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エピローグ:見えない掃除屋(クリーナー)

宿の二階、カイルの寝息が聞こえる静かな部屋で、ユーマは一人、月明かりを頼りに「銀の栞」の解析を続けていた。

知力28の脳内では、今日の対人戦で味わった泥臭い攻防が幾度もリプレイされ、最適な「反撃の数式」へと書き換えられていく。


(……次は負けない。彼らの動きはパターン化できる。明日の朝、彼らを見つけたら、もう一度――)


だが、ユーマは知らなかった。

その「次」は、もう永遠に訪れないことを。


同じ時刻。宿場町「リガ」の裏路地。

酒場で気勢を上げていた三人組の若者は、酔い覚ましの風に当たりながら、明日ユーマたちから奪い取る獲物の分配について下卑た相談をしていた。


「……あのガキの短剣、ありゃあ相当な金になるぜ。まずはリーダー格のあいつの足を潰して……」


火傷男がそこまで言いかけた時、路地の突き当たりから「カチリ」と、硬質な金属が噛み合う音が響いた。


「――誰だ!?」


火傷男がナイフを抜こうとした。だが、その腕が肩から先、糸で吊られたように固定される。

闇の中から現れたのは、少女のような華やかさとは無縁の、全身を灰色の夜に溶け込ませた三人の影だった。


「……騒ぐな。仕事の邪魔だ。」


低く、感情の欠落した声。

若者グループの三人は、自分たちが今、どんな「天敵」と対峙しているのかさえ理解できなかった。彼らが相手にしていたのは村上がりの少年たちだったが、目の前にいるのは「音もなく国を揺らす」側の人間たちだった。


影の一人が、音もなく若者の背後に回る。

「お前たちが狙った獲物は、我々の監視対象だ。……身の程を、わきまえすぎたな。」


「がはっ……、あ……」


悲鳴を上げる暇さえ与えられなかった。

細い針が首筋を貫き、三人組の身体は糸の切れた人形のように崩れ落ちる。彼らは死ぬことさえ気づかず、深い眠りの中へと引きずり込まれた。


影たちは手際よく「死体」を回収し、地面に飛び散ったわずかな血痕を特殊な薬剤で消し去っていく。数分後、そこにはゴミ一つ、足跡一つ残っていなかった。

若者たちは、この世界のどこにも「存在しなかった」ことにされたのだ。


翌朝。

ユーマとカイルが宿を出ると、町は何事もなかったかのように活気づいていた。

昨日絡んできた三人組の姿を、広場でも、町の出口でも見かけることはなかった。


「……なんだよ、あの火傷野郎たち、ビビって逃げ出したのか? 案外、口だけだったな」

カイルが拍子抜けしたように戦斧を担ぎ直す。


「……。……そうかもしれないね。」

ユーマは、昨日彼らと対峙した路地の入り口を、無言で見つめていた。

知力28が導き出す違和感。昨日の喧嘩の後、彼らがこの町をすぐに出る理由は論理的にあり得ない。何より、地面に残された「不自然なほどの清潔さ」が、ユーマの背筋に冷たいものを走らせた。


(……気配が消えている。逃げたわけじゃない、何者かに『消された』んだ。)


ユーマは、腰袋の中の「銀の栞」に触れる。

自分たちが持っているものは、想像以上に危険な火種なのかもしれない。

守られているのか、それとも飼い殺されているのか。その答えはまだ出ない。


「……行こう、カイル。もっと速く、強くならないと……僕たちは生き残れない。」


少年の瞳は、見えない脅威を警戒しながら、さらに深く、暗い世界の深淵を見据え始めた。

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