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31 聞いて、俺の声。

2年2組の劇が無事に終わり、体育館はわずかに余韻を残しながらも片付けへと向かっていた。

大道具係の生徒たちは舞台上から大ぶりの装飾を運び出し、他の生徒たちは親に挨拶したり友人と写真を撮ったりと、それぞれの時間を過ごしている。


そんな中、集合写真を撮ろうという声が上がり、2年2組の生徒たちは自然と集まった。

最前列の真ん中にはあまねが座り、その両隣にさくらたちキャストが並ぶ。晴大は野木たちと共に最後列に立ち、レンズの向こうへ視線を向けた。


そのときだった。


――見知った顔が、視界の端で止まった。


晴大の父親。

スマホを構えるでもなく、拍手をするでもなく、ただ無言のまま立ち尽くしている。


晴大の肩がピクリと硬直した。

すぐに野木の背後へ避けようとするが、人の位置関係的に動くと余計に目立つ。結局その場で固まり、どうしたらいいか分からずに目を泳がせた。


そして、視線がぶつかる。


父親は微動だにせず、晴大だけを見ていた。

何を考えているのか、全く分からない表情だった。


写真撮影は何事もなく終わった。しかし、胸のざわめきだけは晴大の中に残った。


解散の声がかかり、校内は再び慌ただしく動き出す。

さくらは衣装から制服へ着替えるため、更衣室へ向かおうとしていた。だが、晴大がひとりだけ先ほどの位置から動けずにいるのを見つけた。


その視線の先には、ゆっくりと近づいてくる男性。


――晴大の父。


さくらは更衣室へ向かうキャスト達に「ごめん、先に行ってて」と声をかけ、その場に留まった。少し離れた位置から、二人を見守る。


やがて父親が晴大の目の前で立ち止まった。


「父さん。どうだった、劇」


晴大が言うと、父親はわずかに視線を動かした。


「……まぁ、良かったんじゃないか」


「……そっか」


短い言葉の往復。しかし、晴大の肩の強張りは消えない。


「……あの背景の絵。お前が描いたのか」


「うん。そうだよ。みんなと一緒に描いたんだ」


「……そうか」


また沈黙が落ちた。

体育館のざわめきが逆に痛いほど遠くに聞こえる。


その沈黙を破ったのは晴大だった。


「俺、やっぱり絵を描くの、好きだ」


父親の目がわずかに見開かれた。

晴大は逃げずに、その瞳を真正面から見つめ返す。


父親はしばらく言葉を出せなかった。


「……馬鹿だと思う?」


晴大の問いに、父親が眉を顰める。意味が掴めない、そんな顔だ。


晴大は続けた。


「俺さ、勉強が嫌いだから言ってるわけじゃない。逃げ道にしたくて絵を描いてるわけでもないんだ。描きたいから、描いてるんだよ」


「……お前、本当はずっと、描いてたのか」


「うん。描いてたよ。父さんに隠れて、ずっと」


その表情には、怯えも後悔もない。ただ、真っ直ぐな決意だけが宿っていた。


父親がやっとの思いで声を絞り出す。


「お前、そんな……勉強は……」


「やってるよ。ずっとやってきた。父さんに褒めてもらいたくて、ずっと、ずっと」


晴大の声がはじめて、少しだけ震えた。


「でもさ、どれだけやっても父さんの求めるものには届かないんだ。全部“当然”みたいな顔して、『今後も励め』って、それだけで……!」


父親は言葉に詰まりながら、それでも絞り出す。


「勉強は目的じゃなく、道具だ。模試がどうだろうと、東大に受からなきゃ意味が――」


「……そうですか」


晴大は小さく鼻で笑った。


そして胸を張り、はっきりと言った。


「じゃあ父さん、あなたは間違ってます」


父親が目を見開く。


晴大は一歩前へ踏み出すように言い切った。


「俺の目的は、東大なんかじゃありません。

俺は――藝大に行って、絵を描きます!」


体育館のざわめきの中、その言葉だけが凛として響いた。


突然、投稿してしまい申し訳ありません……。

諸事情で今後の投稿は未定と書いていましたが、手元にはまだ少し残っている状況!! (37話まであります)

どうせなら全部投稿して未練を無くしてやろうという身勝手な思いから、突然ですが投稿することになりました。

因みに、「さくらキャンバス!」は最後まで完結させます。やる事全部終わらせたら戻ってきます。

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