デートに行こう!
今日は朝からデートに出かけよう、とジークに提案する。
港町に行くのもいいし、遠乗りに出かけるのもいい。
ジークは何をしたいと言うのかわくわくしながら待っていたら、予想外の返答をしてくれた。
「狩猟に行きたい。アルノーが生まれてからというもの、ぜんぜん行けなかったからな」
「狩猟……?」
ジークとキャッキャうふふと楽しむことを考えていたのだが、まさかの狩猟だった。
「いいよ、狩猟、行こう!」
そんな言葉を返すと、ジークは少し目を見張った。
「どうかしたの?」
「いや、デートしたいと言っていたから、反対すると思っていた」
「ジークがしたいこと優先だからねえ。やりたいんでしょう?」
そんな言葉を返すと、ジークは頬を染めて頷く。
この表情を見ることができただけでも、大きな収穫だろう。
というわけで、久しぶりのデートは森に狩りへ行くこととなった。
「アルノーはお祖母ちゃんと一緒に、いい子にしていてねえ」
世界一かわいい息子の頬を撫でつつ、母に子守をお願いする。
母がいるおかげでジークとデートに行けるので、盛大に感謝したのだった。
お弁当を作り、猟銃を背負って張り切って出かける。
犬ゾリに乗って森を目指し、猟犬と共に森へ足を踏み入れる。
隣を歩くジークの表情は、活き活きしていた。
「ジーク、楽しい?」
「ああ」
ずっと狩りに出たいと考えていたらしい。
そうとは知らず、ジークに負担をかけてはいけないと思って一人で出かけていた。
「ごめんね、もっと話を聞いていたらよかった」
「そんなことはない。これまではアルノーの卒乳もできていなかったし、体も万全とは言えなかった」
なんでも出産後、肉付きがよくなってしまったようで、以前のように動けなくなっていたらしい。
「アルノーが乳離れできてからは、体力作りを行っていたのだ」
「そうだったんだ」
日課である散歩を早歩きにし、ここ数日は走って回っていたという。
「おかげで、体もずいぶん絞ることができた」
それとなくジークの体がすっきりしてきたと感じていたものの、あれこれ言うのもなんだと思って指摘せずにいたのだ。
まさか狩猟に備えて体作りをしていたなんて。
「今日、リツがデートに誘ってくれて、本当に嬉しかった」
「俺も、ジークが嬉しそうで、幸せだよ」
なんて会話をしていたら、野ウサギを発見した。
ジークは即座に散弾銃を構えて発射。
銃声が森の中に響き渡り、見事、野ウサギに命中する。
「ジーク、さすがだ! 腕前は落ちていないよ」
「よかった」
猟銃が野ウサギを回収してくれる。
「そういえば、初めて一緒に狩りに出かけたときも、こうやってウサギを仕留めたよね」
「そうだったな」
ジークとの思い出が昨日のことのように蘇ってくる。
始めはぎこちなくて、探り探りの生活だった。
それから一緒に暮らすうちに打ち解けるようになり、ジークも心を許してくれるようになる。
そしてアルノーが生まれ、両親が戻り、賑やかな暮らしが始まった。
毎日幸せに暮らしていけるのは、ジークのおかげである。
「ジーク、ありがとう」
「どうした? 急にそんなことを言って」
「幸せだな~って改めて思ったから」
「だったら、私もリツに言わなければならないな」
ジークは淡く微笑みながら、感謝の気持ちを伝えてくれる。
「ありがとう、おかげさまで、いつも満たされた暮らしを送っている」
「こちらのほうこそだよ~~!」
そう言ってジークを抱きしめる。
雪深い中、猟銃を背負って抱き合う夫婦なんて、俺達くらいかもしれない。
ロマンチックの欠片もなかったが、それでもいいのだ。
幸せだから。
そんな感じで、ジークとのデートをしっかり堪能したのだった。