【全年齢版】弟のようなもの
人 物
吉田愛美(20)大学生
飯島義彦(23)フリーター
中沢裕也(18)大学生
鈴木健二(31)会社員
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○カフェドリーム・外観
オフィス街。
街路樹が紅葉し、風が吹いている。
○同・店内
人で賑わっている。吉田愛美(20)は忙しそうにオーダーをとる。飯島義彦(23)は慌ただしそうに飲み物や食事を運ぶ。
店内の時計が正午を指している。
× × ×
店内の時計が午後1時を過ぎる。
○同・厨房
客のいなくなった店内を見渡し、愛美は椅子に腰掛ける。
愛美「はあ、やっと落ち着いたね」
ため息交じりに言う愛美に、驚いたように飯島は辺りを見回し、控えめに答える。
飯島「そ、そうですね……」
愛美「もう、敬語はいいって言ったじゃない、何だったら私の方が年下だし」
飯島「でも、ここじゃ吉田さんの方が先輩だし」
飯島、気まずそうに答える。
愛美「他の人も愛ちゃんとか先輩とか呼んでるし、いっそ親しみを込めてお姉ちゃんって呼んでくれてもいいんだよ?」
愛美、からかうように義彦を見上げる。
飯島「えっ」
愛美「愛ちゃんと先輩とお姉ちゃん、義くんはどれで呼んでくれる?」
飯島「よ、義くんって」
ニコニコと愛美に見つめられ、飯島はたじろぐ。
飯島「じゃ、じゃあ愛……愛ちゃん先輩で」
照れた様子の飯島。
愛美「うん、よろしくね、義くんっ」
愛美は軽く飯島の腕に手を触れながら笑顔でうなずく。
○同・控え室
入れ替わりで入る他の店員と挨拶を交わしながら、飯島と愛美が控え室に入ってくる。
愛美「あー疲れた、今日はいつもより忙しかったね」
飯島「そうだね」
愛美は店のエプロンを脱ぎ、ロッカーからコートを取り出して羽織る。
飯島は愛美をじっと見つめる。
飯島「あのさ」
愛美「ん? なあに?」
帰り支度の手を止めて愛美は振り返る。
飯島「いや、やっぱりいいや」
飯島は急に帰り支度を始める。
愛美「そう?」
愛美は少し首を傾げる。
○同・裏口
愛美が飯島と談笑しながら裏口のドアを開けると、中沢裕也(18)が外で待っている。
愛美「あれ? 裕ちゃん待っててくれたの?」
驚いたように愛美は言う。
中沢「姉ちゃんはすぐ寄り道するから、まっすぐ帰るには見張りが必要……誰?」
愛美のもとに歩いて来た中沢は飯島を見るなり不機嫌そうな顔になる。
愛美「うちのお店の新人で、義くんだよ」
中沢「ふうん」
愛美がニコニコと飯島を紹介すれば、中沢は興味無さそうに飯島を見る。
飯島「あ、愛ちゃんって、弟がいたんだね」
飯島は苦笑いを浮かべながら愛美に話しかける。
愛美「うん、そんな感じ」
愛美が笑って答えれば、中沢が愛美の手を引いて歩き出す。
愛美「それじゃあ義くんまた明日ね」
中沢に手を引かれて歩きながら、愛美は飯島に手を振る。
飯島は手を振り返す。
飯島「うん、また明日……」
○同・控え室
愛美と飯島がロッカーの前でエプロンを外し、帰り支度をしている。
愛美「義くんもすっかり仕事に慣れてきたね~」
笑っている愛美に対して、どこか暗い表情の飯島。
飯島「愛ちゃんはさ、彼氏とかっているの?」
愛美「え? いないよ~」
飯島「そっか……」
飯島、あからさまにホッとした顔になる。
○同・裏口
愛美が飯島と雑談をしながら裏口のドアを開ける。
ドアの外にはスーツにコートを羽織った鈴木健二(31)がいる。
飯島「じゃあさ、今度一緒に……」
飯島はドアから出ながら言いかけて、鈴木と目が合い口をつぐむ。
愛美「あ、健ちゃん、どうしたの?」
飯島はものすごい勢いで愛美の方を振り向く。
鈴木「最近は暗くなるのも早いし、姉さん一人で帰るのは危険だと思ってね。幸い僕の職場も近い」
愛美「え~、それで待っててくれたの?」
飯島、談笑する二人を何度も見比べる。
飯島「えっと、愛ちゃんって妹さんとかいるの? それでこの人はその旦那さんとか」
困惑したように飯島は愛美に尋ねる。
愛美「ううん、私一人っ子だよ?」
愛美、笑顔で首を横にふる。
愛美「でも、健ちゃんは私の弟みたいな感じなんだ」
鈴木の腕に抱きつきながら、愛美は言う。
飯島「え、一人っ子って、じゃあ昨日の弟さんも」
愛美「うん、私一人っ子だけど弟が五人居るから」
愛美は笑顔でうなずく。
飯島「んんんん?」
飯島が不可解そうに首をひねる。
愛美「あ、よかったら義くんもこの後私の家に遊びに来る?」
ニコニコと愛美は手招きをする。
飯島の顔がひきつる。
飯島「えっと、ごめん、今日はちょっとこの後予定があるから……」
愛美「そっかあ、残念」
愛美はあっさり引き下がると、鈴木と腕を組んで帰って行く。
○メゾンすみれ・飯島家
飯島はワンルームの部屋に置かれたベッドに横たわり、天井を見つめている。
飯島「親族じゃない弟って、一体なんなんだ……」
○イメージ
愛美がホワイトボードにネズミ講でよく見る図を描いている。
愛美「私が弟を五人作ったらその五人がまたそれぞれ妹を作って、商品の素晴らしさを伝えていけば皆稼げて皆幸せ!」
愛美が鍋をもって笑顔で力説する。
○元の場所
飯島、大きく首を横にふる。
飯島「いやいや、もしそうなら五人も熱心な弟がいれば愛ちゃんは働かなくていいし」
○イメージ
愛美と中沢、鈴木が全員お揃いの服を着ている。
愛美「私達は皆教祖様の子供で信者は皆兄弟! 兄弟の順番は入信したの順番で決まるの」
愛美が中沢、鈴木と手を繋ぎながら笑顔で言う。
○元の場所
飯島、ベッドから跳ね起きる。
飯島「いや! でもその割には弟達には下心がありそうだし! でもそれも嫌だ!」
飯島、頭を抱えてベッドに転がる。
○カフェドリーム・控え室
入れ代わりの人間と軽く挨拶を交わし愛美と飯島が控え室に入ってくる。
帰り支度を始めた愛美に、飯島が緊張した様子で声をかける。
飯島「この前愛ちゃんの迎えに来てた弟さん達、どういう関係なの? 彼氏じゃなくて?」
愛美「彼氏じゃないよ~よく一緒に遊びに行ったりお互いの家に泊まったりするけど」
飯島、動揺して声が震える。
飯島「それは、彼氏じゃないの?」
愛美「違うよ、彼氏は一人じゃないといけないけど、弟は何人いても怒られないもん」
愛美は妖艶な笑みを浮かべる。
飯島「えっ」
愛美「義くんも、私の弟になってみる?」
愛美は飯島の後ろに回り込み、両肩に手を置いて耳元で囁く。
飯島、ゴクリと生唾を飲み込む。




