第17話 消える前に
次は、中で消える。
その断片が示していたのは、“到着後”ではない。
“途中”だ。
それも――気づかれない形で。
馬車は進んでいる。
揺れは一定。
音も安定している。
だが、その安定が逆に不気味だった。
何も起きていないということは――
準備されている。
僕は目を開ける。
状況を整理する。
捕虜はいる。
護衛も増えている。
警戒も高い。
普通なら、問題は起きない。
だからこそ――
起きる。
“内部”で。
「交代だ」
外から声が聞こえる。
護衛の声だ。
短い。
日常的なやり取り。
だが――
違和感がある。
タイミングだ。
今、交代する理由がない。
まだ距離はある。
王都までは遠い。
なら――
なぜ今だ。
僕は、ゆっくりと身体を揺らした。
小さく。
だが、繰り返す。
「アルト?」
母が覗き込む。
僕は答えない。
代わりに、視線を外へ向ける。
そして――
止める。
音に集中する。
足音。
鎧の擦れる音。
そして――
一つだけ違う。
軽い。
重さが足りない。
装備が違う。
護衛ではない。
紛れている。
理解した瞬間、背筋が冷えた。
これだ。
内部から消える原因。
僕は強く身体を揺らした。
今度ははっきりと。
拒絶するように。
「どうしたの」
母が不安げに言う。
父の足音が近づく。
「またか」
低い声。
だが、止まる。
もう無視しない。
それでいい。
僕は、視線を動かす。
馬車の外。
護衛。
そして――
最後尾。
少し遅れている影。
そこに固定する。
父がそれを追う。
「……止めろ」
一言。
だが十分だ。
空気が変わる。
護衛が一斉に動く。
「全員、確認しろ」
声が飛ぶ。
張り詰める。
止まる。
列が。
時間が。
その瞬間。
後方の影が動いた。
速い。
迷いがない。
逃げる。
確定だ。
「逃がすな!」
護衛が追う。
森へ。
消える。
だが――
遅い。
数秒。
その数秒で十分だ。
列が乱れる。
視線が外れる。
そして――
消える。
僕は目を見開いた。
断片と一致する。
捕虜が。
いない。
「……いない」
誰かが呟く。
空気が凍る。
「馬鹿な」
父の声が低くなる。
だが、怒りではない。
確認だ。
「どこだ」
短い。
だが、重い。
護衛が動く。
探す。
だが――
いない。
痕跡もない。
消えている。
完全に。
僕は、静かに息を吐く。
防げなかった。
いや――
半分は防げた。
侵入は防いだ。
だが、消失は防げなかった。
つまり――
この構造は、まだ崩れていない。
敵は“内部に入り込む”。
そして、“消す”。
それが成立している。
問題はそこだ。
僕は、ゆっくりと視線を上げる。
父を見る。
父もこちらを見ている。
長い。
深い。
そして――
「……完全に読まれているな」
言葉が落ちる。
静かに。
だが、重く。
来た。
認識の変化。
敵のレベルが、引き上がる。
「偶然ではない」
父が続ける。
「こちらの動きを見て、対応している」
正しい。
完全に。
それが分かっただけでも、大きい。
戦い方が変わる。
「なら――」
父が一度言葉を切る。
思考が走る。
そして――
「見せるものを変える」
来た。
対応策だ。
いい。
流れは止まっていない。
むしろ、加速している。
僕は静かに息を吐く。
これで一つ。
段階が上がった。
だが――
問題は残る。
情報源が消えた。
つまり――
王都に入る前に、情報が途切れる。
その状態で突入することになる。
危険だ。
だが、止まれない。
その時。
頭の奥で、断片が弾けた。
王都。
門。
通過。
人の流れ。
そして――
同じ紋章。
すぐ近くにある。
気づいていないだけで。
すでに“内側”にいる。
そこで映像が切れた。
理解した。
敵は、待っていない。
もういる。
最初から。
僕は目を開ける。
未来は変わる。
だが、追いつかれている。
次は――
中から来る。
敵は外から来るだけではありませんでした。
気づいたときには、すでに中にいる。
それが今回の本質です。
ここからはさらに一段階、戦いの質が変わります。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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次は――王都に入る前に仕掛けられている“内部の敵”です。




