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神様との出会い

「妖っていうのは、みんな簡単に消えることができるのか?」


「力のある奴は、かな。百燐は白虎の妖で、長い時間を生きてるからなぁ。わかりやすくいうと、大妖怪ってやつ」


 百燐の消えた方を見つめながら呟くと、その問いの答えを銀が教えてくれる。妖についての知識を有しているあたり、彼もまた妖なのだと実感させられた。



 妖の銀と人間の篤志。



 どうして銀は妖でありながら篤志のそばに人としていたのだろうか。


 ふと、そんな疑問が頭をよぎった。


 銀は、一体いつから篤志のそばにいたのか。



「ほら、行くぞ」



 それらの疑問を深く考える前に、今度は銀が篤志の手を引っ張る。篤志は考えるのをやめて、銀の隣に立ち歩き始める。


「《幽世》には大社と呼ばれる神様が立ち寄る場所が四つ存在してるんだ」


 大通りを進みながら銀が大社について説明をしてくれる。


「神様って言っても、あいつらは威張り散らかすような奴じゃなくて、どっちかっていうと母親みたいな感じだ」

「神様を母親に例えるって、不敬罪とかにはならないのか?」

「いいのいいの。神様は生き物が好きで、大概の無礼は、その懐の広さで許しちゃうんだとよ。んで、その延長線で、生命の営みや自然の循環が滞りなく流れるのを見守るのが趣味だって昔教えてもらったんだよ」



 人間の篤志がいるからか、道を進んでいると妖たちから奇異の目で見られる。篤志はその視線に居心地の悪さを覚えるが、その度に銀が睨みをきかせて妖たちを追い払ってくれた。


「もっと恐ろしい存在かと思ったけど、案外、優しそうだな」

「優しいねぇ。まぁ、優しいと言えば優しいけど」


 過去に神様と因縁でもあるのか、銀は顔を顰めると神妙に篤志の言葉に頷く。


 二人で話しながら歩いていると、長い石段の前にたどり着く。その先には大きな鳥居が立っており、両脇には杉の木が並んでいた。


 石段に足を踏み入れると、空気がガラリと変わったのを肌で感じる。空気は澄みすぎるほど澄み、町の喧騒も自分の呼吸の音すらその空間に吸い込まれていくようだった。優しく、包み込むような風が吹けば、遠くで鈴の音が鳴り、この場所が神聖な場所であることを静かに告げていた。


「そう硬くなるなよ。別に、取って食われるわけじゃないんだから」


 最初の一段で足を止めていた篤志に銀が手を差し伸べる。篤志はありがたく思いながらその手を握ると、銀に先導される形で石段を登りきる。



 巨大な鳥居をくぐると、あれほどうるさかった町のざわめきは完全に聞こえなくなった。



「ここが、大社……神様のいる場所…………」



 しん、とした静寂が耳を差す。大社に向かって一歩踏み出す。




「そう! ここが我ら神の住まう場所!」




「!!」


 背後から誰かが話しかけてくる。まるでクラッカーを鳴らしたような大きな声に二人は驚いてその場で飛び跳ねる。



「あはは! びっくりした? 心臓まろびでるかと思った?」



 二人が勢いよく振り返ると、また背後から耳元に息を吹きかけられる。突然の刺激に篤志は全身に鳥肌が浮かんでいくのを感じた。背筋を這った不快感に、思わず腕をさするとケラケラと無邪気な笑い声が聞こえてくる。



「あはは、新鮮な反応! 面白いね!」



 こっちは何も面白くない、と心の中で愚痴をこぼしながら、今度こそその人物の顔を拝むために振り返る。



 そこには、艶のある黒い髪を靡かせ、子供のように屈託なく笑う中性的な面持ちをした人が立っていた。瞼には朱を差し、群青の衣に身を包んでいる。華美な装飾は好まないのか、上等な着物以外は何も身につけていない。そのまま飛び出してきたようで裸足で立ち、衣服から見える肌はどこか光を帯びているようだった。




 その姿を見て、篤志は一目であの人だ、と気がつく。




 ここに落ちてきた時に、篤志に「おかえり」と言ったあの人だ、と。




 しかし、目の前の人はそのことを覚えていないのか、初めて会うように篤志の全身をくまなく観察している。


「ふむふむ、君が噂の人間君だね。それにしても、これまで《幽世》に落ちてきた人間なんて数えるほどしかいないのに、どうして君はここに迷い込んでしまったのかなぁ?」


 その人はくるくると篤志の周りを移動しながら、面白がるように笑う。



「もしかして、君は縁を辿ってここに導かれたのかな?」



 大きな瞳が、探るように見上げる。じっと見つめられたその視線から、篤志の頭の中を覗かれているような不快感を覚えるのに、なぜか目を逸らすことはできなかった。過去も未来も、全てを見透かすように細められた瞳に、篤志は息を止める。



「俺の篤志に勝手なことしないでくれる」



 背後から手が伸びてきたかと思うと、その手は不躾な視線から篤志を守るように瞳を隠してくれる。ここに落ちてきた時のように、銀が篤志を守ってくれたのだ。


 その人は、キョトンとした顔をした後、くすくすと笑い出す。


「ふふ、仲がいいことは良きことだよ。それにしても、君までここに戻ってくるなんて……明日は天変地異でも起きちゃうのかな?」


「無駄な話はいいから、さっさとここから出る方法を教えてくれない? 俺としては早く篤志と現世に戻って楽しい学生ライフを送りたいんだからさ」


「んー? あれあれ? もしかして、僕からタダで情報を貰おうとしてるの? 昔のよしみだとしてもそれはちょっといただけないかなぁ」


 その人は意地悪そうに笑うと、ツンッと篤志の心臓のあたりを突いた。



「昔のよしみ……と言っても、君は覚えてないんだろうけどね?」



 凪のように静かな声に、篤志の鼓動が跳ねる。



 一瞬全ての音が、消えた。



 触れてはならぬ、重く張り詰めた空気に視界を隠す銀の手に力は入る。



「ま、それはいいんだけどね!」



 パッと変わった空気に、篤志は無意識に詰めていた息を吐き出すと銀の腕の中から外に出る。銀は警戒心を解かず、篤志の前に立ち目の前の人物を睨んでいる。



「改めて、僕は縁花神えんかのかみ



 その神様はわざとらしく腰を折り、指先を口元に当てるとパチンと片目を閉じる。




「――縁を結び、縁を断ち切る神だよ」

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