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グール鉄鬼  作者: 大麒麟
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第六十八話 水中戦

 一方ここは農場。海太は現在、新しい稲の田植えをしていた。田んぼの世話は彼も初めてなのだが、やってみると意外とできるものだ。


 ルルルルルルルルッ!


 不意に海太の通信機が鳴る。着信を見ると、父のテイラーからだった。珍しいと思いながら、その通信を受け取る。


『すまん海太! 緊急で頼みたいことがある!』


 珍しい父親の焦った表情に、明らかに面倒ごとの気配を、海太は察知した。


「命令じゃなくて頼みか?」

『ああ、これは本来の軍の規則外の行動だ。お前が望まないなら、拒否しても構わない』

「じゃあ、お断りします」


 まだ何も言ってないの、あまりにもの手早い返答。テイラーのこめかみが震えた気がするが、海太はそんなの気にしない。


『説明だけでも聞け! 青太がワールドビーストの危機に晒されてるんだ!』

「何で? 青太に会ったのか?」

『ああ、ビーストの出現をこちらに知らせてきた。ジェネラルシャークだ。その後すぐに、青太は海へ逃げてしまった。このままでは奴に殺されるかもしれない。水中戦型の最上級ビーストを、確実に迅速に撃退するには、鋼鯱の力がいるんだ!』


 何故この世界にビーストが? いやそんなことは些細な問題だ。海太にとって重要なのは、これを受けるかどうかだ。

 はい、と頷きかけて、すぐに口を閉ざす。つい最近、勢いだけで行動することを自制しようと、決心したばかりである。


 正直なところ青太は、会ってまだ数日しか経ってない女だ。一時は無駄な同情を沸いてしまったが、手間をかけて助ける義理があるかとなると、かなり微妙なところだ。

 それに彼女にこれ以上関わると、また次の面倒事をこちらに運んでくる恐れがある。


『時間がないんだ! 決断は早くしてくれ!』


 テイラーが急かすのを尻目に、海太は考え抜く。そして一分ほどして答えを出した。


「……判った、受けるよ。それであいつはどこにいったんだ?」

『すまん海太! 場所は……』


 通信機のディスプレイに、彼女の逃げ出した場所の座標が表示される。海太はその場で、用事ができたと同僚につげ、近くの森林に潜り込む。

 そして鋼鯱に変身して森林を駆け抜け、レーダーに引っかからない位置まで行ってから飛び立った。


(友達になってと言われて引き受けちまったからな。これで義理がないって見捨てたら、約束を破ったみたいだ。あ~あ……)


 海太の心は、この時半ば諦めの境地にいっていた。今後、こういう頼みが二度と来ないことを祈るばかりである。






 高速で空を飛びあっとうまに海までたどり着いた。鉄鬼が本気になれば、音速を超える速度で飛べる。強大なパワーを持つ鋼鯱ならば、その速度は特に凄い。

 今回は探索でもなく、人や物を運んでもいないので、遠慮無くその速度でいかせてもらった。途中で飛行の風圧で木々がへし折れたのが見えたが、そんなこと気にしない。


 テイラーから部隊の航路が伝わっているので、鉢合わせにならないよう、そこを避けて通る。

 海が視界に入った途端、力一杯減速機能を使って急停止する。急ブレーキをかけて自動車のように、いきなり速度を下げたことで、鋼鯱はバランスを崩しかける。

 勢い余って止まる予定だった岩浜を、百メートルほど飛び越えてようやく止まった。そのときの風圧で、海面が爆弾を落とされたかのように弾け飛ぶ。


(水中戦なんて初めてなんだが・・・・・・まあやるしかないか!)


 重力軽減装置を解き、そのまま下の海にダイブする海太。鉄鬼を使って、水の潜るなんてのは初めての経験だ。

 生身での泳ぎはそこそこといったレベルだが、水中での戦闘訓練など、当然受けていない。


 海太は早速、ビースト用探知機能を起動させる。レベル8の鋼鯱のレーダーは、実質全鉄鬼の中で最高範囲を感知できる。結果あっさりと補足した。しかも二つだ。


(二つ? ビーストは二匹いたのか?)


 感知された二つの位置は、海太の左右に結構離れている。いったいどっちに行くべきか、いきなり二者一択の選択を迫られてしまった。


(どうしよこれ? 父さんに聞いてみるかな?)


 あのダンジョンの時といい、これは個人の問題では終わらない。ここは自分に的確な指示を出してくれる人物が欲しい。

 だがよく見ると、この二つのビーストの生体反応は、かなり力に差があることが判る。一方の一体はかなり強い生体エネルギーを発している。恐らくこれがジェネラルシャークだろう。


(考える必要もないな。こっちから先に叩くか)


 海太はジェネラルシャークのいる方向に向けて、水中を突進した。水中を魚雷のようにグングン進む鋼鯱。

 彼は足や手を動かすといった泳ぐ動作は一切していない。鎧の周囲の海水をある程度操作し、それを波打ってジェット水流を生み出しているのだ。

 鋼鯱は黒金鯱同様に、元々水中戦用の鉄鬼。飛行性能は同じ尺度の鉄鬼の中では劣るが、水中での速度・敏捷性はとてつもない。あっとうまにその目的の者がいるところに到着する。


(この反応はマジックモンスターか?)


 近づいていくと、探知機能はビースト以外の生体反応を感知した。それはビースト反応と接触しているモンスターの生体反応である。

 何事かと思いながらそこへいくと、そこにはものすごい大物がいた。


 遠くからでもよく見えるそれは、巨大なタコであった。以前フェイがこの海でタコを見つけたが、こいつはその比ではない。頭の高さだけでも数十メートルはある。鯨だって食べてしまいそうだ。

 古い特撮作品にも、こういった大ダコが出る話はあるが、それがリアルにこの海底にいるのだ。


 そのタコは海底で、己の触手を鞭のように振り回している。ひと振り振っただけで、海水が津波のように脈打つ。

 そしてそのたびに海底の泥が撒き散らされ、近くの岩が砕ける。この辺一帯に、魚の姿は一つも見かけない。恐らく海水の波に驚いて、皆逃げてしまったのだろう。


 一見奇行にも見るこの行為。いったい何をしているのかと思ったら、巨大ダコは自分より遙かに小さい標的目掛けて、しきりに攻撃していた。あれは現在何者かと戦闘中だったのだ。


(いた! ジェネラルシャーク!)


 それはまさに海太が探していたビーストだ。奴さえ倒せば、少なくとも青太の安全は確保できるはず。最もその考えは、目の前の怪獣を見ると、少し自信がなくなってくるが。


 シャークは水中を機敏に動き、そのタコの巨大なムチをたやすく避けていく。シャークは泳ぐような動作をしておらず、空を飛ぶように自在に海中を動いているのだ。

 シャークにも当然、鋼鯱と同じ自分の周りの海流を操作する力がある。


 見るとシャークのククリナイフの刀身が、青く発光していた。しかもそれは時間が経つごとに、少しずつ光が強くなっている。

 攻撃を避けながら、少しずつ刀身に、必殺技のパワーチャージをしているのだ。


 三本の触手が一気に襲いかかったとき、初めてシャークはそのククリを振る。


 ザン!ザン!ザン!


 放たれた青く光る水の刃が、その三本の大木のように太い触手をまとめて斬り裂いた。

 海中に青い血液が、ガスのように撒き散らされて、海中を視界を悪くするぐらい濁らす。その痛みによるものか、巨大タコが震え、動きが鈍くなった。


 シャークの刃は、まだ光が完全に消えていない。蓄積したエネルギーはだいぶ減少したが、まだ一発必殺剣を放てる。

 シャークはククリナイフを構え直し、巨大タコに向けて突進した。


 ザシュ!


 見事なまでの一刀両断だった。シャークのエネルギーを纏った刃が、剣を振るうとともに如意棒のように一気に伸び、巨大ダコの巨体を真っ二つにした。

 包丁で調理されたかのように、頭が綺麗に切断される。そこから青い血液が大量に吹き上げ、一帯の海域を真っ青に染める。


 その青い雲からシャークが抜け出てくる。そしてある方向に顔を向けた。この中で彼以外に存在する者はただ一人。鋼鯱=海太以外にいない。

 シャークが今度は、鋼鯱の方に向けて、武器を構えなおす。


『(やっぱりやるか!)ビースト! なんでお前が、この世界にいやがるんだよ!』


 敵が何らかの攻撃を仕掛ける前に、鋼鯱が先手を取る。シャークめがけて、勢いよく超音波砲を発射した。

 音は空気よりも水中の方が良く伝わる。海中で発射された超音波砲の威力は、地上よりも威力が上がっていた。


 シャーク目掛けて、海中を音速で飛ぶ超音波砲。だがシャークは、鋼鯱のエネルギー流れをいち早く感じ取り、発射される前に弾道から移動していた。

 難なくかわされる超音波砲。彼方の海へと飛んでいくあれが、ひどい被害を出さないのを祈るばかりだ。


 鋼鯱は休む暇など無く、次弾を連続した発射した。だがシャークは、最初と同じく海中を機敏に動いて、それらをかわしていった。


(当たらないか。だったら直接斬りつける!)


 射撃と剣術どっちが得意かと言われれば、海太は剣術の方へと傾く。シャークへと突進し、腰の刀を一気に引き抜く。そしてシャークへと斬りかかった。


 鋼鯱の剣撃は……いともたやすくかわされた。

 最初の超音波砲と同様に、どんなに剣を降っても海中を機敏に動くシャークに、一擊も当たらないのだ。よく見るとその太刀筋は、いままでの戦闘とは比べ物ならないくらい下手くそになっている。


(くそ! 上手く剣が振るえない!)


 思うように剣を振るえない原因は、ここが水中だからであった。鋼鯱の中身=海太は、水中戦などこれが初めての経験である。

 水中戦の訓練を一切受けていないし、水中を上手く動くコツなどの知識もない。ただ勘に任せて、我武者羅に水中を動いていたのだ。

 鋼鯱がどれだけ水中戦に優れていても、本人がこれでは思うように戦えるものではないのだ。


 相手の素人な戦法に飽きてきたのか、ずっと避けの手をとっていたシャークが反撃する。


 ガキン! ギン!


 シャークのククリナイフの剣撃が、鋼鯱に命中する。鋼鯱の鎧は、損壊に至るほどではなかったが、その衝撃は内部の海太の身体に痛いほど伝わっている。

 反撃の一撃を与えるが、それも難なくかわされて、また何発か斬りつけられる。更に豪快な蹴りを受けて、数十メートル向こうへの海中へと吹き飛ばされた。


 鋼鯱が何とか態勢を立て直して敵を見ると、シャークのククリの刃が青く光っていた。今まさに必殺技を撃とうとしているのだ。


(やばい!)


 鋼鯱が大慌てで海中を飛ぶ。シャークの青く光るエネルギーの斬撃が飛んだ。だがそれは全て鋼鯱に当たることなく、海中の刀へと飛んでいく。

 必殺技を撃つには、チャージのため時間をとる。いかに海太が水中移動が下手でも、これだけ隙があれば、避けるのはたやすい。


 攻撃を外されると、今度はシャークが鋼鯱へと突進し、接近戦を仕掛ける。両者の剣戟が海中で鳴り響く。戦況は明らかに鋼鯱のほうが不利であった。



海入道:これも「不死の女神」からの再登場の大タコ。海坊主とは別地域の妖怪名。今作では、ただの噛ませ犬以外の意味はありません。

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