勇者業・1-4
で。なんのはなしだったか……。ああ、余の魔王となり(?)か。魔王となり……。
弱肉強食。それが魔族の在り様。ゆえに、なんらかの衝突があり、弱いほうが死ぬのは道理でしかないのだ。
もちろん、許容するわけではないというのはうそでもなんでもないので、目に余れば必要な処罰は下すが。
「あ、あの、こちらを、そのお二人で……?」
「ああ。主にはオレが、ということになるが」
なんだ。この依頼をオレが受けることになにか問題でもあるのか。
困惑した様子でオレとベイズとを交互に見やるカウンターの向こうの人間に、眉根を寄せる。ええい、言いたいことがあるならはっきりと言えばよかろうに。
若干苛立ちを募らせていると、またも隣から剣士っぽい人間がくちを挟む。
……こやつ、いつまでここにおるつもりなのだ。暇なのか?
「なあ、兄さん、悪いことは言わないからさ、あんま無理しねえほうがいいんじゃねえ? ゴブリンって確かに強い魔族じゃねえけど、群れだっていうし、さすがに兄さんの手には負えねえと思うぜ?」
「なんだと」
「い、いや、そんな凄むなよ。だって兄さん、レベルまだ2だろ? うしろの兄さんは10だからまだしも、さすがに受付の姉さんだって心配になるって」
「なに!」
聞き捨てならない台詞を聞き、オレはばっとベイズへ振り返った。
――貴様……! オレにはここまで能力を落とせと言っておいて、自分はオレよりレベルを高くするとはどういう了見だ!
思わず思念でことばを飛ばす。魔族はもとよりことばをはなせぬものも多い種族。意思疎通に会話以外を用いることはなんら不思議ではないし、当然のごとく用いられる手段だ。オレはふだんあまり使わぬのだが、さすがにこれは看過できぬ。
けれどベイズのヤツは表情ひとつ変えることなく、さも当然のようにさらりと返してくる。
――魔王様のサポートを不自然にならないようこなすために必要な、最低限のラインです。
ぐぬぬ。いけしゃあしゃあとこやつは。
まあよい! こんなもの、見せかけでしかないからな!
見せかけでしかない。そう、これは人間どもを欺くためにわざと設定した能力のステータス。本来の魔王としてのステータスであれば、当然のごとく全方位限界突破しておるからな。他者に見られても脆弱な人間と思われるよう、落とした能力に合わせてわざわざ細工したのだ。
所詮見せかけのものと軽く見て、ベイズの設定した能力を確認もしなかったオレには寝耳に水だったが、寛大に許してやろう。
それでもぎっと一度だけベイズを鋭く睨み、それからオレはカウンターの向こうの人間へと向き直る。
「問題ない。オレはその依頼を受ける」
「兄さん、無理しないほうが……」
「無理などではない。それとも、Eランクで請け負える依頼というのはうそなのか」
「い、いえ。……で、では、その、こちらの依頼を請け負うということで、手続きさせていただきます」
うむ。最初からさっさとそうしておればよいものを。ようやく手続きとやらに移ったカウンターの向こうの人間に、やれやれと内心で肩を竦める。するとどういうわけか、なぜかいまだここに居座り続けていた剣士っぽい人間から提案を受けた。
「うーん、よし! じゃあ、俺たちがその依頼、付きあってやるよ」
「は?」
「なんかこう、乗りかかった船っていうのか? 知っちまった以上、放っておくのは気が引けるしな。あ、もちろん善意だから気にしなくていいぜ。俺の仲間、ほかにあとふたりいるんだが、あいつらも了承するだろうしな」
……なにを勝手なことを言い出したのだ、こやつは。
まったく興味もなかったゆえ、今更ながらにちょっと確認してみたこやつのレベルは、13。ベイズの設定に毛が生えたくらいではないか。その程度のレベルで、なにを偉そうに勝手に決めておるのか。
不快極まりない、と、さっさと突き放そうとしたところ、なぜかいち早くベイズに制止される。
「ルウ様。ここはこのものの提案に乗ったほうがよろしいかと」
「……なんだと」
ベイズが人間嫌いというわけではないことは知っておるが、だからといって歓迎しているわけではないこととて知っておる。わざわざ足手纏いにもなるだろう人間と行動をともにすることを許容する性質でもないはずなのだがと、真意を問うよう視線を向ければ、ベイズはやはり表情ひとつ変えることなくこたえた。
「ルウ様の目的は、勇者の株を上げること。であれば、多少の同行者を連れ、その功績を見せつけることは、いい宣伝にもなりましょう」
「ふむ……なるほど、そういうことか」
確かに、風の便りになど頼っておっては、無駄に時間を浪費するにほかならぬか。人間の目撃者をつくったほうが、勇者の活躍を広めるに適しておるという言いぶんは納得ができる。
ならばこやつ……仲間がおるようなことを言っておったな。ではこやつらを連れて行ってやるのもやぶさかではないか。
「では、よかろう。同行を許す」
「ええー……。なんかすっごい偉そうだな……」
偉そうなのではない。偉いのだ。
思わずそう返しそうになって、寸でで耐える。まずいまずい。いまのオレは人間だ。人間としての地位は特段確立しておらぬ。設定上、多少身分のあるもの、ということにしておいてあるが、だからといってなにかの肩書まで決めておるわけではない。
まあ、それでも中身は高貴には違いないからな。下々のために態度を改めはせぬ。一人称と二人称だけ変えればよいとベイズも申しておった。
「まあいいや。それじゃあ、先に俺の仲間と合流しようぜ」
「うむ」
なぜわざわざオレがそのような手間を、と思わなくもないが、これも勇者の株を上げるため。ひとまず大仰に頷いて了承し、オレとベイズは剣士っぽい人間の先導でこやつの仲間とやらのもとへ向かうのだった。
ふむ、ではちょっとそのあたりを滅ぼしてくるか。




