6転換―――エンディオ・レイトンの場合
何が俺、エンディオ・レイトンの運命を変えたかと、深く考えてみると、やはり、認めたくはないのだが、彼女との出会いが大きかったのだと思う。
「エンディオ様。少しでいいので、私の話を聞いてくださいませんか?」
「断る」
イリーナ・サーシェス。
鍛錬場に向かう道中の道で遭遇した彼女を、忙しいので失せろと追い払った。それも1度では無い。ココ最近毎日のように遭遇するのだ。鬱陶しい。
舞踏会シーズンで王都に居るしばらくの期間だけ、騎士たちの指導をして欲しいという嘆願の元、エンディオは、王都の騎士の鍛錬場に足を運んでいた。
エンディオは、確かに一騎当千の騎士であったが、それもそのはず。エンディオにはレイトン公爵家が保有するドラゴンの聖印持ちであるというアドバンテージがあった。
ドラゴンの聖印は、保有者の身体能力を人並み外れたレベルまではね上げるというもので、エンディオが、国有数の騎士と評されるのはその聖印の力が大きかった。
もちろん、周囲に舐められないために、自身の研鑽は欠かさなかったがために自身が自他ともに認める最強の騎士であるという自信はあった。
が、やはりドラゴンの聖印を持っているのだから当然であるといった周囲からの期待や妬みは避けられるものではなく、また、それに伴ってか何故か異性からの過度なアプローチを受けることが多々あった。
まぁ、公爵家で結婚適齢の23歳、婚約者もなく、印持ちで最強の騎士という肩書きだけ見たら、まぁ年頃の女性にとっては格好の獲物になりうるだろう。
最近はイリーナ・サーシェスだ。ココ最近は毎日のように手紙が送られてくるので、読まずに燃やすようにしている。
「ごきげんよう。エンディオ様。少し……」
「断る」
今日もやってきた彼女はこれでもかというほどに着飾って何がそうさせるのか自信に溢れた笑みを浮かべていた。
そして、いつものように黒髪と緑髪、金髪の少年を後ろに控えさせている。彼女の周りには子供の従者しかいないし、多くの婚約を蹴っているという話なので少年趣味なのではないかと噂されていたところにコレである。大方選択肢が無くなって半分ヤケになっての行動だろう。
「いい加減にしてくれないか。私は忙しいんだ」
こんな女に惚れて振り回されることになるだなんて、この頃の自分は全く想像していなかっただろう。