第3話 初遭遇
ゴツゴツとした岩肌が続く洞窟。
天井に群生する発光苔がうっすらと青白い光を放っており、視界に不自由はない。
周囲を見渡せば、その様相は俺が20年過ごした異世界の迷宮と全く同じものだった。
「すー……はー……っ」
思いっきり空気を吸い込み、細く吐き出す。
大気に溶け込んだ濃厚な魔力が肺の隅々まで満たし、飢餓状態で干からびていた細胞が一気に歓喜の声を上げる。
全身の血が沸き立つように熱い。
――あぁ、これだ。
これならば、本来の力を十全に発揮できるだろう。
さっさとモンスターをしばいて、食らってやる。
空腹にもう耐えきれず、俺は一本道を風のような速度で駆け抜けた。
背後から、ウィィィンという小さな駆動音を立てて「監視ドローン」が追尾してくる気配を感じるが、気にしてはいられない。
すぐに通路は二股になった。
走りながらスキル【感知】を発動し、生体反応を探る。
……右だ。右側の通路の先に、濃密な魔力を宿したモンスターがいる。間違いない。
俺は拳にグッと力を込めながら、極上のディナーに向けて先を急いだ。
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「ギャギャギャ……!」
通路を抜けた先の開けた空間で、そいつらは現れた。
緑色の醜悪な肌を持った小鬼、ゴブリン。異世界で嫌というほど、それこそ何万体も狩り尽くした底辺モンスターだ。
その数、三体。
三対一の数的有利。その上、俺は丸腰だ。
ゴブリン達は「いい獲物が来た、なぶってやる」とでも言わんばかりに嗜虐的な笑みを浮かべ、手に持った粗悪な棍棒を振り上げた。
異世界にいた頃の俺ならば、道端の石ころ程度にしか思わず、そもそも相手にすらしないような弱小モンスターである。
しかし、今の俺はとにかく魔力を含んだ肉に飢えきっている。
腹を空かせた今の俺の目には、目の前の醜いゴブリン達が、湯気を立てる「最高級のフルコース」にしか見えなかった。
じゅるり、と。
鉄仮面の奥で、口の中が大量の唾液で満たされる。
「ギャギャギャッ!」
先頭の一体が、ドタドタと足音を鳴らして飛びかかってきた。
「肉……!!」
俺は、真っ向から振り下ろされた棍棒ごと、ゴブリンの顔面を正面から殴り飛ばした。
パンッ! という水風船が弾けるような破裂音。
しまった、飢餓感でつい力を込めすぎた。
ゴブリンの頭部は棍棒ごと粉々に吹き飛び、背後の岩壁に赤いシミを作った。
「……ギ、ギッ……?」
残った二体の顔から、嗜虐的な笑みが消え失せる。
仲間の頭が文字通り「消失」したのを目の当たりにし、顔を引き攣らせて後ずさった。
何をそんなに怯えている。心配することはない、すぐに楽にしてやる。鮮度が落ちる前に。
俺に背を向けて逃げ出そうとした一体の背後に一瞬で回り込み、その首筋に手刀を落とす。
気絶させる程度の『首トン』のつもりが、力の加減がバグっていたせいで『首ダン!』になってしまった。
あっけなく首の骨が断たれ、ゴロンと頭が地面に転がり落ちる。
「……ヒ、ヒギギ……ッ!!」
足をガクガクと震わせ、武器を取り落とし、もはや逃げることすらままならない最後の一体。
股間から生温かい液体を漏らしているが、調理前にはどうせ洗うので問題ない。
俺はゆっくりと歩み寄り、その頭部を鷲掴みにした。
そして、雑草を引き抜くような手軽さで、そのまま捻る。
ゴキッ。
鈍い音と共に完全に事切れたゴブリンの体が、崩れ落ちて地面に転がった。
戦闘開始から、わずか数秒。
「さぁ――食べるぞ!」
待ちに待った、楽しい夕食の時間だ




