第六十話 学校の怪談10
第1体育館では、未だに戦闘が行われていた。鋼鯱と陽子が、倒しても倒しても、無限に復活する鎧武者達を次々と斬り裂いてく。
これではキリがないということは、誰にでも判る。対処法は、この鎧武者達に力を送っている者を倒すか、相手の魔力が底を尽きるまで倒し続けるかの二択だ。
だがこの体育館、及び周辺をサーチしてみても、力を送っている根源らしき者を見つけることが出来ない。ならばやれることは後者になる。
「くそ! いつまで生き返るんだこいつら!」
海太はまだまだスタミナがあるが、陽子には確実に疲労が蓄積している。このままではやばい。
おそらく体育館を出ても、こいつらは襲ってくるだろう。それだとこの校舎のどこかにいる、銀子とヒナイにも危害が及びかねない。
(この体育館の壁を突き破って、一旦退却するか? しかし、それだとヒナイ達を見捨てることに・・・・・・)
このままだとそんな二者一択の選択を、本気で迫られてしまう。
海太にとっては冗談じゃない話だ。彼がめんどくさがり・目立ち嫌いなのは、こういった責任重大なことから逃げるためだったというのに。最も自ら鋼鯱に手を出した、彼の自業自得と言えなくもないが。
「はぁ、はぁ……海太はもう行って。ここは私がやるから、ヒナイちゃんたちを探して……」
「おいおい……」
陽子がいきなりそんなことを言いだした。あまりに困る言葉だ。一本だたらのとき、自爆未遂を起こしたが、こいつの特攻思考は、海太は嫌いである。だがこのままだと拉致が明かないのは確かだ。
海太はいきなり疲れきった陽子を抱き寄せて、片手で物のようにつかみあげた。
「ちょっと、海太!」
「体育館から出るぞ!」
もうこれしか選択肢がない。敵を全て倒しながら、この校舎を走り回ってヒナイ達を探す。
多少危険でも、両方を助ける手段はこれしか思いつかなかった。そして海太が走り出そうとしたとき、鋼鯱の探知機能が、何かを補足した。
(この反応は人!? 生きてる人間が二人、こっちに近づいてきている)
それは勢いよく走り、そして体育館の二階層に姿を現した。
「やった! 本当にいた!」
それは紛れもなく銀子とヒナイだった。体育館の後方部分、二階通路から体育館に入るところは、ベランダのようになっている。
二人はこちらを見下ろす形で、海太達の前に自ら姿を表したのだ。
銀子はヒナイを抱え込み、そのまま二階から飛び降りた。一般人なら勇気のいる行動だが、一応軍人である銀子には、素早く決断できる行動だ。
彼女は上手く一階に着地した。衝撃で足が震えながら、こっちに向けて叫んだ。
「聞いて鋼鯱! ここのゴーストハザードの首魁は、この学校の校舎そのものなの! この建物自体が、大型の九十九神だったの! この学校を全部破壊して!」
それが彼女が勝郎から聞いた真実。通常霊素材を使用されて作られた物品は、比較的付喪神化しやすい。しかもこの校舎は、築六百年の古建築。ある意味必然の結果だったと言える。
だがこの校舎=親方は、ずっと己の正体を隠していた。バレたら政府機関に警戒される。もし下手に人が危害を加えたりしたら、あっとうまに自身を解体されて終わりだ。
だからここに人の出入りがある間は、目立つ行動は極力避けていた。そのため廃村・廃校が決定した最期の時まで、この校舎が怪物になっていたことに、誰ひとり気づかなかったのだ。
(成る程ね。この鎧武者達、建物自体から魔力を供給されているから、術者を探そうとしても見つからないわけだ。でも何で銀子が知ってるんだ? うん? これは・・・・・・)
かかってくる鎧武者達を斬り伏せながら、海太はこの情報に納得した。
その直後に、鋼鯱の探査機能が、二人の後ろから追ってくるように近づいている、ある霊体反応を補足した。これには陽子も霊感で気がついた。
たった今、銀子達が飛び降りてきた二階の枠から、また何かが飛び出してきた。それはあの謎の白い人型=クネクネである。それが上から、銀子に飛びかかるように落下してくる。
海太は鎧武者達の相手を優先的にしていたため、これへの対応が少しばかり遅れた。
「危ない!」
比較的近い位置にいた陽子が、即座に駆けだし、銀子達を跳ねとばす。そして上から降ってくるクネクネと、直接ぶつかった。
ドスッ!
そんな刺突音と共に、陽子に上から覆い被さるクネクネ。その細い胴体の背中から、一本の刃の鋒が、短めに生えていた。
クネクネが陽子に直撃する直前、陽子はそれに向けて上向き霊刀を突き出していた。陽子の刺突と、クネクネの自由落下の衝撃が重なり、その霊刀は深々と、その身体に突き刺さったのだ。
『ぐがぁあああああああっ! 何だこの刀は! こんなものをどこで・・・・・・がぁああああっ!』
呻くような声を上げながら、クネクネの手足が前にもまして、蛸踊りのように激しく上下運動を繰り返す。
そして風船のように身体が弾け飛び、あっというまに消滅してしまった。
「・・・・・・勝郎は?」
心配そうな表情で二階通路入り口を見やる銀子。明らかに人名と思われるそれに、陽子は問いかけた。
「まだ誰か人がいたの!?」
「・・・・・・ううん、人じゃない。多分あの子なら大丈夫よ。鋼鯱、さっきも言ったけど早くこの学校を壊して!」
よく判らないが、大丈夫だというなら、遠慮無くやらせてもらう。今までは倒壊を恐れて、あまり派手な攻撃はしなかったが、もうそうする理由もない。
眼前には数十人の鎧武者の一団が、こちらに向けて突進しているのが見える。海太は周囲にいる鎧武者を瞬殺すると、そちらに向けて思い切り超音波砲を放った。
強力な音撃の波動が砲弾のように飛び、鎧武者達を跳ねとばす。遠距離攻撃ゆえに、直接斬りつけるよりも攻撃力は劣る。だが鎧武者を一時止めて、その後ろの体育館の壁にぶつけることぐらいはできた。
ドォオオオン!
体育館のセラミックス製の壁が、その音擊砲で吹き飛び、そこに直径三メートル程の穴を開ける。これなら人が簡単に通れそうだ。
「何だ? 意外と脆いな? お前ら早くあそこから脱出しろ! フルパワーの音擊で、校舎を丸ごと吹き飛ばす!」
その言葉に頷いて、陽子・銀子・ヒナイは、その穴に向けて走り出した。途中で鎧武者が何人か妨害に入ったが、陽子の霊刀に容易く倒された。
ちなみに海太は、簡単に壁を壊せたことを意外に思っていたが、この校舎は元々、軍の砦のような堅固な構造になってはない。しかも耐用年数をとっくに過ぎたボロ建築だ。通常兵器でも破壊することは可能である。
海太は鋼鯱のベルトウィンドウの必殺技番号を入力した。すぐに鋼鯱の頭部に、強大なエネルギーが流れ込み蓄積されていく。
そのエネルギーの波動の強さに、周囲を取り囲んだ鎧武者達も、中々近づけずにいる。
探知機能で、三人が爆破範囲外から逃れたことを知ると、その蓄積したエネルギーが一気に開放された。
『やめろぉおおおおおおおおっ!』
親方の悲鳴も聞く耳持たない。鋼鯱は最大出力の音擊砲を、この学校の中央部分のグラウンドのある方向へと発射した。
ここは校門前。二人の猫鉄鬼とカンガルーの死闘が続いていたが、その場の鉄鬼に変身している全員が、校舎側の一角から放たれる、強大なエネルギーを感知した。
『これは鋼鯱の超音砲だ! ここらいったい吹き飛ぶぞ!』
「マジすか!? おいお前ら早くここから離れろ! 吹き飛ばされるぞ!」
今まで生身でいた渡辺艦長が、即座に鉄鬼・番犬旗本に変身して、その場から逃げ出す指示を出す。音擊の余波から逃れるには、鉄鬼の頑丈なボディでいたほうが安全だ。
それを聞いた兵士たちが、一目散に校門から外へと駆け出した。ただ猫鉄鬼二人だけが、その場でカンガルーとのにらみ合いを続けていた。
「お前ら何してる! 早く逃げろ!」
「しかし、まだ中には子供が!」
「大丈夫だ! そいつらを助けるヒーローなら、もう中にいる。いいから早く逃げろ!」
「「!?」」
よく判らないが、今救出に行っても間に合わないのは確か。ここはひとまず渡辺大佐の言葉を信じて、二人は言われた通りに外へと駆け出した。
後には自分では判断できず、オロオロしているカンガルーだけが残された。彼も強大なエネルギーに気づいていたが、こういう時の対処法は何も言われていない。
そしてその強大なエネルギーが一気に弾け、拡散して、学校全体を強大な衝撃波の結界に飲み込んだ。
ドォオオオオオオオオン!
まるで核爆弾が落とされたかのような爆発。実際核兵器並みのエネルギーの破壊だから洒落になっていない。
衝撃波は一定範囲だけを飲み込んで発生している。その範囲内のものは、金属でもセラミックスでも関係なく、砂のように分解させて吹き飛ばした。
範囲外の場所でも、こぼれ出たエネルギーが爆風を起こし、周囲の木や草を台風が起きたかのように揺れ動かす。
衝撃波が止むと、空には大きなキノコ雲が発生し、粉々になった学校の欠けらが、雨のように大量に降り注ぐ。
範囲外へと逃げ出した兵士達の鉄鬼の鎧が、それらの粉を被って汚れていく。彼らは呆然と、この現状を眺めていた。
やがて煙が止むと、そこには直径約1キロ・深さ300メートルもの、巨大なクレーターが出来上がっていた。
あの巨大な校舎の姿は、もはや影も形もない。まるで隕石でも落ちたかのような、凄まじい惨状だった。
そのクレーターの右側部分から、何かが浮き上がってきた。兵士達がそれに注目する。
このクレーターを見下ろすように飛行しているそれは、銀色の鎧を身に纏う戦士・鋼鯱に違いなかった。
「まさか・・・・・・奴がこれをやったのか?」
雄一が信じられないと言った口調でそう呟く。いくら鉄鬼とはいえ、これほどの破壊エネルギーを生み出すなど、少なくとも現在地球連合が実用化している鉄鬼では存在しない。
レベル8、その数字の指し示す強大さを直に見せつけられて、兵士達は萎縮した。




