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価値の証明、鉄錆の咆哮

巨大な鉄扉を抜けた先は、円形の広場になっていた。そこは競売場へと続く「待合所」だが、華やかなシャンデリアの下にいたのは、優雅な客ではなく、ベリウスの直属と思われる武装集団――「黒鼠の番犬ハウンド」たちだった。


「……ベリウス様の名を騙る鼠が紛れ込んだと聞いたが。それが、その薄汚れたガキ共か」


広場の中央、一段高い椅子に深く腰掛けた片眼の女が、退屈そうに爪を研ぎながら言い放った。彼女が指を鳴らすと、周囲の影から十数人の屈強な男たちが、重い金属音を響かせて進み出てくる。


「……ハッタリじゃない。本当に、ベリウスに会いに来たんだ」

ユーマが声を絞り出すが、女は冷たく笑うだけだ。


「ここじゃあ、言葉に価値はない。……あんたらの『命の値段』を見せな。死ななかったら、ベリウス様に会わせてやるよ」


「カイル、来るぞ! 最初から殺す気だ!」

ユーマが叫ぶのと同時に、三人の男が同時に襲いかかった。一人は正面から大剣を振り下ろし、残る二人は左右から、逃げ道を完全に塞ぐように槍を突き出す。


ユーマの「知力28」が、限界を超えた速度で周囲の情報を処理し始めた。脳裏に青いグリッド線が展開され、敵の動きがコマ送りのように分解される。

(大剣の男、右肩の筋肉がわずかに下がっている……振り下ろす瞬間に右に流れる。右の槍は牽制、本命は左の刺突。……カイル、左斜め前だ! 止まるな!)


「おおおぉぉッ!!」

カイルが吠えた。ユーマの「共鳴」を通じて、視界に赤い「攻撃軌道」が焼き付けられる。カイルは、村での特訓で培った感覚を信じ、最短距離で左側の槍の穂先を戦斧の柄で弾き飛ばすと、そのまま男の懐に飛び込んだ。


「ガハッ……!?」

カイルの肩が男の胸板を砕く。ユーマはその隙を逃さず、指先から極細の「魔力の糸」を五本放出した。


「……『魔力の糸』、アンカー固定!」


ユーマが放った糸は、広場の天井を支える石柱に絡みつき、見えない罠となって戦場に張り巡らされる。知力によって計算し尽くされた「支点」と「作用点」。

次に向かってきた男が、不可視の糸に足を引っ掛け、体勢を崩す。その瞬間、ユーマは全集中力を右手に込め、地面に向けて「衝撃インパクト」を解放した。


「――っ、散れ!!」


ドォォォォン! という重低音とともに石畳が爆ぜ、砕けた石礫が散弾となって敵の顔面を襲う。

ユーマは自ら剣を振るうことはない。知力を使って敵の重心を狂わせ、「敵が勝手に自滅する状況」を次々と構築していく。しかし、十数人の集団を相手にする演算負荷は、ユーマの脳を焼くような熱さで攻め立てていた。


(……残りMP、あと半分。一対多の戦闘は想定以上に削られる。一気に、絶望的な『差』を見せつけなきゃいけない……!)


「カイル! 奴らの武器を、根元から全部薙ぎ払うぞ! 僕のMPを全部預ける、一撃で決めろ!」


カイルが戦斧「黒鉄」を頭上に掲げ、全身の筋肉を鋼のように硬直させた。

ユーマは魔力を操作し、自身の全残存MPを「共鳴」の回路を通じてカイルの斧へ強制的に流し込む。

「精密演算」が、戦斧の重心、スイングの角速度、そして空気抵抗をミリ単位で最適化し、カイルの腕力を理論上の限界点までブーストさせた。


「――っ、らぁぁぁぁッ!!」


カイルが放った横薙ぎの一閃は、もはや武器の動きではなかった。空気を爆ぜさせる衝撃波を伴う、鉄の嵐だ。

迎撃しようと剣や槍を掲げた男たちの武器が、まるで乾いた小枝のように粉々に砕け散り、広場には金属片の雨が降る。


「なんだ……この、重さは……ッ!!」

男たちがなすすべもなく吹き飛ばされ、石壁に叩きつけられる。

静寂が戻った広場の中央で、カイルは戦斧を地面に突き立て、荒い呼吸を繰り返していた。その掌からは、極限の負荷で皮が裂け、血が滴っている。


「……ほう。ただのガキじゃあないね。ルミナの田舎もんにしては、上等すぎる」

爪を研いでいた女が、初めて立ち上がった。その瞳には、侮蔑ではなく「一級の商品」を吟味するような鋭い、そしてねっとりとした興味が宿っていた。


「……魔力操作の精度、そしてその馬鹿力。あんたらの『命の値段』、金貨数枚分くらいにはなりそうだ」


女は奥の重いカーテンを指差した。

「行きな。ベリウス様がお待ちだ。……ただし、あのお方はこの私よりも何倍も強欲で、何倍も残酷だよ。……次は生き残れる保証はないね」


「……ユーマ、大丈夫か? 顔が真っ白だぜ」

「……カイルこそ、手が……。……先に行こう。ここで倒れるわけにはいかない」


ユーマは震える膝を叩き、MPの枯渇による吐き気に耐えながら、カーテンの向こう側へと足を踏み出す。

そこには、自分たちの運命を左右する「都の影の支配者」――ベリウスが、冷たい微笑みを湛えて座っていた。

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