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拭えない「黒」と、向けられた矛先

だが、それは称賛ばかりではなかった。


「……見たかよ。あのユーマってガキ、また一人で森に入ってたらしいぜ。」


村の広場にある井戸端で、三人の少年たちがユーマを睨みつけていた。

リーダー格は、村一番の力自慢である狩人の息子、カイル(14歳)だ。


「エレナの婆さんに取り入って、いい気なもんだ。不気味な黒い髪に黒い目……ありゃ絶対に、ろくな育ちじゃない。魔眼か何かで婆さんをたぶらかしてるんじゃねえか?」


ユーマは水を汲みながら、その言葉を黙って聞き流そうとした。

元の世界で散々浴びせられた言葉に比べれば、この程度、どうということはない。

(無視だ。ここで言い返しても、努力の時間は増えない。)


だが、彼らはそれを「弱気」だと勘違いした。


「おい、無視すんなよ『黒炭くろずみ』!」


カイルがユーマの肩を強く突き飛ばした。

バシャリ、と汲んだばかりの水が地面にこぼれ、ユーマの服を濡らす。


「お前が来てから、村の調子がおかしいんだ。昨日だって、親父が罠にかけた獲物が一匹もかかってなかった。お前の不吉な見た目のせいだろ?」


理不尽な言いがかり。

努力もしないで、結果が出ない理由を他人のせいにする。

それは、ユーマが最も嫌悪する「報われない世界」の住人たちの論理だった。


「……水がもったいないです。どいてください。」


ユーマが静かに言うと、カイルの顔が怒りで赤くなった。


「なんだとその目は! その薄気味悪い目で俺を見たな!」


カイルが拳を振り上げる。

その瞬間、ユーマの視界に淡い青い文字が走った。


【警告:対象から敵意を検出】

【努力の魔眼 LV2:回避経路を演算します】


カイルの動きが、驚くほど遅く見える。

以前のユーマなら、ただ縮こまって殴られるのを待つだけだった。

だが、この一ヶ月、血の滲むような薪割りと水汲みで鍛えた筋肉が、魔眼の予測に即座に反応する。


ふっ、と体を沈めて拳をかわす。


「……ッ!? ちょこまかと!」


二発目、三発目。カイルの荒っぽい攻撃は、一度もユーマに触れることはなかった。

周りで見物していた大人たちからも、ざわめきが漏れる。

「おい、カイルが手も足も出ないぞ……」

「あのガキ、いつの間にあんな動きを?」


その視線には、感心よりも「恐怖」に近い感情が混ざっていた。

「やっぱり化け物だ」「まともな人間の動きじゃない」


「……もう、やめてください。」


ユーマが短く告げてその場を去ろうとした時、カイルが地面に落ちていた石を拾い、ユーマの後頭部めがけて投げつけた。


「死ねよ、黒髪の化け物が!!」


ユーマは振り返ることもなく、首を少し傾けるだけでその石を避けた。

石は地面を転がり、虚しく音を立てる。


ユーマは立ち止まり、背中越しに冷徹な声を投げかけた。


「……あなたが獲物を取れないのは、僕の髪色のせいじゃない。昨夜、酒場で遅くまで飲んで、罠の見回りをサボっていたせいだ。僕は朝の走り込みの時に、それを見ていましたよ。」


「なっ……!?」


「努力もしないで、自分より弱いと思った相手を叩いて安心する。……そんな生き方、もう飽き飽きなんです。」


ユーマの黒い瞳には、カイルを圧倒するほどの「冷ややかな決意」が宿っていた。

カイルは気圧され、それ以上追ってくることはできなかった。


家に戻ると、エレナが心配そうにユーマを迎えた。

「悠真君、服が濡れてるじゃないか。何かあったのかい?」


「……いえ、何でもありません。少し、自分の甘さを再確認しただけです。」


ユーマは濡れた服を脱ぎ、再び鏡の前で自分のステータスを確認した。


名前:ユーマ

知力:25

固有スキル:努力の魔眼 LV2

(次の成長まで:中)


(世界が変わっても、人の本質は変わらない。……なら、やるべきことも変わらない。)


ユーマは、震える自分の拳を強く握りしめた。

いじめや偏見を黙らせるには、圧倒的な「差」を見せつけるしかない。

今のままでは足りない。

もっと、もっと。


この日、ルミナ村の静かな夜の中で、ユーマの努力の強度はさらに一段、跳ね上がった。

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