49(sideエンディオ)
「今日はイリーナ嬢は来ていないのか」
「うん今日は俺一人だよ。何?気になるの?」
「いつも強引に来ているのにと不思議に思っただけだ」
いつもなら「こんにちはエンディオ様」などと言って当たり前のようにリーガルの隣に居るのに、今日はその挨拶がなかった。居て当然が当たり前のようになっており、来なくていいとは言っていたものの、いざ居なくなられると違和感がある。
カンっカンっといつものようにリーガルと剣を打ち合う。ミスリルの刃同士がぶつかり合う音は透き通っており、エンディオがある程度力を入れても簡単に弾き飛ばされないリーガルは良い鍛錬相手だった。
「やはりあの帝国の男が気に入ったのか?」
半月前のパーティで紫髪の男と踊るイリーナを思い出す。その姿は優雅で、踊りながら楽しそうに男と語らっていた。
イリーナは美人だ。その気になれば恋人を作るなど造作もないだろう。
リーガルはその低めの身長を活かして対応しづらい下方向からの攻撃を仕掛けてくる。刃を受け止めながら数歩下がった。
「メディルス様の事?あーうん確かに見ようによってはそうなってくるかも……」
リーガルがあの男の事を知っているということは、メディルス・サレンがイリーナの元に通っているという噂もあながち嘘では無いのだろう。どこからかそんな噂を聞きつけたナテラが悲鳴を上げながら手紙をかけだのもう一度外に出る約束をしろだのうるさかったのはつい最近の話だ。
剣技の隙をついてリーガルが懐に飛び込んでくる。かろうじてかわしたが、すぃっと服の端が切れてしまった。
「でも今回お嬢様が来なかったのはただの風邪だよ。師匠にもくれぐれもよろしくだって。よかったね」
なぜかイラッとしたので、ガンっとリーガルの剣を打ち付け、弾き飛ばす。リーガルはバランスを崩し飛んでってしまった。
「いってー!」
「修行がたらん!」
「今のぜってー八つ当たりじゃん!図星だったんだー!」
「何を訳の分からんことを叫んでいる?」
それからしばらく打ち合いをして、休憩の時間になったが、いつもうるさく話しかけてくる女がいなくなると若干……ほんの少しだが寂しさを覚える。
エンディオはイリーナとの会話は100歩譲って不快ではないと感じていたし、イリーナが持ってくる話題はエンディオにとって有用なものばかりだった。女性嫌いのエンディオが女性ならではの情報網からの話を聴けるのはこの場くらいのものだった。
「この時期は季節の変わり目?とかでお嬢様よく風邪ひいちゃうらしいんだ。エディ様もジル様も風邪気味でうちは今大変なんだよ」
「そうなのか」
「そー。家族揃って弱いみたい。毎年の事なんだって」
「イリーナ嬢も風邪をひく事があるのだな。バカは何とやらというのに」
「お嬢様はちょっと頭クルクルパーなだけでバカではないだろ」
「同じようなことではないか」
従者に、頭クルクルパーなどと言われているイリーナに同情すると共に妙に納得してしまう。彼女は突拍子もないことを言い始めることがよくあった。
「あーあ、風邪で辛いのにバカだなんて言われて可哀想なお嬢様〜。お嬢様のことだから師匠から一言あったら飛んで喜ぶと思うんだけどな〜」
あ〜あとリーガルは行儀悪く椅子をギコギコと傾け、サッとナテラがメッセージカードと万年筆を渡してきた。
(なんだこの連携の良さは!)
エンディオは半ばキレながら万年筆の蓋を開けるのだった。




