7
騎士団の鍛錬場を見渡せる観覧席でイリーナ率いる一行は騎士団の練習風景を眺めていた。
「ちっ。なかなか落ちないわねエンディオ様」
「なんか、最近主旨が変わってないか?俺の気のせい?」
ヒナツと同じ従僕見習いの服に身を包んだリーガルが、おやつに持たされたクッキーを頬張りながら少し痛いところを突いてきた。
結局リーガルは、交渉の末、イリーナの従僕見習いという立場に落ち着いた。それにはユミエルや、ヒナツといった、彼と似た境遇の少年がいるという点が大きかっただろう。
交渉はスムーズに進み、現在である。
「主旨は変わってないわ。私はあくまでリーガルのことをレイトン公爵家に知らせなければという、義務を全うしようとしているだけ。それ以上でも以下でもないしましては、あわよくばワンチャンあるかも?なんて全くこれっぽっちしか考えてないわ」
「そのこれっぽっちが表情に出すぎているせいで警戒されるのでは無いですか?お嬢様、劣等生のモノマネ下手すぎます」
「そうだぞ。俺は恋の駆け引き?とかよくわかんねーけど、近所のババアが、男ってのは控えめで無害そうな女に落ちやすいんだって言ってたぞ」
ズバリとさらに痛いところを突いてきたユミエルに、さらにリーガルが追い打ちをかける。
「でも、私だって最初はきちんと距離感を保った接触を測ろうとしたわよ」
そう。最初は本当にこんな当たり屋のような真似はしていなかったのだ。
礼節に乗っ取り、書面でリーガルのことをしたためて、1度話す機会が欲しいと、エンディオが現在滞在している屋敷に送ったのだ。その手紙が送られてから早1ヶ月、なんの音沙汰もなく、念の為レイトン公爵家の本邸に届くようにも手紙を送ってみたがこれまたなんの音沙汰もない。
一応、ドラゴンの聖印持ちであるリーガルの存在はレイトン公爵家に知らせない訳には行かなかったので仕方がなく、騎士団の鍛錬場に向かうエンディオとの接触を試みるようになったのだ。
「エンディオ様って女嫌いで有名な方だから、多分手紙なんかも見てくれてないのよねぇ」
どうしようかとため息をついていると、バシンっと大きな音がして訓練していた兵士の木刀が高く打ち上げられた。クルクルと回るそれはイリーナ達のいる欄干席の方に飛んできた。大きく頭上を通り過ぎるかと思われた木刀は、なんの障害もなさそうに跳ね上がったリーガルがパシリと受け止めてしまった。
どよっと階下の鍛錬場からも驚愕の声があがる。
そう、それは、普通の人間の身体能力ではありえない跳躍力だったから。
「ってかさ」
木刀をクルクルと回すリーガルは、イリーナの方を見ずにまっすぐ獲物を捉える。
「興味を持たせればいーんじゃん」
「リーガル!」
止める前にはダンっと観覧席からリーガルは飛び降りていた、危なげもなく着地した彼はまっすぐありえない速さでエンディオに飛びかかって行った。
通常なら反応できないような速度だったろうが、相手は同じドラゴンの印付き、エンディオ・レイトンである、かろうじてリーガルの剣を受けると、ドォンと、2人の間に砂埃が舞う。
遠目で地面が若干えぐれたのが分かった。
「コラコラコラコラ!バカ、加減なさい!!ヒ、ヒナツ、止めて!」
「え、でも……2人とも素手じゃさすがにつづかないんじゃない?」
「えっ」
言われてよく見ると木刀が破裂していたのだ。よってふたりは分かりやすく距離を取った。
―――
一方、エンディオに飛びかかったリーガルは地面をかなりえぐってしまった事を嘆いていた。
「あーやりすぎちゃった」
「お前、何者だ」
親戚かもしれないからとイリーナに言い聞かされてきたエンディオ・レイトンは、間近で見ると確かにリーガルと風貌が似ているような気がしなくもなかった。一見しただけでも、黒髪と深紅の瞳という共通点はあるが、その上で顔立ちも似ているような気がするのだ。
「俺が何者か知りたかったらお嬢様の話聞いてあげてよ。今の俺の保護者で、あんたに絡む理由も俺のことだから……多分」
エンディオはリーガル越しに背後の観覧席にいるイリーナを目にとめ顔をしかめる。
「じゃ、失礼しました。あ、木刀の破損の補填に関してはサーシェス辺境伯家によろしく」
タンッタンッとかなりの高さのある欄干まで跳ね上がったリーガルをイリーナは怒るでもなく迎え入れてくれた。
そしてまっすぐエンディオを見つめ淑女の礼をとって見せた。
ヒナツとユミエルが背後で従者の礼を取ったのでぎこちないながらもリーガルも合わせる。
「行きましょうか。ここは引き際よ」
「コレで大分興味湧いたんじゃない?」
「バカ。でもお手柄よリーガル」
正直もっと怒られるかもしれないと思っていたが、イリーナはリーガルを撫でながら褒めてくれた。




