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09 冒険者パーティ『路傍の花』のマイナ 


「うーん、やっぱり疲れてたんだな。身体も若くないし」

 

 慣れない身体はそれだけで疲れがたまりやすい。身体をゆっくりとほぐしていく。


 屋敷はすでに売り払ったので、昨晩は下町の宿屋に泊まった。高級宿だと間違いなく顔バレしそうだからね。



 下町とは言え、領主だと気付かれる可能性もあるかと心配したけれど、よく考えて見れば宿屋のおばちゃんが領主を間近で見た事など無いだろうし、まさか、供も連れずにひとりで宿屋に泊まりに来るなど想像もしていないだろう。まったく気付かれる素振りすらなかった。


 念の為、出発前に冒険者風の格好に着替え、髪型もワザと崩しておく。


 用意してもらった水桶で顔を洗い、身体を拭う。残念だけど、当然この宿屋には風呂が無い。



 思ったよりも豪華な朝食に驚きながら、昨日の事を振り返る。


(いやあ……昨日の内にカスパーのお金をリズのカードに移しておいて正解だったな……)


 いつ違う身体に変わるか分からないから念の為資金移動したんだけど、我ながら英断だった。まさかその日のうちにチェンジを使う羽目になるとは思わなかったけれど。


 領主の私財を売り払った分は、全部で白金貨100枚、約10億円にもなった。



 うん……はっきり言って、もう一生働かなくてもいいよね。


 ちなみにこの世界のお金の価値は


 聖金貨 : 1億円 


 白金貨 : 1000万円


 大金貨 : 100万円


 金 貨 : 10万円


 大銀貨 : 1万円


 銀 貨 : 1000円


 大銅貨 : 500円


 銅 貨 : 100円


 鉄 貨 : 10円



 日常生活の中で使われるのは金貨までで、貴族の取引などでは、大金貨や白金貨がつかわれることもある。聖金貨は王家などからの褒章として発行されるものであり、勲章的な側面が強い。もちろん通貨として使用できるが、聖金貨を手放すことは貴族にとって非常に不名誉なこととされるため、流通することは極めて稀らしい。



 それにしても、大分チェンジを使うのにも慣れてしまった。


 相手が明確な敵で悪人だったこともあるけれど、もはや自分の身体に愛着が無いからだろう。


 考えてみれば、クルミだって本当の俺を知らない。写真が無いこの世界では記録に残すことも出来ないんだからな。


 リズがいなければ、俺という存在は薄まり続けていつか消えてしまうのかもしれない。すでに俺の中の記憶や知識は他人から得た物の方が多くなってきているのだから。



 いや……もう考えるのは止めよう。それも含めて全部俺なんだから。


 そのうちこの身体にも愛着が持てる日がくるだろう。できればもう少し若い身体が良いのだけれど。



***




「おはよう……また身体変わったんだね、イソネ」

「え……イソネなの? ほえ〜」


 呆れたような、憐れむような複雑な表情の2人。でも――――


「良かった〜! これでまたイソネにくっつけるよ」

「うん……いっぱい甘える」


 両脇から抱きついてくる2人。


 クレメンスが清潔感のあるイケメンで良かった。女の子の甘い香りと柔らかい感触に、俺のささくれ立った心が癒されてゆく。


 

 そういえば、クレメンスの持っていたカリスマのスキルは地味にすごかったよ。


 宿屋のおばちゃんは割引してくれたし、出発する時にはお土産までくれたからね。


 ギネスたちが付き従っていたのも、カリスマスキルの恩恵があったのかもしれない。


 心なしか2人の好感度も今までより高いような気がするし。




 冒険者ギルドに向かいながら、2人に昨晩の話をする。


「えっ、じゃあイソネは領主さまになったの!?」


 驚くリズとクルミ。


「そういう事。今は戻るつもりはないけど、2人さえ良ければ、将来ここで暮らすのも悪くないかもな」


「んふふ〜、私はイソネさえ一緒なら何処でも幸せだよ?」

「クルミも〜!」


 う……駄目だな、身体が年を取ると涙もろくなって……


「あ〜、イソネが泣いてる!」

「イソネ……どこか痛いの?」


「な、何でもないから!」




 昨日、受付嬢に言われた昼前には、まだちょっと早いけど冒険者ギルドに到着する。



「ねえイソネ、お金、入金しないの?」


 リズがかつてないほどの笑顔で聞いてくる。


 うんうん、その笑顔のためなら俺は迷わずチェンジを使うよ。


「ああ、あんまり1箇所で大金を入金すると怪しまれるからな。また次の町で入金しよう」


「確かにそうだね……でもクルミのカードにも少しは入金しておいたほうがいいんじゃない?」


 確かに、はぐれたり、別行動をとることになるかもしれないしな。


「じゃあクルミ、これを入金してきてくれ」


 そう言って白金貨1枚を渡す。


「イソネ……こんな綺麗なお金見た事ない」


 キラキラ輝く白金貨を嬉しそうにかざすクルミ。


 まあ普通は目にしない通貨だからな。


 無事入金してきたクルミと一緒に、昨日の受付のお姉さんの所へ行く。


 俺は別人になっているので、リズに話をしてもらおう。



「あら、昨日のお嬢さんたちね! 依頼の件なら大丈夫よ。さっき話したら喜んで引き受けるって。向うのテーブルで待ってるわよ」


 受付のお姉さんが指さす方向には、確かにお目当ての女性冒険者パーティがいる。


「ありがとうございます。いろいろお世話になりました!」


「いいのよ。王都まで気を付けてね」


 

 受付のお姉さんと別れて冒険者パーティの待つテーブルに向かう。


 向うもこちらに気付いたようで、リーダーらしき女性が立ち上がり、握手を求めてきた。




「初めまして、C級冒険者パーティ『路傍の花』リーダーのマイナです」


「こちらこそ、依頼受けていただき感謝いたします。イソネと言います。こちらはリズとクルミ」


 リーダーのマイナさんは、すらっと背が高く、凛とした印象の美人さんだ。


 綺麗なブロンドをシンプルに後ろで束ねており、碧い瞳が印象的だ。


 品のある雰囲気が隠せていないから、どこかの貴族令嬢なのかもしれないね。


 この世界、政略結婚を嫌い家を出て冒険者になる女性は多くはないが、珍しくもない。




 美女揃いのパーティだけど、一応言い訳させてもらえば、選んだのはリズだからね?



*************************************

【 9話終了時点での主人公 】


【名 前】 キム → クレメンス

【種 族】 人族 → 人族

【年 齢】 48 → 37

【身 分】 奴隷商店主 → ノルン領主

【職 業】 領主


【スキル】 チェンジ 総合剣術 夜目 身体強化 御者 統率 強脚 狼語 見切り 奴隷契約 カリスマ


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i566029
(作/秋の桜子さま)
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