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翌日、エディは早速現場に向かったようだ。
イリーナも着いていこうかと提案したが、今回はエディに来た仕事だからと断られた。
「姉様は観光しに着いてきただけってことになってますから、ゆっくり観光でもしていてください」
との事だ。ならまぁお言葉に甘えて観光に行こうかということで現在である。
「我が領は花の街と言われる程に自然と街が調和した街並みとなっております。イリーナ様にも楽しんでいただけると思いますわ」
そう言うのはルートン伯爵夫人だ。恰幅の良かった伯爵に対して、ルートン伯爵夫人はひょろりと背が高く痩せ型の女性だ。
夫人は回ると良いおすすめスポットをいくつも教えてくれた。
お礼を言って出かけようとすると、慌ててもう一度呼び止められる。
「イリーナ様、護衛をお付けしますので少々お待ちください。お客様に何かあっては事ですので」
あぁそうかとイリーナはついいつもと同じように皆だけを連れて出ようとしたことに気づく。
(本当は必要ないんだけれど、ご好意を無駄にすることもできないわ)
しばらくすると2人の騎士が護衛としてイリーナに着くとやってきてくれたので、改めて出発するのだった。
「わぁ!さすが花の街ねどこもかしこも花で溢れているわ」
「お土産物も花に関するものが多いみたいですわ」
「おじょーさま!みたことないものがたあっくさんあります〜」
「待ってくださいヒナツ。あんまりはしゃぐとはなれますよ」
わぁあと目を輝かせたヒナツはパタパタと出店を見て回り、ユミエルがお兄さんらしく苦言を呈しながら追いかける。
リーガルはあまり興味が無いのかイリーナの後ろでに控えていた。
「イリーナ様。私お菓子の材料にこの地の物を買って使ってみたいです!珍しい香辛料が向こうにあって……!」
パティの好奇心もくすぐられたようだ。あっちこっちに分かれると危ないということでパティにはリーガルと一緒に行動するように言い含め別行動をとることにする。
「いいものがあったらこれで買ってきなさい。パティの作るお菓子は私もいつも楽しみにしているから。余ったらリーガルと何か食べてきていいわよ」
そう言って金貨を20枚パティに持たせると、ギョッとした様子ででリーガルが金貨袋をみた。
「うぇっ、なんか多くない?」
「いいのよ。パティにはこれで」
パティはいつもいい物を買ってくる。だからある程度なんでも買えるように多めに金銭を渡すのだ。
「失礼ですがイリーナ嬢。こちらの従者様の護衛として私が同行してもよろしいですか?」
「あぁ〜。じゃあ、お願いしようかしら」
護衛に着いてくれたルートン伯爵家の騎士の1人がそう申し出てくれたのでお受けする。パティもリーガルもほんの子供にしか見えない。いくら印持ちの優秀な子であるといえ大人の付き添いがあるに越したことはないのだ。
「ちぇ。護衛なんて俺一人で充分なのに」
「何言ってるの。荷物持ちは何人いたっていいんだから」
ぶつくさと文句を垂れるリーガルをパティが窘める。
3人を見送るとイリーナはミーチェと共にヒナツとユミエルの後を追った。
ヒナツは出店にしゃがみこんで珍しい形の陶器の置物の、花瓶だろうか、をキラキラとした目で見ていた。
背後でヒナツをみていたユミエルはこちらに気づくとキョロキョロと周りを見回す。
「リーガルとパティはどうしたんですか?護衛の方も一人見当たりませんが」
「大人数になるのも見回りにくいし、別行動してもらうことにしたの」
「そうですか」
「何かいいものはあった?」
「さぁ?でもヒナツは楽しそうです」
それからイリーナ達は花の街を観光して回った。
美味しいものを食べ歩き、エンディオや家族へのお土産物をみたり、色々と買ったりしながら過ごしているとあっという間に帰る時間がやってくる。
後ろ髪を引かれながらルートン伯爵家に帰ると、エディが自身の契約精霊である黒竜と白竜を肩に乗せ難しい顔をして待っていた。
「おかえりなさい姉様。観光はどうでしたか?」
「楽しかったけれど……そっちは何かあったの?」
エディは眉間に皺を寄せた。