一話
「非人道〜」をほっぽりだしてある日会社にて閃いたアイデアを基にこんなん書いてしまいました。
非常に暗い内容です。
今の作者における精神状態を反映してるかも、、、
僕はくたびれた体を労るようにしてバイトから自宅への帰路に着いていた
片手には銀色に光る果物ナイフを握り締めてだ
どうしてこんなモノを持っているか等と質問されたなら僕は
“人を刺すつもりだった”
というとんでもない理由が動機であり正解であると答えるしかない
昨日バイト先で僕より年下の高卒連中が昼休み中に休憩室前で
「あいつってさ、アキバに居そうなタイプじゃね」
「あ!それ言えるかも」
「デブだし、臭いし、根暗だからねー」
彼らに気を利かせてお茶を差し入れしようとし、陰口を密かに聞いてしまった僕に生じたのは金髪一名と雌豚二名に対する即発的な殺意だった
僕はその日のバイトを中退し、明日ヤツらに思い知らせるがために帰り道に通るスーパーで果物ナイフを購入した
そして明日に備え早く眠りについた
だがその計画は実行出来なかった
いざあいつらを刺してやろうと話し掛けてから注意を逸らしその隙に刺してやろうと思っていたのだけど
金髪の山城に呼びかけた時、奴の鬱陶しそうな目で睨まれた際に僕に満ちていた怒り気力が恐怖で萎えてしまったのだ
“仕返しが怖かった”
“もし失敗したら”
そういったネガティブかつ後ろ向きな感情が蘇ってしまったからだ
今、帰路に着いている僕の中では、何もしなくて良かったと安堵する自分とそれを弱腰と蔑み、己の負け犬根性に絶望する自分のせめぎ合いで疲労していた
今は一時の感情に任せた馬鹿な行動は起こさなくて正解だったと思う
しかし行き場の無いドス黒い怒りと自分自身への苛立ちは未だ健在であり
明日からもこれを抱えて過ごすのかと思うと締め付けられたかのように胸が苦しくなってくる
そんな時に帰りの道にある山に隣接した神社近くの雑木林で“アレ”を見つけたのはある意味運命だったかもしれない
それは蜘蛛だった
しかも普通の蜘蛛ではない
大きさにして30?程のタランチュラよりでかい大蜘蛛だった
姿は室内でよく見る胴体が小さく脚が長いイエグモと違って対称的に脚が細くて腹部が異様に大きいオニグモをそのまんま拡大した感じだった
それに神社に住んでいる蜘蛛らしく品格を有しているのか、目の前の僕なんか気にせずに木の幹をのっしのっしとゆっくり時間を掛けて一本一本が僕の小指ほどの太さを誇る八本脚を蠢かせて登っていた
そんな時に僕があの行動を起こしたのは必然だったかもしれない
僕は非常に苛立っていた
自分の職場と将来に不安を感じていた
そして手には果物ナイフが握られていた
気が付いたら目の前には僕の果物ナイフで滅多刺しにされ、地面で弱々しく脚を痙攣させる大蜘蛛の姿があった
「・・・はは」
僕はそれを観察しながら蜘蛛の腹部にゆっくりとナイフを沈み込ませた
果物ナイフの短い刃が完全に蜘蛛の体に埋没すると蜘蛛は一回だけビクッと痙攣しその際に腹から飛び出した体液を僕の右手に浴びせた後、二度と動かなくなった
「あ・・・ははははははッ!」
快感だった
他人とまともにコミュニケーションが取れない苛立ちを他のモノに痛みを与える蹂躙していくことで解消していく行為が
こんな素晴らしいものだとは思わなかったからだ
「なんだ、、みんな動物虐待がいけないとか虐めは悪だとか訴えておきながらそういった犯罪が全然減らないのは、他者を虐げ、自分より下に貶める愉しみをみんなが知っているから止められないだけじゃないのか」
喉から自分の声とは思えない程大きい笑い声が響く
無論、人前でこんなに笑った事はない
「僕の陰口を言った連中もそうだ。自分じゃあ就職も何も出来ない、何処ぞの会社で頭を下げることはプライドが許さない。そこで生じるストレスは何処へ行く? いや、何処にも行かない、自然に発散なんてされない。だから他者を見下し蔑む事で自らを優位に立たせ、ストレスから生まれる不安を騙しているだけなんだ!」
愚痴る相手がいない為に、溜め込んできた憎しみが喉から吐き出される
「この社会はみんなそうだ。綺麗事をほざき偽りの仮面で自分を騙し、その実は同類であるはずの他者すら醜いと嘲っている」
そして自分のしたことを歪んだ大義名分で正当化する
「だから僕は間違っていない。この蜘蛛を潰したのは巡り巡って循環してきた社会の悪だッ!僕は間違っていない・・・」
自分で言って虚しくなった
生まれて初めて自分が支配して虐げた相手が只でかいだけの蜘蛛だとは
頭が冷えるに従って、高揚した心も冷却される
冷却されて思考が冷静になる過程で戻った正常な判断力が、状況が蜘蛛一匹だけ殺しただけでは何も変わらないと悟る
「帰るか」
大蜘蛛の死骸を神社前に放置したまま、きびすを返し自宅のマンションへ向かう
「・・・?」
先程から右手がむず痒いが夏場なので汗のせいだと決め付ける
しかし掻いてみても発疹や蚊に刺された跡はわからなかった
そして、痒みは自宅に帰ってもまるで収まる気配は無かった




