夏目書店③
山岡沙希は俺の手を引いたまま事務所の奥にある扉を開いた。
「靴脱いで」
言われて始めてそこに玄関がある事に気がつき、靴を脱ぐ。
玄関には二階へ続く階段と部屋に入る扉それに廊下があり、山岡沙希は部屋に入るように言い、廊下の奥に消えて行った。
入った部屋は応接室だった。
古めかしいレコードプレーヤーに大型のアンプ、それに大きなスピーカーとレコード盤。
書棚には文庫本が沢山並べられていてソファーも重厚な黒色の革張りで落ち着いた雰囲気があった。
今時分こんな立派な応接間のある家は余り見かけない。
そう思いながら部屋の様子を眺めていると、背を向けていた扉から山岡沙希が入ってきた。
「ここって君の家?」
山岡沙希は、その質問には答えないで
「今、お母さんが紅茶とお菓子持って来るから」
と言った。
その言葉でこの家が彼女の自宅である事が分かった。
「書店の方はテナント?」
家が山岡家の物だということは分かったが、夏目書店のほうは誰か人に貸しているのだろうと思って聞いた。
「うちの店だけど」
「なんで山岡書店じゃないの?」
山岡家が営んでいるのであれば、その名前がつくのが然りだと思って聞くと、山岡沙希は学校では見せた事のない悪戯っぽい笑顔で答えた。
「夏目漱石のファンだからだって」と。




