9/106
あの子と文庫本⑨
体育館正面玄関の前まで来たときに、その後の事が気になって入り口の階段を昇りかけたが、野次馬根性が嫌になって、すぐに反転して校舎側に歩きかけた。
そのとき、後ろから勢いよく走って来た誰かとぶつかった。
ぶつかったその衝撃は今迄経験したことのない違和感があった。
それは、当たって弾き飛ばされるのではなく、当たった衝撃を当たってきた人物事態が緩和している優しい柔軟性があった。
だからその衝撃に対して左程、体はもっていかれずに転ばなかった。
「ごめん!」
そう言った声は女子のもので、その声は謝るというよりも、ぶつかってしまった障害物に対しての怒りのほうが強いように感じた。
俺の方に向けられた顔を見ると、さっき『もうっ!』と言って怒っていたバスケ部員だった。
そして俺に向けられた睨むようなその目に涙が浮かんでいた。
再び走り出そうとしたその女子の手を何故か反射的に掴んでしまった。
今度はその勢いに転倒しそうになり、片方の手で持っていた文庫本の束を地面にばら撒いてしまう。
再び振り返った彼女が「ごめん」と言った。