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グール鉄鬼  作者: 大麒麟
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第六話 混入品

「確かにこいつは妙な物が混じっていたものだね・・・・・・」


 真河豚・三番艦長 渡辺大佐 33歳。この若き艦長のいる艦長室の中、彼女の目の前にはある二つの物体が置かれている。

 先程、命令通りに物資の確認をしていたところ、食糧や修理部品に混じって、とんでもない物が発見された。


 そのうちの一個は、1メートルほどの正方形の箱のような物体だった。それは一目見ると、超巨大なルービックキューブである。一面が9つの正方形で分割されている図面は、どうみてもそれにしか見えない。

 だがこれは全体が金属的な光沢を放つ濃い青色であった。またある一面の真ん中部分に、大きな赤い目のような水晶が埋め込まれている。


 この奇妙な箱形物体の名は“ブロックジャック”という。外見からは判りにくいが、これは医療用の自立移動式のロボットである。

 かつて日本で医師不足が深刻になった時期があり、科学大最盛期時代に医師の人員を機械の力で補充しようと造られたのがそれである。

 完成したそれの性能は、文句なしに合格だった。診察・薬剤調合・手術など、医療に必要な機能を全てそのボディに備えており、それを完全に使いこなす魂を持った高性能コンピューターは、人間の名医以上の働きができた。


 だが一方でコストがかかりすぎる問題点があった。これ一台製造するのに、平均的な医師の年収3000年分の費用がかかってしまうのだ。この非効率が原因になって、大量生産はされなかった。


 更に折り悪くこれが完成した頃に、ロボット法で自我・感情を持った人工知能の製造が禁止されたのだ。

 本来ロボットという物は、危険な作業を人間の代わりにやらせるために研究されてきたもの。いわば壊れても使い捨てに出来るようにするためのものである。

 だがロボットに人間と同じ人格を与えてしまうと、そういう使い方が出来なくなる。これではロボットを作る意味がない。


 ブロックジャックもそういった人格人工知能があるロボットだった。この法が成立する前に完成したため、違法製品とは一応されていない。

 だが世間的な理由ができてしまい、多くが一度も起動させられずに、このロボットは倉庫の中に押し込まれたという。目の前にあるこれもその一台であろう。



 もう一つの問題の品は、艦長の前のテーブルに置かれたあるベルトである。ベルトの真ん中には、スマートフォンのような部品がついている。

 それは今の時代の地球人ならば、誰もが一目で分かる品物だ。鉄鬼の力の起動装置である。


 こんなものこの場所では全く珍しくない。今回の進軍に参加した兵士のうち、上等兵以下の階級者と、整備士・衛生兵などの戦闘に関わらない者達を除けば、兵士全員に支給されている。ランクレベル1~6まで隔たりがあるが。


 だが目の前のこれは、少し曰く付きの物である。これは総隊長が持っている黒鉄鯱を更に進化させた“鋼鯱(はがねしゃち)”の起動装置だ。

 レベルは何と8! 現在実用化されている最大レベルは6であり、レベル7すらまだ完成していないというのに、こんな品物があるのだ。


 これは一応兵器としては完成している。パワーだけならば、充分世界最強レベルの鉄鬼である。当初これが発表されたときには、世界を救う最強ヒーローの誕生か!?と世間を賑わせた。

 だがこれは一個作られただけで、その後生産も研究もされず、それどころか戦場にも送られずに倉庫行きになっている。


 ブロックジャックとは違い、これはコストの問題ではない。装着者の健康上の問題だ。

 これはあまりにパワーがありすぎて、装着者の肉体にかかる負担が強すぎたのだ。実験に参加した兵士達が、この鉄鬼の副作用で何人も瀕死の重傷を負っている。

 あまりに危険すぎて実用化の目処はないと、とうに見限られた品である。


 更に言えば、世間の目の問題も出てきた。これが完成する直前に“ファイブドラゴン事件”という忌まわしい事件が発生。地球連合軍の評判は大きく低迷し、人々の中になった鉄鬼=正義のヒーローという概念が、見るも無惨に砕け散っていた。

 そのために世間はこの鋼鯱に何の期待も寄せず、それどころか市民を虐殺する破壊兵器に成り得るという非難の言葉まで上がっていた。


 ちなみにこの鉄鬼を開発したのは“西村工業”という、黒鉄鯱製造と同じ会社である。

 黒鉄鯱も含めて、変身後の鎧のデザインをしたのは、そこの社長の娘である。7年前当時14歳だった少女の発想力としては、中々決まったデザインだと言われている。

 ちなみに艦長は、ある経緯でその社長令嬢と面識があった。


 この曰くつきの品物2つが、よりによって何故この輸送船の物資に紛れていたのだろうか? これを持ってきた兵士が、渡辺艦長の疑問に先に応えた。


「どうやら軍の中の倉庫管理が、かなり杜撰に行われていたようで、倉庫の奥に他の機械部品と一緒に適当に押し込まれていたようです。それが今回の急な運び出しに、うっかり紛れてしまったものかと……」

「おいおい……」


 渡辺艦長は呆れて言葉も出ない。これ一つ一つにどれだけの資金がかかっていると思っているのか……


「まあ、あったからといって問題が起きるものじゃない。ブロックジャックの方は、もしかしたら今の事態に何か役に立つかもしれないしね。とりあえず……医務室のほうにでも置いておきなさい」


 言われるがままに、その二つは医務室に運び出された。いきなり得体の知れない物体を、自分たちの領域に持ち出された衛生兵達は、当日に抗議の声を艦長に送ったという。





 兵士達は一切外には出ず、艦の中に閉じこもっていた。いずれくるだろう敵の捕縛部隊が現れるのを待って。

 精鋭のほとんどをたった1人で倒されたのだ。残ったレベル1~2の鉄鬼の戦力では到底敵わない。もしきたら即効で降伏することになるだろう。


 兵士達は恐怖すると同時に、僅かながらもそれに対する歓迎の意思があった。何しろこの見知らぬ世界で、何も出来ず放置されたのだ。どのみち組織的な保護は必要だ。


 だが太陽が沈み、真っ暗闇の夜になっても来訪者はいなかった。空には綺麗な半月が浮かんでいる。

 その形は彼らの故郷と全く同じ形・大きさだ。天文学調査をしたところ、この惑星は地球だと判った。彼らの故郷とは違う歴史を歩んだパラレルワールドの地球だろう。


 どんなに電波を探っても、何かを要求する通信は全く来ない。この世界の時間軸で、日が変わる時間になると、兵士達は緊迫した空気を作り続けるのにも飽きてきた。


 やがて敗戦記念パーティーなどという、おかしな催しを行う者達まで現れた。


「ハッピーバースデー! 今日は我ら地球連合軍の初敗戦の日だ! さあみんな祝おう!」

「「おおおおおおおおおおおっ!」」


 真河豚・三番艦内の食道室で、副艦長の佐藤幾多郎中佐が、誕生日なのか記念日なのか意味不明な言葉を上げる。

 それに同調して数十人の兵士達が、歓声を上げて倉庫から引っ張り出した食糧を手当たり次第食べまくった。


 この行為に意味など不要。とにかく皆楽しい時間を作りたいだけである。

 ぶっちゃけ丸一日艦に閉じこもっていたせいで、退屈さでストレスが溜まっていた。


「艦長、どうしますこれ?」

「どうするもなにも・・・・・・好きにやらせておきなさいよ。私だって今日は現実逃避したい気分なんだ・・・・・・」


 艦橋にて監視カメラから届いた映像に、渡辺艦長は呆れきった。とりあえずあまり無駄に食糧を消費しないように、後で注意するよう思い直す。


「それとこのアホな宴に混じって、携帯ゲームらしきものをしている者がいるのですが・・・・・・」

「うん?」


 監視カメラの映像の一部分、その場所をズームしていると、食堂室の片隅で隠れるようにゲームに熱中している兵士が1人いた。


「高橋少尉か・・・・・・どうやって持ち込んだんだか、1人だけずるいね。後でこっそりこっちにも貸すよう命令してみるか?」

「はあ、そうすか。でも彼には、あんまり手を出さない方が・・・・・・」

「はっ?」


 部下の言葉の意図が判らず、艦長は首を傾げた。彼に何かあっただろうか? 何やら彼を怖がっているように見えるが? まあ確かに変わった若者と思っていたが・・・・・・


(入隊初日に、臆病者なのか勇者なのか、よく判らんことを言ってくれたからなあ。本当に何者なんだか・・・・・・)


 よく見ると彼の周りには、不自然に人がいない。何やら皆、彼から意識的に遠ざかっているように見える。


 ブツン!


 唐突に艦橋正面に映された、監視カメラの映像が途切れた。メインスクリーンが真っ黒な画面に切り替わる。

 いきなりのことに、艦長含め全員が動揺した。


「何だ? 誰かリモコンを押し間違えたか?」

「別にテレビじゃないんですし、そういうことではありませんよ。おそらく機械の故障です。整備班に連絡を取りましょう」


 しばらくして、あの着物女が艦に穴を開けた際、監視カメラの一部機能に損壊が起こっていたことが判った。これに関しては後日、修理にとりかかるとのこと。


 やがて夜が過ぎ、朝日が昇っても敵らしきものが艦隊を訪れることはなかった。





 ところかわってここは第一番艦隊の、大艦隊総司令部のある主力艦“リヴァイアサン”の会議室。

 会議室と言っても、テーブルの上に置かれているのは、人ではなく大きなテレビ電話用のディスプレイだ。


 そこにはリアーナ・ニーソン総司令を見据えるように、数十のディスプレイに通信してきた人間の姿が映っている。

 彼らは皆軍服を着ており、しかも全員が80歳を超えていそうな老年・老女達だ。


 別にここは老人ホームの交流会ではない。彼らは全員少将以上の階級を持つ、第1~40番艦隊の提督達だ。

 現在進行中の事態において話し合うために、この場で緊急会議を設けたのだ。


『【いったいいつまで待たせるつもりだ? 何故敵は全く手を出してこない? そのせいでウチの艦隊では“敗戦記念運動会”などという馬鹿な催しをやらかす奴らが現れた。狭い艦内を好き放題に暴れる所為で、もう部屋は無茶苦茶だぞ・・・・・・】』

『【ブラックよ・・・・・・それでは敵の襲来を待ち望んでいるように聞こえるぞ?】』

『【別にそう言う意味では・・・・・・いや安易に否定はできないな】』


 最初は皆、このまま敵にやられて全滅するのではないかと恐怖に駆られたが、時間が経って情報が出回ると次第に落ち着きが出始めた。

 何しろあれだけの戦闘行為を行っておいて、味方に死人が1人も出ていないのだ。壊滅した鉄鬼部隊には、骨折などの重傷者も多かったが、致命にいたるような怪我は1人もいない。後から判ったことだが、どうも彼女は意図的に急所を外して戦っていたようなのだ。


 その後艦隊を沈めたときも、敵は明らかに死傷者を出さないよう配慮しながら、こちらを攻撃しているのが見て取れた。フィクションの定番では、こういう戦い方をする奴は、実はいい人というのがお約束である。

 そのせいでほとんどの将兵が、現状を絶体絶命の危機とは思っていない。


 異世界のここでは、地球連合との連絡は取れない。あの異世界の門は、そう何度も気軽に開けることは出来ないのだ。

 次に門を開けるのは、進軍から丁度1年後を予定している。その時に、艦隊の戦果の確認と、各艦の帰還・補充を行う予定だ。


 つまり今後一年間は、ずっとこの世界に無連絡で在住し続けなければいけない。敵であれ何であれ、こっちの世界との文明との接触・協力は重要なのだ。


『【ビーストを送り出して、億単位の人間を虐殺した奴らの行動としては、何とも奇っ怪な行動だな・・・・・・。奴らの目的は何なのだ?】』

『【とにかくこのままいつまでも艦に引きこもっている訳にはいかん! この状態の維持は兵士達の精神状態におかしな負荷を与えかねん。彼らの意識を和らげる意味も含めて、外部への調査を・・・・・・ごほぉ!?】』

【【!!】】


 二番艦隊提督ブラック・ホッパー大将(87歳)が、突然胸を押さえて苦しみだした。


【ブラック!? いったいどうした!?】


 ディスプレイの向こうから、衛生兵達が彼の緊急治療を行い始めたのが見える。数分ほどして衛生兵の1人が、ディスプレイに顔を出した。


『【大丈夫、深刻な発作ではありません。心労を溜めている中で、唐突に声を荒げたのが原因でしょう】』

【会議に出る前に、ちゃんと診察はしたのかい? ここにいる全員に、仕事に出るときは必ず医師からの診察を受けることを義務づけただろう?】


 これは提督達全員にかけられた義務。全員が病弱なお年寄りであるが故に・・・・・・


『【いえ、それが状況が状況でして、皆がそれをうっかり忘れた状態になりまして・・・・・・】』


 総司令の問いに、衛生兵がばつが悪そうに答える。それに周りの者達が心配と共に、呆れの声をあげた。


『【おいおい駄目だろう。健康維持はちゃんとやらんと。戦地ではいつも以上に長生きするようつとめんと】』

『【そうじゃのう。儂は医者から余命3年と言われて、今年で10年目。何事も気をつけた健康管理をしておれば、どこまでだって長生きできるもんじゃ】』

【とにかく会議は中止だ。さきほどブラックが言っていた提案に関して、こちらからある程度検討した後、皆に送る】


 ディスプレイが全て消え、会議室は静寂さを戻す。だが直後に今度は総司令が、顔色悪そうにしている。


【ごほっ、ごほっ、一旦部屋に戻る。すぐに提案書を書かなくては・・・・・・】


 苦しそうにむせながら、会議室を出て行く総司令の背中を見て、一部始終を見ていた護衛の兵士は思った。


(艦隊で先に殉職するの、この方々なのでは・・・・・・?)


 艦隊の今後に不安を感じざるを得ない会議であった。


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