~にがリョクジンの侵略だ。薄々気付いてたけど、全部嘘だったんじゃないか・・・・・・」
『“リョクジン”て最初から名前が出てるからな。政府も最初から全容を知ってたんじゃないのか?』
「でもおかしくないか? それだと何でこんなこっちから喧嘩を売るような真似をしたんだ?」
「何か知られたくないようなことがあったんじゃないかしら? 何か随分急を急いだ進撃のようだったけど」
皆様々なことを口にするが、本質にあるのは結局皆同じ、政府への憤りだった。
炎王の話を疑うものは誰もいない。政府や軍上層部が、自分たちをずっと騙し続けていた事実自体に、ショックを受ける者もいない。
皆おおよそ見当がついていたし、それに権力というものが、そう簡単に信じていいものないことは、フィクションのみならず、現実でも同じであることは、誰もが知っている。
「喧嘩を売る? もしかしてあんたら・・・・・・」
「ああ、俺たちこの世界を攻めに来て、負けて帰れなくなったんだ。なんかこの世界の奴らが、人妖を使って俺たちの世界を攻めているとか言ってな・・・・・・」
「何よそれ・・・・・・」
炎王が引きつった表情で震えている。自分たちが侵略者に仕立てられていたという事実への怒りと同じく、自分は面倒な奴らと馴れ合っているのでは?という不安によるものであった。
そこで今度は海太が、次の質問をしてきた。
「今の話で疑問があるんだけどさ・・・・・・」
「うん?」
「何で俺たちはこの世界に来れたんだ? この世界は、結界が張ってて通り抜けできないはずだろう?」
『そういやそうだな』
確かに炎王の話の中では、この部分だけ辻褄が合わない。軍はどうやって、岩木世界も侵入する手を見つけ出したのだろうか?
「さあ? でも確かにそうね・・・・・・。考えれるのは、こっちの世界から誰かがあなたたちを招いたか。もしくは・・・・・・」
「何だよ、思わせぶりもったいぶるなよ」
考え事をしながら、言いにくそうな様子の炎王。やがてこっちに問いかける形で答えを返してきた。
「あらかじめこっちの世界とあんたらの世界に、通り道になる固定された門があった、かしらね? あんたらの世界では、以前からこの世界と何か交流が? 一応少人数なら、結界を通り抜けることもできるけれども・・・・・・」
「いや、ないな・・・・・・」
特にそんな話は聞いたこともない。まあ確かに科学大最盛期は、別世界に変わるほどの、大きな変革ではあったが。
「なんか色々と頭の中を整理したいわ。取り敢えず私は寝るぞ・・・・・・」
「私もそうする。ちょっと疲れちゃった・・・・・・」
艦長・夢・陽子が、炎王に礼を言って、次々と自室へ戻っていく。今朝の仕事は休むことになりそうだ。
「じゃあ、私も寝ましょうか?」
「お前はこの家で寝る気か」
「いいじゃん、部屋は余ってるみたいだし。それともか弱い女の子を、外に放り出す気かしら?」
か弱くもなければ若くもないはずだが・・・・・・大事な情報提供者に違いはない。あのボロ神社にすぐに追い返すよりも、今しばらくはこの場に置いた方がいいかもしれない。
「しゃあねえ・・・・・・あんま騒ぎを起こすなよ」
「は~い♫」
「そうだ、もう一つ聞くが、そのレイコていう奴の次に、渡辺 紺ていう新しい緑人が生まれたっていう話があったりしないか?」
「う~~~ん? あったような、なかったような・・・・・・忘れちゃった♫」
「そうか・・・・・・」
この日、村の名物だった銅像が一夜にして消えた。そしてその銅像とそっくりな女が、突然海太の家に上がり込んでいた。
この事実に対して、皆に説明するのに海太たちは更なる苦労を後にすることになった・・・・・・




