手紙
弟が、頼んでいた資料を探し出してくれたのは、ちょうどその日の午後だった。
僕は、、、早いうちにそれに気が付いていたのに、見落としていた。それに今日気が付くなんて、、、
「虫干ししていてしまい忘れたのか、南州の妃の、ああ、、、、王太后陛下の、資料だけ違うところにあって、遅くなりました。入宮してからの分だから、結構な量だよ?」
感謝して受け取ると、早速読み始める。かなりの量だ。
「宰相様が、お茶を出してくださったよ。置いておくね。」
「・・・いつかお前が言っていた、、、美容によく効く、くそまずいお茶じゃないだろうな?」
「ああ、、、違うよ。あれは匂いもすごいし。女の人は大変だね、、、そんなにしてまで、美しくありたいんだもんね。まあ、、、後宮中の女人が飲んでるから、お金もそれなりにかかっているんだけどね、、、、」
弟はそう言うと、職場に戻って行った。
弟が置いてってくれたお茶は、高地のお茶かな、香りが良い。それを飲みながら、、、、
まずは、、、現帝が生まれて間もなく、処分された官女の記録を探す。背中を切りつけて川に捨てたということは、処刑だったはず。
・・・先帝の初めての御渡りがある前に、宦官が1名処刑。不適切?
・・・現帝が月足らずで生まれて、、、これかな?不敬を働いた、官女1名処分。
メモ書き程度の記載しかないので、詳しいことまではわからない。多分、、、これ。
あまり、女官は好まず、宦官に身の回りの世話をさせていたと聞いたから、女官は子供用だったのだろう。小さい子を育てた経験のある女官が召し上げられたのだろう。
つらつらと、月ごとに何があったか、簡単に記載がある。
この年、雨多く、南州から届いた黄酒に腐がみられた。縁起が悪いと、騒いだらしい。そのあと、流行病蔓延。宮城からの出入りは厳しく制限される。
5年後に、、、、再び、、、黄酒に腐。この年も、流行病。
このあと何年か、南州からの黄酒は止められている。
宦官の、、、不適切?って?不敬でもなく?
適に、、、値しなかった?え?生殖能力が、、、、、ん?
「思ったより早かったね。ここまで来るのが。」
後ろ手に、書庫のカギをかけて、宰相が笑う。
「さすがだ、、、あいつの息子だものなあ、、、、、、、」
「・・・・・この記載は?まさか?え?でも、、、、この現帝の《《子供たちには印》》があるんです、、、、どういうことですか?」
「ほお、、、」
「南州からの黄酒に、毒?、、、、いや、、、、、虫、ですね?その年、たまたま、雨が多く、、、、、湿度が高かった?これは、、、、風土病みたいなものですね?だから、、、、南州から来ている人たちは、自分の香で防げたんですね。抵抗力の少ない子供や病人が死んだ、、、、たまたま、、、、ですか?」
「多分な。確信はなかった。」
「でも、、、これではまるで、、、」
「まるで?」
「現帝は、、、、不義の子?」
「多分な。調べようがなかった。ただ、それよりも、、、何度も繰り返し子供を亡くした先帝は、耐えられなかった。ひとり、生き残った姫はうちの領でお預かりした。そして、、、」
「・・・・・時機を、、、、待ったんですね?」
「そう。《《印を持った子》》は成長した。《《立場的には》》安全な立ち位置で。もうすぐ、18歳になられる。これで、もう少しで、ひと段落だ。君に、、、、、ここにいてもらうわけにはいかないんだ。わかるかい?」
「・・・・・」
ああ、、、、、、立っていられない、、、、、
「かといって、客人を殺めてしまっては、ブリアの皇太子が黙っていないだろうしね。」
狭まっていく視界の端に、、、ため息をつく宰相の姿が見えた。
*****
目が覚めた時には、馬車の中だった。荷馬車の荷台に、手足を縛られて転がされていた。
・・・どこに向かっているんだろう、、、、
何日かしてたどり着いたのは、去年来ていた城壁の工事現場だった。なるほどね。
僕は、去年の同僚たちと再会を喜び合って、仕事を始める。
一つ、去年と違うことは、いつ帰れるか分からないことだ。
月に一度くらい、スイランからブリア語で書かれた手紙が届く。
開封の跡があるので、宰相が中身は確認済みなんだろう。
『お元気ですか?
先生が急に城壁の修理に行ってしまったので驚きました。
お勉強とダンスのレッスンは、エド様が続けてくださっています。
簡単なワルツは踊れるようになりましたのよ?
控室では狭いので、と、ホールでダンスの練習をしていたら、うちの侍女たちが大騒ぎしていました。エド様は人気者ですね。
庭の花々が咲き乱れています。
何時お帰りになりますか?
もうすぐ、お兄様の帝位継承式ですの。
準備でみんな忙しそうです。
それでは、お体御大事に。
スイラン。』
お昼休みに、木陰でそっと開く。
字も上手に書けるようになったなあ、、と、感心する。
『お元気ですか?
先日、お兄様の帝位継承式が盛大に行われました。
正装のお兄様はとても立派でした。シーハン義姉様も、綺麗でした。
母上はとてもうれしそうでした。
お天気も良く、とてもいい式でした。
エド様からもお祝いを頂きました。
ひと段落したら、今度はフール語も教えていただけるそうです。
ダンスは中級です。先生が帰ってくる頃には、上級になっているかも、って、エド様が誉めてくださいました。今度、商隊が来るときに、ドレスを頼んでくださるようです。今は、シーハン義姉様のドレスをお借りして練習しています。
何時頃お帰りですか?
お体御大事に。
スイラン。』
手紙が手元に着くまで、1,2週間かかっているようなので、、、もう、宮中の市が始まる頃かな?城壁の修理に出掛けたと聞かされて、隊長が呆れている顔が目に浮かぶ。ふふっ、、、、いつ帰れるかは、さっぱりわからない。毎日レンガを運んで、積んでいる。だいぶ暑くなってきたな、、、、手紙を読みながら、、、踊るスイランを想像してみた。
『お元気ですか?
お兄様の庭の池の睡蓮が咲きだしました。きれいです。
フール語は、本当に全く違った言語で、なんだか表記も違うし、、、どうかな?と思う反面、楽しみでもあります。頑張りますね。
先生にもそのうち、フール語でお手紙が書ける日が来るかもしれませんね。
楽しみに待っていてください。
ダンス用の靴は、ヒールが少し高くなりました。
そうそう、私、14歳になったんですよ?
まだまだお帰りにはならないのかしら?
お体御大事に。
スイラン。』
14歳か、、、あと一年だな、、、
寝ころんで、手紙を読んでいたら、同僚に冷やかされた。
いや、、、生徒からだから。と、言うのも面倒なので、笑ってごまかした。
『そういえば、、、おまえ、イリア出身だったよな?』
出稼ぎのような奴が色々いる。
『イリアで、《《睡蓮》》の花言葉はなんだ?』
『睡蓮?ああ、池とかの?あんまりいい意味じゃないよ。花は綺麗なのにな。
綺麗なものに引きずり込まれて、滅亡する、みたいな意味カナ?
子供のころに、だから池には近づくな、危ないからって、よく言われたもんだ。』




