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第1話:正しい青春の定義と、悪魔の誘い(1-1)

 今日は高校の学園祭最終日…のはずなんだが、俺は一人で空き教室にこもっていた。

 お客さんも立ち入り禁止となっている四階ならばいくらかは静かだろうと思ったのだが想定していたよりも文化祭とは盛り上がるようで下フロアからの騒がしさが振動となって伝わってくる。


 今頃、たこ焼き食べたり、メイドカフェに行ったり、ナンパしたりされたり、ステージ演出の出番待ちでドギマギしていたり。総じて青春を謳歌している生徒が過半数を超えているんだろう。

 中には、影でひっそりと文化祭の脇役に徹している者もいるかもしれないがそれもまた青春だろう。


 では、問おう。


 使用されない埃の被った空き教室でパソコンを開き死ぬほど仕事をしている生徒がいたとしたらそれは正しい青春と呼べるでしょうか。


 多くの人はノーと答えるだろう。でも、俺から言わせてみれば一人で業務をこなし社会と密接な関係を築き上げているこの時間も、現代社会においては青春の新しい形と呼べるのではないだろうか。

 むしろ、推奨されるべき青春の過ごし方と言っても過言じゃない。


 友人と過ごしたり、部活動に打ち込んだり、恋愛をしたり。そういう青春が基本的な形なのだとしたら実に効率が悪く無意味なものだ。

 友達と遊んで金が増えるか?

 部活動で結果を残して金になるのか?


 まあ、野球とかスポーツ系はそのままプロ選手になることも珍しくはないだろうしアリなのかもな、と思いつつもこの東陵高校においては注目選手もいなければ強豪と呼ばれる部もないので、やはりナンセンス。

 恋愛においては、うん。語るまでもなかろう。

 こうして青春の形について考えている今も俺のタイピング速度は維持されていて次々とタスクが片付いていった。


「恐ろしすぎる。こんな速度で仕事ができてしまう俺が恐ろしい!」


「何を言ってるんだ。馬鹿か」


 背後から俺を馬鹿だと罵る声がして思わず「ヒョエ」って変な声を出してしまった。

 振り返った先にいたのは我が校の悪魔。元い、俺の担任教師である自称美人教師の後藤杏香だ。


「なんでここにいるんすか。文化祭中でしょ」


「はあ…。それはこちらのセリフだがな。隣、失礼するぞ」

 後藤先生は自身のパソコンを机に置いてから隣の席に腰を下ろした。

 目の下に隈があることからこの人もまた教師である以前に社畜なんだと社会の厳しさを感じさせられる。


「学生はいいですよね。華やかな部分しか見えなくて」

 何気なく後藤先生が共感しそうな言葉を漏らした。すると、彼女は目に涙を浮かべて俺の手を握ってきたのですぐに振り解いたがそこは気にしていない様子だ。


「分かってくれるか。ここに来るまでも散々写真を撮らされて…。私は昨日から業務に追われて寝てないというのに…。なんだ、なんなんだ、あの煌びやかな空間は」


「そうすっね〜。無駄な時間にしかならないのに」

 そんなことを呟きながらも依頼のあった記事作成を進めていると隣の悪魔に耳を引っ張られるという業務妨害を受けた。


「無駄なんかじゃないさ。本当は君にもあそこにいて欲しいんだがな」


 それは教師故のエゴだ。

 実際に社会で成功を収めている人間は高校生活で脚光を浴びてこなかったというケースが多い。つまり、後藤先生の想いに応えることで社会的成功の比率の低い方を選択することになる。

 勿論、そんな統計に捉われて絶対に成果を収められないと思い込む必要はない。結局は当人がどれだけ正しい努力と成果を積み上げられたかでしかないのだから。


「俺はそういうの無理です。あそこには価値を感じない」


「そうか…。まあ、君はそう言うだろうと思ってた。だから、少し別の角度から関わってはみないか?」

 自身のパソコンを開き、業務を始めつつそんな言葉を投げかけてきた。

 俺も、業務は継続しつつ「別の角度とは?」と尋ねる。


「部活動だよ」


「断る。俺はその類のものにも価値を感じない」


「そうか。ところで今行っているその業務には収入が発生してるよな?でも、君はバイト申請していないよな?折角、勉強して入学したのに一年も持たずに退学なんて、嫌だよな?両親泣くよな?」

 思わず「ぐう」の音が出てしまった。


 東陵高校はそれなりの進学校でもあるため基本的には勉学重視、その次に部活動などが重視されている。アルバイトなどに関しては申請が必須、ただし誰でも受理されるわけではない。

 家庭環境とか、学力とか。将来の貯金とか遊ぶお金目的ではまず受理されない。ちなみに社会経験だとしても受理されないらしい。


 そういった敷居の高さと俺の行っているネットを介した、雇用されない働き方なんかが通るとは思えず申請せずリスクを負って働いている。その事を偶然、後藤先生にバレてしまったため俺はこの人を無視できない。


「ちなみに何部に入れって話なんですか?」

 誠に遺憾ながら望まれる部活動について聞いてみると、ウキウキでパソコンをこちらに向けてきた。


「チラシ?」

「ああ、よく見たまえ」

「下手くそなレイアウトだな」

「そこじゃない!部活名だ!」


 あまりにお粗末なレイアウトだったこともあり部活名に目がいかなかった。文字の大きさとかも考えられていないから部が強調されていないのでチラシが悪いな、と内心思いつつ『よろず商業部』という文字を見つけた。


「ガチで何部なのこれ」

「まあ、所謂…何でも屋みたいなもんだな」

「それ、俺がやる意味あるんですか」

「意味か、意味ならある。何より適任だと思うんだよな」


「適任?」

「ああ。部として行っているのは君が今やってる仕事と酷似してるものでな、依頼者には金の代わりに対価として校内の奉仕活動を命じている。詳しい仕組みとかは部長にでも聞くといい」

「まだ、入部するとは言ってないが?」


「もう、入部届は受理されてる。それと、ここが部室になるからよろしくな」

「そんなことしていいのか。てか、元ある部室を使ってくれ」

「新設された部だからな。空き部屋がここしかないんだ」


 なんで、勝手に話が進んでるんだと思いながらも納期が迫っていたタスクを全て終えることができたので、表題について本格的に討論してやろうと思ったその時、文化祭とは無縁であるはずのこの教室のドアが開いた。


「失礼します」

お読みいただきありがとうございます!

本日は連載開始ということで【全5話】を30分毎に投稿いたします!


理人のひねくれた(?)青春が、ここからどう転がっていくのか。

この後、以下のスケジュールで更新していきます。


第2話:18:30

第3話:19:00

第4話:19:30

第5話:20:00


もし「続きが気になる!」「理人の屁理屈、嫌いじゃない」と思っていただけましたら

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よろしくお願いいたします。

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