第30話 選ぶということ
選ぶ側になる。
それが、あの場で決まったことだった。
契約は成立した。
立場も変わった。
だが――それだけではない。
僕の“在り方”が、変わった。
馬車が進む。
王都の通りは、いつも通りだ。
人がいて、音があって、流れがある。
変わっていない。
だが――
見え方が違う。
ここは、もう“外”ではない。
中だ。
完全に。
「……静かだな」
父が言う。
低く、短く。
僕は答えない。
ただ、前を見る。
それで十分だ。
父はそれ以上何も言わない。
必要がないからだ。
あの場で、すべては終わっている。
そして、始まっている。
同時に。
屋敷に戻る。
扉が開く。
空気が変わる。
使用人たちの視線が集まる。
以前とは違う。
戸惑いではない。
測る目だ。
評価の目だ。
僕はそれを受け流す。
意味はない。
今は。
「おかえりなさいませ」
下男の声。
静かだが、はっきりしている。
振り向く。
視線が合う。
一瞬。
それだけで分かる。
こいつは理解している。
結果だけで。
すべてを。
いい。
それでいい。
「……後で」
短く言う。
下男が頷く。
それで終わる。
言葉はいらない。
そのまま、部屋に戻る。
静かだ。
音がない。
だが、頭の中は静かではない。
断片が流れる。
今までよりも広い。
多い。
そして――
曖昧だ。
確定していない未来。
それが増えている。
これは、変化だ。
範囲が広がった。
見えるものが。
だが――
それは同時に、選択が増えたということでもある。
間違えられない。
以前よりも、さらに。
僕はゆっくりと息を吐いた。
いい。
それでいい。
最初から、そういうものだ。
この力は。
楽になるためのものではない。
間違えないためのものだ。
ただ、それだけ。
その時。
扉が叩かれる。
短く、二回。
「入れ」
父の声。
扉が開く。
父が入ってくる。
いつも通り。
だが――
少しだけ違う。
距離が。
見方が。
「決まった」
短い言葉。
だが、重い。
僕は視線を向ける。
続きを待つ。
「お前を、王都に入れる」
来た。
だが、それは“場所”ではない。
意味だ。
完全に。
「中で動け」
それだけ。
命令ではない。
許可だ。
そして――
任せた、ということだ。
僕は動かない。
ただ、父を見る。
父も何も言わない。
それで十分だ。
関係は、ここで確定した。
僕は、僕のやり方で動く。
それを、父は止めない。
もう。
その時。
断片が走る。
王都。
人。
対立。
そして――
選択。
無数の分岐。
どれも確定していない。
だからこそ、意味がある。
僕は目を開ける。
未来は見える。
だが、決まってはいない。
決めるのは――
僕だ。
僕は静かに息を吐いた。
ここまでは、生き残るためだった。
失わないためだった。
だが――
ここからは違う。
選ぶ。
何を残すか。
何を切るか。
どこまで進むか。
全部、自分で決める。
僕は窓の外を見る。
王都の景色。
変わらない。
だが――
もう、同じではない。
僕の位置が変わったからだ。
僕は静かに目を細めた。
次は――
選び続ける。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
この物語はここで一区切りとなりますが、
彼の選択は、これからも続いていきます。
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またどこかで、この続きの物語をお届けできればと思います。




