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WHITE LIE  作者: うさぎさん⭐︎
ラストエピソード  未来視(ディスペア)のライト

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15/15

3 ホワイト・ライ

   ★   ⭐︎


 とりあえずケイオスたちは、厄介なことになっている家から離れ、夜の裏街を歩く。

 月は変わらず空に浮かんでいる。

「……おまえ、違うぞ、いつもと」

 いい子のヘヴンは、そんなふうに笑わない。そんなふうに歩かない。

「でも、これがオレさ。……ケイオスだって、違ったぜ? 儀式のとき。 

 いつもはもっと無口でクールでかっこいいのになぁ?」

「俺だって、人形じゃない」

「あぁ、でも、そっちのほうがいいぜぇ?」

 ヘヴンは白い服を揺らし、その場でターンする。

 それをやめたとき、ヘヴンは青い瞳を開いて、ケイオスをまっすぐ見た。

「……オレ、知りたいよ。もっと、ケイオスのこと。

 もっと、もっと、君の本音を。君の姿を──ライじゃない、君を」

「幻滅するぞ」

「ははは。今だって、結構マヌケなとこもあるぜぇー? ケイオスは」「俺といても、なんの得もない」

 ヘヴンは悲しそうにかぶりを振った。

「やっぱり、オレといたくないんだね?」

「おまえは、これからどうする」

 狭い裏通りから、月を見上げて、ケイオスはコートのポケットに手を突っ込んで、ヘヴンを見る。

「もう、おまえには、力がない。人間と変わらない」

「あー……」

 ヘヴンはちょっと下を見る。

 乱暴に髪を掻いて、ケイオスを見上げる。

 ふと気づく。この癖は……ケイオスと一緒にいたからできたものだ。

 ケイオスも同じように髪を掻いている。

 不潔だとか女に嫌われそうな癖かもしれないが、そんなことはどうでもいい。

「掘るか」

「は?」

「地下」

「う、うーん……いいよ、オレ。もう、あんな力なくって。

 埋めとけよ、あんなん」

「…………しかし」

「あ、あー……ごめん、家ぶっ壊れちまったもんな。

 マジ、悪魔だな、オレ。不幸ばっか呼び込んじまう」

「いや、あれは俺にも責任が」

 ケイオスは煙草を取り出すと、吸いだす。

 いつもなら落ち着いていてかっこよく感じるその姿が、今日はいつもとどこか違う風に感じる……

「…………どうして、ケイオスは助けてくれたの? 殺さなかったの?」

「…………」

 ケイオスは何も言わない。だから、ヘヴンはその目を見つめる。空音と本音に揺れる黒い瞳。

 この、目が、好きなんだ……

 ライアでも、大好きなんだ。

 なのにどうしてときどき無性に、君の仮面を引き剥がして、君の心を暴きたくなるんだ──。

「オレは、ケイオスが好きだよ」

「こんな、俺がか?」

「ケイオスは、オレが嫌いなんだろう?」

 ライはいらない。

 それがどんな心から来た嘘でも。

 今だけ、君の偽りのない心の音を聞かせて。

「こんなセルフィッシュ・デヴィル、嫌いだろう?」

 ケイオスは、ポケットから出した左手を上げる。何か握っている。──クロスピアス。

「おまえは……ライトじゃない」

「そうか……」

 ヘヴンは目を伏せる。

「そうだよね……」

 ケイオスはおもむろにヘヴンに近づくと、その頭を乱暴に撫でる。

「おまえは、ヘヴンだ」

「ケイオス……?」

「ウィープもライトも関係なく、おまえがそこにいるだけで、俺はときどき小さな幸せを覚えてしまうんだ。その一方で──……」

 ケイオスはヘヴンの首に指で触れる。

「おまえを、殺したくなるんだ」

 白い首を掴む。細い首。少し力を入れたら、折れてしまいそう……

「こんな屈折してる俺のどこがいい」

「……なのに、殺さないんだね」

 ケイオスは、首から離した左手でまた自分の頭を掻く。

「繰り返しだ。おまえといると、俺たちは繰り返しだ」

「オレが……一番悪いんだ……」

「そうだな」

「お願いだ!」

 ヘヴンは土下座する。

「お願いだ! そばにいたんだ‼︎」

「やめろ」

「無様でもかっこわるくても、所詮自分のためでも……オレは、ケイオスと一緒にいたいんだ……!」

 ケイオスはヘヴンを見下ろして動かない。

「最初はどうでも……オレたちは、ずっと一緒にいたじゃねぇかっ!

 その時間が……オレをこんなケイオスといたいって──悪魔のプライド捨てて、土下座しちまうくらい──オレは、ケイオスが好きだ‼︎

  オレと暮らした日々に、空音ばかりが響いていても、その中に、なかには──本音だって、あったんだろう?

 だったら……オレは」

 ケイオスはいつのまにか捨てていた白い煙草を踏み消し、言う。

「それは、なんていう感情だ?」

「え、えぇ? あ、あえて名をつけるなら……家族愛…………なのか?」

「くだらないな」

「な、なんでだよ⁉︎  あ、わかった、兄弟愛っていってほしいんだな?」

「うるせーよ」

 ケイオスはヘヴンに背を向ける。

 そのまま足早に道をゆくケイオスを、ヘヴンは小走りに追う。

「おい、ヘヴン」

 ケイオスは振り返らず言う。

「明日、服屋行くぞ」

「はい?」

「おまえ、不自然なんだよ、白い服ばかり着やがって」

「だ、だってそれは、あなたがッ!」

「もっと、いろいろ着てみろ」

「あなただって、黒い服ばかりじゃ……」

「いいんだよ、俺は。好きで着てるんだ」

「ケイオス……?」

 ケイオスは脇道に入ると、足取りを緩めず、ゆく。

 ヘヴンの位置からは、彼の瞳が見られない。翻るロングコート。背中が大きく見える。あるいは、それは翼か。

 黒くて綺麗な、ケイオスの翼。

「とりあえず、しばらくはラピッドの所にでも転がり込むか。

 なんとかナシつけて」

「…………」

「気をつけろよ、ヘヴン。アイツはキまくってる変態野郎だからな。腕は確かなんだが……。

 ……訊かないのか? ラピッドっつーのは、俺の古い……」

「……いいんですか? オレ、いても、いいのか……おまえの、そばに……」

 ヘヴンは駆けて、ケイオスの前に行く。ケイオスの顔を見る。

「…………弟だからな」

 ケイオスの頬が……ほのかに、赤い……!

 ヘヴンは目を見張る。こんな、子供っぽい顔をしているケイオス……「……照れて、るのか……?」

「うるせーよ」

 ケイオスは、ヘヴンの頭をどついた。

 ケイオスはまた、歩きだす。ヘヴンはもっと、そんなケイオスの顔が見たくて、精一杯ケイオスに追いつこうとする。速い。ケイオスの足は速い。

 背の高さが──脚の長さが違うから、おかしくないんだけど。

 でも、こんなにむきになったように速く歩くのは…… 

 見たい。もっと、ケイオスの顔が見たい。

 明日になったら、もう、見られないかもしれない。こんな、ケイオス。

 今日は、いろいろあったから、混乱しているのか、自分も、彼も。

 それとも、あの月のせい? 夜のせい?

 あぁ、なんて人間くさいことを考えるようになってしまったんだ。そんなの、自分の本音を漏らしてしまった奴らや、喋りすぎてしまった奴らやなんかの、言い訳なのに。

 ケイオスは前を見たまま言った。

「いろいろこれからのこと、考えねーといけねぇな」

 未来。そこに自分はいるのか?

 ケイオスの弟で、オレはずっといられるのか?

 明日になったら、オレたちはもっと冷静になって。空音を紡いで。

 もしかしたら、オレたちは殺し合うかもしれない。力のないオレは、あっさり殺られちまうかもしれない。 

 案外、オレがケイオスを策略にはめて殺しちまうかもしれない。

 だけど、今はケイオスのそばにいる。

 むきになって歩くケイオスを、むきになって走って追いかけるオレがいる。

 白い街灯の光の中、確かに黒い影が歩いている。オレはそれを踏む。抱きしめてるみたいに踏む。抱きしめられてるみたいに踏む。

 真っ白な朝がやがてやってきても、ケイオスはきっと黒い服を着ている。

 オレも、こんな白い服を脱ぎ捨てて、違う色の服を着てみよう。

 そんなオレを見て──ライトの代わりじゃないオレを見て、ケイオスは、ケイオスは、なんていう?

 それがオレの望む言葉じゃなくても、

 嘘つきな優しさでも、

 厳しい現実でも、

 オレは、オレは、ケイオスのそばにいたいんだ。

 今だけの、変わってしまう気まぐれな心だとしても──。


 これは、今の、オレの、偽りのない心の音なんだ。


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